「SPEEDA」「NewsPicks」を生んだ株式会社ユーザベース 稲垣 裕介Co-CEOが語る「経営者の素養」とは(第1話)

経済情報プラットフォーム「SPEEDA」、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」などを生み「誰もがビジネスを楽しめる世界」を目指す株式会社ユーザベース 。創業から15年を迎えた同社代表取締役 Co-CEO/CTO 稲垣 裕介氏に起業家の素養、事業シナジーなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤 紀行が聞いた。(全4話)

「思想を持つ」経営者になる唯一の方法

ーー稲垣Co-CEOにとって、経営者として重要な素養とは何でしょうか。

経営者とメンバーの一番の違いは何かというと、「思想を持っているか」どうかです。

思想とは、さまざまなシチュエーションやタイミングにおいて、何かの事柄に対して自分の意思を表明し、スタンスを取れるということ。これが結果的に会社として、また個人として、一貫性を持った意思決定・行動にも繋がります。

経営者が思想を持って発言するかどうかが、結果として会社のミッションやビジョンに繋がると言えるでしょう。

稲垣 裕介/1981年生まれ
大学卒業後、2004年アビームコンサルティング株式会社に入社。プロジェクト責任者として全社システム戦略の立案、金融機関の大規模データベースの設計、構築等に従事。2008年、新野良介氏、梅田優祐氏とともに株式会社ユーザベースを創業。2022年からCTOを兼任。現在に至る。

 

では思想を持つためにはどうすれば良いか。私は行動しかないと思っています。

ビジョンを掲げる、会社としてのスタンスを作るためには判断行動の連続が必要です。行動は、その人の意志によって形作られるものだと思います。

私自身、学生時代は何も思想がなく、少し特別でありたいとか、世の中の役に立ちたいとか、モテたいとか(笑)。純粋な欲求レベルのものですが、これらを思想に繋ぐものって行動しかないんですね。

そして行動を起こすためには、株式会社リクルートの創業者である江副浩正氏の「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という有名な言葉そのものだと思っていまして、基本的に人は「意志と外圧(ストレス)」によってしか変わらないと思っています。

とても難しいことですが、宣言だけでもしてしまうと、それが明確なプレッシャーとなって行動しなければいけない状況に変わると思います。例えば何かの団体に参加することや、何かの役職に就くことなど、機会や環境を創るということです。

周りに見える形で行動を積み重ねて、それを表明し、スタンスを保つこと。結果、その人の経験や知見が形成され、同じまたは類似する状況において判断ができるようになります。この連続性こそが思想に繋がると思います。

「意志と外圧(ストレス)」があれば行動せざるを得ないし、反対にそうしないとずっと行動することは難しい。
起業家としては当たり前のことですが、何もないところに突撃し、信頼もお金もない中で、0から何かを作り上げなければならない。コンフォートゾーンから出て、自分で機会を創り出し、行動する。

結果として「思想を持つ」ことが最も重要な経営者の素養だと思っています。

 

ーーご自身も最初は確固とした思想はなくて、だんだん行動や思いを重ねて確立されたということですね。

はい、、初めの方は漠然とエンジニアになりたいと思っていました。それがきっかけで、コンサルティングの会社に入社しました。

会社の収益の大半をERPの導入や様々なSIプロジェクトが占めていたエンジニアリングの重要性を実感しつつも、あくまでビジネスが優先、というコンサルティングファームならではのもどかしさも感じていました。

会社を作るときに「ビジネスとテクノロジーが真に並走する世界を作りたい」、どちらが上ということではなく、両者が全力でモノ作りにあたれる環境を目指したいと考えましたが、その思想は前職での原体験や行動の積み重ねから生まれたものです。

それが検証されて、より鋭い言葉になり、ユーザベースの方針が研ぎ澄まされてきたのです。

 

「チーム」と「エッジ」のバランス

ーー2つ目の素養としてはいかがお考えでしょうか?

「チーム」と「エッジ」のバランスです。

さまざまな経営者を見てきた中で、自分に明確な強みがない経営者は0から何かを立ち上げるのは難しい。どの点に一番重きを置いて取り組むべきかを明確にして最初の形を作らないといけないからです。それが「エッジ」というものです。

しかし、エッジ一つで物事が形になるかと言うと、必ずしもそうではありません。

プロダクトカンパニーを作るためには、物を作る人もいれば、営業する人もいますし、コンテンツを作る人も必要です。チームの組み合わせによって物事が形成されていくのです。

私たちの製品「SPEEDA」も最初は投資銀行やコンサルティングファームに対するものとして作られましたが、その世界とテクノロジーの世界はかなり離れています。それらが一緒になり、一緒に討論し、チームが組み合わさることで形になりました。

次に作られた「NewsPicks」という製品はメディアであるため、編集者やクリエイターなど全く異なる人々がまた新たにチームに参加しました。

彼らはエンジニアを「暗い部屋でウェブサイトを修正している人」と認識していたといっても過言ではないほど、メディアとテクノロジーの世界は離れていたと思います。しかし、一緒に物を作り始めると編集者が「我々が作ったコンテンツがテクノロジーによってこんな風にスマートフォン上に表示されるんだ」と感動しました。

全く異なるバックグラウンドを持つ職能が組み合わさった結果、価値のあるチームに発展できました。したがって、チームを組むことは非常に重要ですが、その前提として、我々が「異能は才能」というバリューを持っているように、各個人のエッジが明確でなければ組み合わせとしての価値は最大化されないと思います。

経営者は自分の「エッジ」を活かして先陣を切って行動すること。そして、各個人の「エッジ」が輝く方向にマネジメントできる「チーム」を作っていくことが重要だと考えています。

 

ーー経営者自身の尖った能力が高すぎると、部下を下に見て強く言ってしまうこともあるかと思います。そのバランスはどうとられているのでしょうか。

「異能は才能」が言い得て妙だなと思うのは、異能とは自分が理解できない能力だと思うんです。つまり、測定できない能力を「才能」と評価する。だから、「自分が優れている」と思うことは、その人の能力を正しく評価できていないということだと思うんですね。

それぞれの能力を理解し、そこから生まれる可能性をチームの仕組みに組み込むことが大切です。人を見下すことには意味がありません。

私たちは多様性ではなく「異能は才能」という言葉を掲げています。

自分には理解できない強いエッジをもったメンバーをリーダーとして引っ張れるかがリーダーには求められると思います。

タフな状況こそ「誠実」に

ーー3つ目の素養を挙げるとするとなんでしょうか?

誠実性です。

スタートアップには色々な方がいて、切り取られた表面的な綺麗なものもありますが、そんなに綺麗じゃない泥臭い側面もありますし、疑わしい人もいる。

その中でしっかりと自分たちの信念を持ち続けることが誠実性だと思います。

私たちだと「The 7 Values」と呼んでいるバリューがありますが、そのバリューがあるからこそ、そこに合わない人が一生懸命やればやるほど会社にとって悪い状況になることも可能性としてはあるはず。

例えば「オープンコミュニケーション」を大切にしていますが、これは異能同士が集まっているので、コミュニケーションコストをかけて話し合わないと互いが理解しあえないからです。

自分はよくしたいと思って一生懸命だけれど、お互いがわからないので結果として「あの人の発言ってなんなんだろう」と悪口になったり、悪い方向に行きがちです。おそらく通常の会社よりもオープンさを推し進めないと組織的に悪い方向にいくリスクがあるのです。

経営者が率先して「オープンコミュニケーション」といった信念に誠実であり続けることが重要です。

また、違った観点での誠実性は、ステークホルダーに対する誠実さです。何もない状況で色々な方に助けていただいたのを、常に大切に覚えていることです。

例えば、大阪で開催する大規模カンファレンス『WestShip 2023』は今年で5回目を迎え、行政や大企業などから1,500名以上が参加する大型イベントなのですが、最初は大阪に入っていくのがとても難しかったんです。

その一番最初の時に支援してくださった11人くらいの小さな会社があるのですが、その支援があったからこそ、今、イベントが花開いていると感謝しています。

なので大規模になった今回も一緒にやりましょうとお話をし、彼らのロゴも並いる大企業と一緒に掲載させ、恩返しを可能な限りしています。

スタートアップは支えてもらった恩だったり感謝を忘れてはいけないし、ステークホルダーの人が幸せになってない会社はだんだん去っていくはずです。色々なシーンで足元をすくわれている経営者を見るとすごくもったいない。

なので一貫したステークホルダーに対する「誠実性」は経営者にとって重要だと思います。

 

ーー誠実であろうと思った原体験などはございますか。

先ほどの「感謝を伝えてまた一緒にやる」という状況って、ただの楽しい場でタフさはありません。それよりも、誰かに降格を告げなければならないとか、退職を勧奨するとか、そういったタフな状況こそ経営者の誠実さが試されます。

例えば、役員としてのオファーを期待しているシニアの方に、役員として採用できないことを伝えた会食がありました。その場は感謝の意を示して友好的に終わり後で書面で伝える、ということもできたかもしれませんが、それでは不誠実だと思い少々無礼でもはっきりと伝えました。

もちろんその後、意思決定の意味を文面でも伝えさせていただきましたが、最も厳しいコミュニケーションの責任を取れないのは不誠実だと思います。

誠実性は、厳しい状況で一番試されるもの。責任を持つ人が、そういう一貫性を持つことが誠実さだと思います。

もちろん、その場で厳しいことを言われることはあるし、悲しい瞬間もあるでしょう。でも行動の一貫性が、結果として良い方向に進むと信じています。

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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