#起業家の素養
2016年4月にシンガポールで設立された広告テクノロジー会社・AnyMind Group。同社は、シリーズAラウンドで1200万ドルの資金を調達した後、設立後1年でタイやインドネシア、そして日本にまで続々と拠点を広げている注目株のベンチャー企業。今回は、そんなグローバル若手起業家の雄、AnyMind Group CEOの十河宏輔氏に急成長のポイントなどを聞いた。(全6話)
世界で共通して徹底される社としてのスタンダード
――9カ国に拠点を抱える中で、社員とはどのくらいの頻度でコミュニケーションをされていますか?
四半期に一度、”All Hands”という全社を集めた総会で、事業の方向性や社員一人一人が持つべき心構えについて口酸っぱく話すようにしています。
さきほど(第3話リンク)お話ししたように、「我々が真のグローバルカンパニーになるために、AnyMind Groupのスタンダードを持たなくてはならない」という話をよくしますね。
――約1年半で社員170名まで急拡大されていますが、採用で気を付けているポイントはありますか?
採用についても、「AnyMind Groupのスタンダードのマインドセットを持っている」もしくは「今後持てる可能性のある」候補者しか採用していません。そこは国に関わらず絶対譲れない部分なので、常に意識するようにしていますね。
(AnyMind Groupが掲げるマインドセットのスタンダード)
パフォーマンスが出ず、試用期間中に我々から採用をお断りするケースも中にはあります。ただ、社員の方から「辞めたい」と言われるミスマッチはほとんどなくて、170名中10名にも満たないくらいですね。
アジアは人材流動性が非常に高いマーケットにも関わらず、弊社は離職率が物凄く低いんです。これだけ短期間で大量に採用していると、離職率も上がってしまうとよく言われる中で、AnyMind Groupはミスマッチが少ない状態をキープできています。
何故これが出来ているかというと、採用の段階で、我々の方向性や会社のカルチャーを伝えるようにしているからだと思います。それがはっきりと伝わっているからこそ、しっかりマッチしている人が来てくれているのではないでしょうか。
カルチャーは創業者である私の与える要素も大きいので、私の面接でも、そういう話を私の口から直接するようにしています。
――人事部門の構成が気になります。
人事部はCEO直轄になっていて、私が直接見ています。
私の下にシニアマネージャーがいて、彼女が各国の人事部を統括しており、その下にさらに各国人事マネージャーがついている、という感じです。
今度、日本の人事部も含めた全拠点の人事部合宿があるんですが、そこでは「『2018年末までに社員を400名に増やす』という目標のために、どういう戦略を各国がやっていくか、どういう人材を採用していく必要があるか」を確認する予定です。
人を大量採用していく中でも、人材の質は高水準に保ちたいので、人事部の意識をしっかり揃えていかなければいけないと考えています。
弊社の人事テーマは「攻めの人事」です。
人材募集をかけて応募を待つ、というのではなく、自ら候補者になりそうな人材に会いに行ったり、イベントを開催して様々な業界から人を集めて採用に繋げたり。この姿勢が、短期間に質の高い人材を大量採用できたポイントかと思います。
――給与体系や昇給に関してはどういうシステムを作っておられますか?
東南アジアでいうとあまり差がないのですが、各国のマーケットに合わせて、ある程度のスタンダードを作っています。
ただ、弊社の平均の給料は、現地の他の大手企業やスタートアップに比べても比較的高いと思います。パフォーマンスレビューも半年に1回やっていて、実力に応じてすぐ昇給できるシステムを構築しています。
たとえば、タイでは、最初月給1000ドルからスタートしたにもかかわらず、1、2年後には月給3000ドルになった社員もいます。弱冠22、3歳で、です。
――どういう視点でパフォーマンスを評価されていますか?拠点が多いと、パフォーマンスの高さを正しく判断できないのではないか、という懸念もあると思います。
弊社はビジネスモデルの構造的にも、成果が数字として明確に出るので、あまり問題なく客観的に評価することができています。
もちろんポジションによって数値面だけでは測れない部分もありますが、例を挙げるなら、人事部の場合でも、採用したメンバーがどれだけ成果を出しているかといった定量的成果によって評価が上がる仕組みにしています。
成長を促進する「競い合いの文化」の作り方
――グローバルな組織作りにおける悩みや、心がけていることはありますか?
これだけ人を大量に採用しているので、社員同士がまだまだうまく協力できず、個の力は強いけれど組織として強くなるには時間がかかる、というケースや、事業のスピードに採用が追いついていないというケースもあります。問題は常に、国ごとにたくさん生じてはいますね。
ただ、その中でも、AnyMind Groupでは「競い合いの文化」を大事にしています。
9カ国展開しているので、一国がうまくいっていれば、そのビジネスモデルがワークしているというのは証明されているんですよね。ですから、他の国でうまくいかない理由がない。
各国のカントリーマネージャーとのミーティングは週に1回行い、各国の売上ランキングを出して、数字の状況に応じて情報のシェアやアップデートをしています。拠点間の横のつながりを大事にしている訳です。サッカーのW杯予選を毎週アジアでやっているイメージですね(笑)。
また、組織作りで心がけていることとして、状況に応じて遠隔でのコミュニケーションと対面でのコミュニケーションを使い分けています。
例えばマネージャーに昇進する人との会食といったお祝いの場面では、直に会って話すことを大切にしていますね。「社員をマネージャーにする」というのは、会社にとっても私にとってもそれだけ重要なことだというのを伝えたいですから。
どれだけ期待しているのかといった想いや、今後の会社の方向性といったことはしっかり伝えて理解してもらう必要があるので、そういったシチュエーションでは対面でのコミュニケーションを重視しています。
>第5話「打倒アリババ、テンセント。AnyMind Groupの果てしない野望」に続く
>第3話「真のグローバルカンパニーが持つべき基準とは」に戻る
>AnyMind Group公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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