22歳女性起業家「ハヤカワ五味」が語る、起業家に必要な素養 ウツワ稲勝栞社長(第1話)

若い女性から圧倒的な支持を得るアパレルブランドを展開するファッションデザイナー「ハヤカワ五味」こと稲勝栞。若手女性起業家の彼女が創業から丸4年を経て得た、起業家としての素養、ブランドの育て方などについて聞いた。(全3話)

「顧客視点」不足に気づいた、創業初期の原体験

——まず、ハヤカワさんが事業を始められたきっかけをお教えください。

弊社では、胸が小さい人(シンデレラバスト)向けのランジェリーブランド『feast』、『feast secret』、細身向けワンピースブランド『Double Chaca』を中心としたアパレルブランドを展開しています。

まだ私が学生だった頃に、twitterで「Aカップ向けのブラがない」とつぶやいたら反響があったことが始まりのきっかけでした。試しにサンプルを手作りしてまたtwitterにアップしたところ、さらに話題になったことから、この事業はスタートしました。

最初はこの事業で食べていこうというつもりもなくて、手作りで全て作っていましたが、弊社の商品を本当に必要としてくださる方々がどんどんと増え、結果的に2015年に法人化し、今に至ります。ずっとネット通販のみでやってきたのですが、今年はラフォーレ原宿に店舗を初出店することもできました。

稲勝栞(ハヤカワ五味)/1995年生まれ。多摩美術大学在学中にバストが小さい人向けのランジェリーブランド「feast」を立ち上げ、2015年に 課題解決型アパレルブランド 株式会社ウツワを起業。創業1年で年商3,000万円を突破し、2018年にはラフォーレ原宿に常設型店舗「LAVI SHOP」の出店も果たす。SNSやブログでは若い女性を中心に多くのファンを抱える。

 

——起業家にとって重要な素養を3つ挙げるとすれば何でしょうか?

1つ目は、「徹底した顧客視点」。自分の都合のいいように考えるのではなく、あくまで一般消費者目線を持ち続けることが重要です。

2つ目は、「ユーザー・クリエイター・経営者」の三者の視点をバランスよく考え、パフォーマンスを最大化する力。どれかに偏ってしまうと、事業は上手くいきません。

3つ目は、「誠実であること」。誠実であるからこそ、大変な時でも協力してくれる人が出てきてくれるのだと思います。

 

——1つ目の「顧客視点」が大切だと思われた原体験はございますか?

一般的に起業時は、「完成度にこだわらず、なるべく早く市場に出してPDCAした方が早い」と言われていますが、私自身も、創業時の商品は、今に比べるとクオリティが高かったとは言えない状態だったと思います。

しかし、ブランドを丸4年続けてみて気づかされるのは、人は最初に嫌な経験をすると、何年経ってもその悪いイメージを引きずってしまうということ。最初の商品クオリティのイメージが、いまでもビジネス的に機会損失になっていると感じています。

創業間もなく力不足だったとはいえ、「顧客視点」が足りていなかった、お客様に不誠実だったなと後悔しています。

顧客をポジティブにさせるための「思考のバランス」

——「顧客視点」を持つためにどのような工夫をされていますでしょうか?

私の場合はtwitterのエゴサーチですね。息をするようにエゴサーチしてます。(笑)ネガティブな意見は、直接お客様から上がってきづらいものです。その点、twitterはお客様のネガティブな意見も含めて、素直な感想をダイレクトに拾うことができます。

もちろん、すべての課題を解決できるわけではないですし、ネガティブな意見を見ることは楽なことではありません。ただ、一番経営者として怖いのは「改善点が無い」状態です。手詰まりで首が締まっていくのを待つのが一番怖いです。そのため、お客様の意見をとにかく拾い、改善点の選択肢を増やしていくことに意味があると思っています。選択肢さえあれば、あとは優先順位をつけていけば良いですから。

 

——優先順位をつける際に意識されていることはありますでしょうか?

ユーザーからみて、「変わった感」が一番出ることを、利益とバランスさせながら実行するようにしています。

例えば、今年のゴールデンウィークに値上げを実施したのですが、それと同時に、ブランドの写真やクリエイティブの質を一気に上げることをしました。そうやってタイミングを合わせることで、ユーザーにとってはコスパがよくなったように見えて、ポジティブな印象を与えることができます。

このように、経営視点で、妥当な価格設定をすることや、原価を下げるために工場を開拓するといった活動はやりつつも、常にユーザーから見てポジティブな影響を与えることを意識しています。

 

——2つ目の素養であるバランス感はどういう場面で重要なのでしょうか?

弊社の商品開発やサービスにおける哲学は、ハイエンドな商品にはまだ価格的に手が出せない若い方にも、ハイエンドブランド並みの体験を味わってもらいたいということです。若い頃からよりいいものを知って、よりいいものを先取りできるようなブランドでありたい。それを実現する上では、商品がユーザーの手に届かなくては意味がありません。なので、価格でこれ以上は譲れないという線引きはしています。

良いクリエイターは「常に100%の商品を作りたい」と思うものですが、「最後の1%の質を上げるためには、価格を5,000円上げないといけない」ということがアパレルでは良く起こります。そこの1%をユーザーの手に届く商品にするために妥協する判断を下す一方で、クリエイターにもその妥協を納得してもらうことも、経営者の重要な仕事だと思っています。

私は元々クリエイター上がりの人間なので、妥協の中にも「ここからは譲れない」という美学を持ちながら、会社経営とバランスよく考えることを気をつけています。

「真面目、かつ、パフォーマー」であり続ける

——3つ目の素養である「誠実であること」についてお聞かせください。

「真面目、かつ、パフォーマーであること」を私自身とても気をつけております。

ここまで継続してこれたのは、いろんな周りの方のサポートがあったからです。ラフォーレ原宿への出店も、うちの売上規模ではまだ妥当とは言い切れない中で、たくさんの協力があって実現することができました。これまで、ひとつひとつの期待に「誠実に」応えてきたからこそ、そうして協力してくださる方がいるのだと思っています。

さらに経営者として「誠実である」ためには、「結果を出す」ことも不可欠です。創業初期にクラウドファンディングで資金を集めたり、融資を受けたりしてここまでやってきていることもあり、「誠実に」「結果を出す」ことが、周囲の協力を得ることに重要なのだと実感しています。

 

 

>第2話「スマホネイティブ世代における、ファンの増やし方」に続く

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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