鈴木修の『スタートアップ組織人事塾』〜メンタリング編 〜 “幻想を打ち砕け“、急成長するガラパゴス社をメンタリング 第1話

「真摯に経営に向き合う起業家」に向き合い、資金面以外にも多面的な経営支援を提供することを特徴とするDIMENSION。その支援の一つが、DIMENSIONのパートナーによる「組織構築メンタリング」です。 今回は、DIMENSION出資先である株式会社ガラパゴス中平健太 代表取締役CEOに対して、DIMENSION取締役の鈴木修が実際に行ったメンタリングを、御二方に振り返っていただきながら、ガラパゴスがどのように組織改善に取り組んでいるのか、スタートアップで発生する組織課題とその乗り越え方について語っていただきました。(全4話)

目標に向かい全社で動くための“活きた組織図”づくり

DIMENSION NOTE編集長(以下、編集長):
今回の対談では当時のメンタリングの様子を振り返りながら、組織構築において参考となる示唆をお話しいただきます。それを記事や動画にして公開することで、スタートアップをはじめ、さまざまな企業の組織課題の解決に活かしていただきたいなと思っています。

 

編集長:
中平さん、鈴木さん、本日はよろしくお願いいたします。DIMENSIONは21年9月にガラパゴスさんにシリーズAでご出資させていただき、22年1月に初めて鈴木さんと中平さん他ガラパゴス経営陣と第1回目の「組織構築メンタリング」を実施しました。22年3月には第2回目も行っています。

さて、そもそもメンタリングを実施した最初のきっかけは「事業・組織拡大のスピードにマネージャーの育成が追いつかない」という課題をお聞きしたことでしたね。

 

ガラパゴス中平健太(以下、中平):
スタートアップって、フラットで階層のない組織づくりを目指しているのではないでしょうか。それがかっこいいというか。私が経営するガラパゴスも、まさにその通りでした。

ですが、社員数が半年でおよそ倍増するほどに人数が増え、一気に組織拡大が進むにつれて、フラットな組織に限界を感じ始めるタイミングがありました。そして私自身が強い限界感を感じ始めて半年くらい経ったタイミングで、第1回のメンタリングを迎えました。

階層構造にしなくてはならないことに納得はしていたし、実際に階層化もしてみたけれど、そうすると特にミドルマネジメント層が手薄な状態にあるな…と気付き始めた頃でした。

 

中平健太
株式会社ガラパゴス 代表取締役CEO
早稲田大学理工学部卒業後、インクス(現ソライズ)にて大手製造メーカーのプロセス改善コンサルティングに従事。その後2009年にガラパゴスを創業。100を超える大規模スマホアプリ開発を通して、デザイン産業のアナログな構造に起因するペインを痛感。ペイン解消に向けて、広告デザインを高品質・高速に制作するサービス「AIR Design」をリリース。ICC スタートアップ・カタパルト 準優勝、G-STARTUP 優秀賞、B-SKET DemoDay MVT(最優秀チーム)、JSSA 優秀賞、JAPAN STARTUP SELECTION 2021「ベスト経営チーム賞」受賞、Mizuho Innovation Award 受賞。

 

DIMENSION鈴木修(以下、鈴木):
まず一番はじめに、「全社組織図」を共有していただき、それとあわせて、社員のエンゲージメントサーベイのスコアも見せていただきましたね。

その両方を拝見した際に、たしかに全社組織図は階層構造にはなっている、トップマネジメントの兼務が多い、階層別にサーベイのスコアを見るとガラパゴス社のミドルマネジメントにあたるユニットリーダーの方々のスコアが顕著に低い、これらを見ると組織図の形ではなく「組織図の中身」に課題があるかもしれない、といった話をしました。

 

中平:
そうでしたね。まさに会社にとって重要なミドルマネジメントであるユニットリーダーのスコアが低く、それはなぜだろうと。

そこでスコアの見方の観点のお話もしていただきました。その中でもリスクがある層があるという。

 

鈴木:
そうなんです。私なりに、従業員サーベイのスコアを分類定義して、分析や解決を行うことが多々あります。

従業員サーベイの活用の仕方の詳細について今回は省きますが、あらためて少しだけポイントをお伝えしますね。

注意が必要なのは以下の層です。
・不満が顕在化している層(不満顕在層)
・良くも悪くも会社をフラットに見ている層(フラット層)

まず不満顕在層の解決に最速で着手することは当然ながら必須のことで、そしてその解決するという意味では、問題が顕在化している層は解決しやすいんです。

もちろん、顕在化された問題に逃げずにまっすぐに向き合う、時には徹底的にメンバーと対話し尽くす、というプロセスは体力的に、何より気持ち的にも大変ですけれども…方向とステップさえ間違えなければ解決はできます。

 

中平:
想像したくないくらいわかる気がします(笑)

 

鈴木:
そうですよね(笑)

そしてここからが本題のようなものではあるのですが、より重要度が高い課題で、解決難易度が高い課題は、フラット層なのです。

この層は放置しがち。「まあ大丈夫な層だよね」とか、「まずは不満顕在層が最優先だ」となって、いつの間にかフラット層の分析や解決への着手が遅くなる。遅くなると言うか、手付かずに放置されてしまう。

フラット層は、良くも悪くも会社を「客観的」に捉え、会社を「職場」としてそれ以上もそれ以下も期待していない状態であったりするので、他の会社に魅力的な何かを見つけると現職に心理的に引きずられることもなく、淡白に離職する可能性が高く、また会社や経営陣の行動・姿勢に疑問や不信感を持ち始めると、組織を瓦解させる人材になってしまうネガティブポテンシャルでもあるのはこの層です。

要は、いつリスクが顕在化するか時間軸の読めないリスク層、ということですね。この層に会社としては大事な縁の下の力持ち的な人材や屋台骨的な人材が実は多く、瓦解すると組織インパクトは甚大です。私は、従業員サーベイ関連のスコアを、例えばこのような見方でとらえています。

 

鈴木修
DIMENSION 取締役
大学在学時にITマーケティング領域で起業。事業譲渡後、株式会社インテリジェンスにて組織開発やコーポレートブランド構築に従事。2004年より株式会社サイバーエージェントにて人事部、社長室室長、関連会社社長、産学連携事業統括を歴任。2011年からはグリー株式会社のグローバル人材開発責任者を担う。2014年に株式会社SHIFTの取締役に就任し、海外赴任で現地子会社CEOとして会社立上げを行うなど、国内及び海外グループ会社全体を統括し利益創出・拡大に貢献。2019年、株式会社ミラティブのCHRO(最高人事責任者)に就任。2013年からは自身の会社であるTOMORROW COMPANY INC.を創業し、スタートアップへの投資及びIPO支援やIPO後の成長支援、上場企業の顧問や社外取締役を行っている。日本及び海外でのエンジェル投資の実績も多数。

 

中平:
そこで鈴木さんが、ミドルマネジメントのスコアを見ると、フラット層が多いねということと、さらに直球で問われたのが「そのミドルマネジメントの人たちは日々、気持ちよく意思決定できているの?」ということでしたね。

 

鈴木:
そうでしたね。ミドルマネジメント層のスコアに影響する要因は、自分の「意思決定の状態」が大きいんです。マネージャーになると「意思決定」が自分の重要の仕事と思うのは当然、ゆえに自分の「意思決定の状態」が良いか悪いかがスコアに大きく影響します。

ですので、「意思決定の状態」が良くないのかもしれないと思い、そのミドルマネジメントの人たちは日々日々、「気持ちよく意思決定できているの?」という問いをしてみました。

多くの会社の組織で、階層化をしてマネージャーという役職を置いてみたけれど、業務が増えただけで、そのマネージャーという階層に必要な権限、役割、責任、評価の設計ができてないケースが見られます。ガラパゴスさんはどうですか?という質問もさせていただきましたね。

ちなみに私は、権限、役割、責任、評価を階層構成4要素と呼んでいまして、これはまたの機会にお話ししますね。

 

中平:
確かに、当時は組織拡大直後のフェーズでもあり、なかなかできていませんでした。形はあっても、魂が込もっていない状態というか。

 

鈴木:
中平さんらしい表現ですね、魂(笑)。大事なところですよね、階層の「形と魂」。

私はそれを、「活きた組織図」と表現したりします。

組織が大きくなって階層化されると、例えば「抜擢人事」などが生まれますが、蓋を開けると役職名が付いても裁量もなければ責任も曖昧で、業務だけ増え責任とは別のプレッシャーばかりかけられる…といったように中身はほぼ何も変わらなかったり。組織問題の典型例です。

会社側の、マネージャーが増えれば牽引力や管理力やが向上するという思い。マネージャーになる側の、プレイヤーからマネージャーに昇格すればマネジメントの仕事ができるという思い。それは幻想です。

形だけではなく、「活きた組織図」になっていない限り、マネージャーが増えても何も変わらないどころか、逆に混乱を招くケースが多々あるのが組織の現実です。

 

目標に向かいメンバーが自発的に動くための"Why"の共有

編集長:
さて、1回目のメンタリングを経て、ガラパゴスさんとしてどのように組織変化を実践されていますか?何か一例をお聞かせいただけますでしょうか。

 

中平:
1回目のメンタリングでそのお話をいただいた後、まずはミドルマネージャーであるユニットリーダーの権限、役割、責任といった要素を意識するようになり、そこを定義し始めました。

そして、責任は何であるか、どんな権限があるか、丁寧に伝えるために、1on1の改善を始めました。

 

鈴木:
いいですね。綺麗に定義を文言化して示すことも大切ですが、メンバーがどう考えているかどう捉えているかを聞いた上で、マネジメントサイドが会社としての考えを伝えていくことで、認識のずれや相違が擦り合わさっていくというそのプロセス(1on1)自体が納得感の醸成にとても大切です。

1on1はしっくりくるまで時間もかかりますので、何よりも継続が成功への近道ですので、続けてみてくださいね。

 

中平:
ありがとうございます。継続しますね。

 

鈴木:
マネジメントとメンバーの対話の話になったので思い出しましたが、1回目のメンタリングで「私たちはコンサルティング業界出身の経営陣なので、定量的な目標を伝えたり物事を構造化して伝えたりするのは得意なのです。その伝え方で伝わっていないことはないと思うのですが、いまいちメンバーの納得度合いというか意欲度合いが分かりづらいと言うか…」とおっしゃってまいましたね。たしかに資料などを拝見しても、話の構造やKPIがとてもしっかり表現されているのが印象的でした。

 

中平:
そうなんです。でも、資料に潤いが無いというか、カサカサしているというか(笑)

 

鈴木:
それもまた中平さんらしい表現ですね(笑)

一例ですが、従業員サーベイのスコアが低い理由に、「自分のやりたいことと違う」といった声があるのはどんな組織でも共通なのですが、その根本理由はWhyの部分が経営側から伝わってないことだったりするんですよね。

「なぜそれを目指すのか?なぜそれを目標にするのか?」といったようなWhyを伝えると、同じ仕事内容でもその仕事の意義や価値が変わり仕事への取り組みが前向きになったり、何をやるかはさておき、とにかく会社と同じ方向に向かいたくなったりすることが多々あるのです。さらには、「それが目標に向かうならこのやり方がいいんじゃないか」と自発的にやり方を改善したり生み出したりする主体性が出てきたりもします。この状態になるメンバーが増えてくると、組織の実行力は格段に強力になりますね。

2次元の資料を作る際にもその点を意識し、その資料を作った人の想いや意図、時にはワガママが込もっていたら、その船、その”パワポに乗ってくれる”ようになるんです。綺麗な言葉や取り繕った言葉にする必要はありません、ありのままに。リーダーの私利私欲ではないピュアなワガママがWhyであることは往々にしてありますからね。

 

編集長:
中平さんは、Whyを伝えたほうがいいと鈴木さんに言われてどう感じました?

 

中平:
すぐにやらなくてはいけないと思ったし、これこそ経営陣の責任だと感じました。

ですのでメンタリング以降は、実際にWhyを伝えるのはもちろんのこと、” パワポに乗ってきてもらう”ために「資料の主語を相手にする」ことも大切にするようにしています。

「会社がなぜこれをやりたいかというとこういう理由があり、それが実現するとあなたにもこんなことが実現する」といったようなことです。

今はかなりそういった意識で資料にWhyを乗せ、相手を主語にした資料づくりをすることで、少しずつメンバーの意識も変わってきているように感じています。

 

鈴木:
相手を主語にした資料づくり、いいですね。

 

目標に向か強力にすう組織をる“ヒエラルキー”の本質

中平:
ちなみに鈴木さんに質問です。

先ほどスタートアップが「階層化したくない」と思いがちだと言ったのですが、逆に階層化せずに大成功した会社はあるのでしょうか?

 

鈴木:
例えばティール組織と呼ばれたりする組織ですよね。私が把握しいている限り形として中長期的に成立することは「実質無い」と思います。組織が小さいフェーズや短期的にであれば可能かなと。

念のためお伝えしますと、ティール組織のエッセンスには有益なところは沢山あると思っていますよ。

話しを戻すと、思考停止ワードだと思っています、「うちはフラットな組織なんで」って(笑)。

階層をつくらないこと、役職をつくらないこと、それが目的になっている。そんなことはないですよね。階層や役職をなくすことで実現したいなど、何か本当の目的があるはずなのです。

わかりやすいことで言うと、議論をトップダウンでは無く、みんなで意見を出して議論したいなど。

ですので、「何をフラットにしたいか」のWhatを明確にしないといけません。「階層を作るとフラットさが失われるから怖い」みたいな相談も結構あるのですが、言い方を変えて質問返しをすると、「それで失われるフラットとは何ですか?」。それに答えて言語化することが大切です。

「階層をなくせば意思決定が早くなる」、「階層をなくせば全員での議論が活発化する」、スタートアップがよく抱く幻想です。階層なくせばうまくいく、という階層を悪者にする思想(笑)

 

中平:
わかります、その幻想や思想(笑)

 

鈴木:
私はフラットという言葉が出たら、その言葉の意味を問うようにしていますし、根本的には、そもそも「フラット」という言葉が曖昧すぎるので、基本的には私からは使わないようにしています。

一定規模以上の組織では階層は必要不可欠であり、階層によって経営はより強化され効率的になります。階層によって生まれる弊害は階層の作り方が間違っているか、階層以外の根本的な何かに原因がある。私はそう考えています。

 

中平:
なるほど。もう少しその辺りをお聞きしたいです。

 

鈴木:
一つの例として、ヒエラルキーがあると、指示を受ける側が生まれて、受け身人材が多くなり、組織から主体性が失われる。これは間違った考え方です。

感覚値になりますが、能力的にも性格的にも、90%の人材は責任・役割・権限を決めてもらったほうが仕事がしやすく、一方で、10%はそういった責任や役割や権限を含めて方針や戦略を意思決定することが向いている人材ではないでしょうか。

ですので、主体的に意思決定する人と、その意思決定されたことを主体的に実行する人。それぞれ主体性の発揮しどころが違うのです。

ヒエラルキーで上位レイヤーがしっかりと戦略レベルで意思決定し、メンバーにそれをしっかりと伝える。それを受けたメンバーは主体的に実行を行う。ヒエラルキーがあるからこそ、「主体性の役割分担」ができ、組織全体の主体性総量が向上するのです。

ここで例えば、上位レイヤーが戦略意思の決定をクリアにしなかったり、それをしっかりメンバーに伝えなかったり、伝えたけれども、実行のディテールまで過剰にマイクロマネジメントをしたり。そういったことが個々の主体性を阻害し、組織全体の主体性総量を低下させます。結果的に、成果が出なくなり雰囲気も悪くなり「それはヒエラルキーのせいだ!」「ヒエラルキーをなくそう!」となる。そうではないのです。ヒエラルキー自体に問題があるのではなく、根本的にマネジメント手法に問題があるのです。

 

中平:
とてもわかりやすいです。本当にそうなんですよね。何をフラットにしたいのか、階層ではなく本質的な問題は何か、意識します。

メンバーに役割を設定するといったような話が出ましたが、1回目のメンタリングでは、「メンバーのWillを聴く」ことの重要性もお話しいただきましたよね。

その際に聞きそびれたのですが、これまでスタートアップからメガベンチャーまで様々な組織人事を見ていらっしゃったと思うのですが、「あなたのWillは何?」といったコミュニケーションはどうされていたのでしょうか?

 

鈴木:
よく言われるWill/Can/Must 、何がしたいか/何ができるか/何をやらないといけないか。その「順序」を大切にしながら対話していましたね。

当時でいえば、大前提としてビジネスですので、まずはチームの必達目標である「チームのMust」が最初にある。それを「個人のMust」に分解していく。その際には、「個人のCan」をふまえながら分解する。これを逆にたどると、チームの必達目標である「チームのMust」を増大化させるためには、人数を変えずに「個人のCan」を育成するか、新たに人材を採用して「個人のCan」を増やすか、になりますね。

まずはそれらが大前提であって、その次に「個人のWillとの重なり具合」の対話を必ず継続して行います。

この順序を大切にしていたように思います。順序を大切にしているということであって、決して「個人のWill」を軽視したり無視したりといったことではないで

「チームのMust」と「個人のWill」の重なり具合ができる限り高まる方向へ時間をかけてでも軌道をつくっていく。これをマネジメントとして一つの指針にしていました。

 

中平:
その順番と目標、大切ですね。

私たちはフィロソフィーに「プロセスとテクノロジーで人をよりヒトらしく」と掲げているくらい「人が大切」だと考えていますから、もちろん社員のことがとても大切です。かなり意識的に「個人のWill」を大切にする文化にしていきたいと思っています。

ですので「個人のWillと会社のMustをマージさせるのがマネージャーの仕事である」と定義し、それを成立させる手段としての1on1手法を、ユニットリーダーたちにレクチャーし、実施してもらいました。

1on1で聞くべきことの一つは「あなたの目指すこと、夢は何ですか」。それを知らずして、メンバー一人一人に中長期的にフィットする本質的な役割を設計することはできませんからね。

そういった活動をやり始めたのも、メンタリングで鈴木さんにアドバイスいただいたのがきっかけです。

 

次回、第2回メンタリング振り返りに続きます

 

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