【第100回 記念インタビュー】株式会社Synspective 新井 元行 代表取締役CEOが語る「起業家に必要な3つの素養」(第1話)

「次世代の人々が地球を理解し、レジリエントな未来を実現するための新たなインフラをつくる」というミッションを掲げ、小型SAR衛星と関連システムの開発・製造・打上を通じた衛星コンステレーションの運用と、その取得データの販売・解析ソリューションを提供する株式会社Synspective。同社代表取締役CEO 新井 元行氏に、事業作りや組織構築、ファイナンスの要点などについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)

他人のために、命を使えるか。

ーー本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、当メディア恒例の質問なのですが、新井さんにとって、起業家として重要な素養を3つ挙げるとしたら何でしょうか。

まず一番大事なのは、深く考えすぎずに即座に行動に移せること。私はこれを「適度にバカであること」と呼んでいます。

2つ目は、想定外のことが起きても必要以上に悩まないこと。ある意味「適度に無責任」と言えますし、ポジティブに表現すれば、強靭な精神力とも言えます。

3つ目は、「自分以外のもののために時間を使う生き方ができること」だと考えています。

 

新井 元行/1978年生まれ
米系コンサルティングファームにて、 5 年間で 15 を超えるグローバル企業の新事業/技術戦略策定、企業統治および内部統制強化などに従事。
その後、東京大学での開発途上国の経済成⻑に寄与するエネルギーシステム構築の研究を経て、サウジアラビア、バングラデシュ、ラオス、カンボジア、ケニア、タンザニア、そして日本の被災地等のエネルギー・水・衛生・農業・リサイクルにおける社会課題を解決するプロジェクトに参画。衛星からの新たな情報によるイノベーションで持続可能な未来を作ることを目指し、2018 年に株式会社 Synspective を創業。

 

ーーそれぞれの素養について、詳しくお聞かせいただけますか。

まず「適度にバカであること」ですが、あまり深く考えすぎてしまうと、様々なリスクが見えてきて最初の一歩を踏み出せなくなってしまいます。

細かいところまで調べ尽くすのではなく、要点を腹落ちするまで調べられれば十分。実践しながら学んでいくことが大切で、その「適度に物を知らない行動力」が重要な1つ目の素養だと思います。

2つ目は、想定外のことへの対処法です。なぜうまくいかなかったのかを振り返ることは大切ですが、そこに固執しすぎると前に進めなくなってしまいます。

失敗は起こるものですので、切り替えて前に進むことが大切です。ひとりで悩むのではなく、周りの仲間と悩みを共有しながら、問題が深刻化する前にコントロールしていく姿勢は、重要な素養のひとつだと思います。

そして3つ目は、他者のために生きられるかということ。

多くのメディアで目にするように、起業家とは、独自の知見から生き馬の目を抜くような行動力で事業を立ち上げ、人生を賭けて大きな報酬を取りに行くものだというイメージがあります。

でも、私の考えは少し違います。自分のための目標に目を向けてしまうと、報酬や時間効率といった内容にばかり気を取られてしまい、「どんな悩みや問題にぶつかってもやり遂げる」という強い意志を持ち続けづらくなると思っています。

私の場合は、その目標を自分の中ではなく外に置いています。

例えば、私たちの会社では「次世代の人々が地球を理解し、レジリエントな未来を実現するための新たなインフラをつくる」というミッションを掲げています。

この目標は、自分のためどころか、自分たちの世代のためのものですらありません。次の世代の子どもたちや、その社会のために何が必要かを考え、それに向けて、私たち皆で命を削り活動したいと考えています。

 

ーー新井さんは、どのような原体験からこれらの素養を身につけられたのでしょうか。

これらの素養は、起業前に、フリーランスとして様々な国でソーシャルビジネスに携わってきた経験から生まれたものです。

1つ目と2つ目に関わる経験として、専門知識がない分野で、要点を理解しながら前進する経験を積めましたし、失敗しても悩まずに、素早く再挑戦する大切さも学んできました。

また、私も若い頃は、自分のキャリアのために悩み行動することもありましたが、その思考で何か目標を設定しても、短期的なものにしかなり得ません。

ライフワークとして長期的に手掛けるなら、より高次元で、グローバルな視点を持ち、自分のコントロールを超えた場所にゴールを置くことが重要だと気づきました。これが、3つ目に挙げた素養の原点になっています。

 

資金も人材も技術力も、必要なものは全て創業“後”に揃えた。

ーー1つ目の「深く考え過ぎず、まずは行動すべき」とは、スピードの重要性のことだと思います。よく「スタートアップとは、崖から飛び降りて、落下しながら飛行機を組み上げるようなもの」とも表現されますね。

そうですね。ただ私たちの場合は、白坂先生(慶應義塾大学大学院 教授)の「ImPACTプログラム(内閣府主導による革新的研究開発推進プログラム)」が元になっていて、技術的な基盤はありましたので、崖から飛び降りた時点で飛行機の骨組みくらいはできていました(笑)。

とはいえ衛星もまだできていない状態でしたので、会社を作って、色んな人に約束をして大きな金額を集めてからは、時間との勝負の積み重ねでした。

約2年で初号機の衛星を打ち上げ、そのバージョンアップ開発をしつつ、並行して衛星データを活用したソリューション事業も進めてきました。

今でこそ、ここ中央林間に大きな製造拠点を構えていますが、7年前の創業当時、古いシェアオフィスでポツンと事業を立ち上げた頃には、実はこんなイメージは全く持てていませんでした。

ファイナンスをして、人材を集めて、それによって技術力がつく。その繰り返しです。必要なものは全て、一つ一つ後から築き上げていきました。

 

限界の中で「今、自分は成長しているはずだ」と信じて乗り越える。

ーー2つ目の素養として挙げて頂いた、「悩みのコントロール方法」についても、もう少し詳しく聞かせて頂けますか。

私は身近な人に相談することを心がけています。

愚痴をこぼすのが特技なんです。時にはお酒の力を借りながら発散することもあります(笑)。

 

 

特に人間関係の問題は、直接話し合うことで解決できることが多いんです。悩んでいる時間がもったいないので、直接話をすることで、単に自分が邪推していただけだったと分かり、物事が前に進むことが多いと感じます。

一方で、技術的な課題など、やってみないと分からないような悩みのときは、コントロールできることにだけ集中して時間を使うようにしています。自分たちでできることは全てやり切りますが、それ以外のことからは頭を切り離し、悩まないようにしています。

また、これは20年ほど前、私がファーストキャリアとして入ったコンサルティングファームでの経験なのですが、当時、本当に厳しい、限界のストレス環境下で働いていたときに、「あ、おれ今、伸びてるな」と、自分の成長を実感できたんです。

それが私の中では一つの成功体験になっています。

悩んでいる時や困難に直面している時は、「今、自分は成長しているはずだ」と信じて乗り越えるようにしています。

 

ーー目標を自分の外部に置くという価値観は、どのようなきっかけで形成されたのでしょうか。

コンサルティングファームを辞め、大学院に入り直した時がきっかけです。

敢えて無職になって学び直すのは、当時の私にとってかなり大きなリスクでした。だからこそ、やるからには「自分の人生に意味を持たせるべきだ」という視点で、真剣に研究テーマを考えました。

結果として、サステナビリティを追求することこそが、私のバックグラウンドである工学と経済の知識を組み合わせて社会課題を解決できる点で、私の人生にとって最も意義のある取り組みだという結論に至りました。

27〜8歳の頃にこの考えに至ってからは、アフリカでのプロジェクトなどを通して、更にその思いを深めてきました。

これをやる中でなら、明日死んだとしても後悔しないだろう。

そういう思いで、人のために生きることを決め、今もライフワークとして続けています。

 

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