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鈴木修の『スタートアップ組織人事塾』〜メンタリング編〜 “経営チームを定義せよ”、急成長するガラパゴス社をメンタリング 第2話
「真摯に経営に向き合う起業家」に向き合い、資金面以外にも多面的な経営支援を提供することを特徴とするDIMENSION。その支援の一つが、DIMENSIONのパートナーによる「組織構築メンタリング」です。 今回は、DIMENSION出資先である株式会社ガラパゴス中平健太 代表取締役CEOに対して、DIMENSION取締役の鈴木修が実際に行ったメンタリングを、御二方に振り返っていただきながら、ガラパゴスがどのように組織改善に取り組んでいるのか、スタートアップで発生する組織課題とその乗り越え方について語っていただきました。(全4話)
“社長の変化力”=“組織の変化力”
DIMENSION 編集長(以下、編集長):
22年1月の1回目のメンタリングを経て、22年3月に2回目を実施しました。2回目の時点ではどのような課題が発生していました?
中平:
当社の一つの事業には制作請負型の事業があります。そういった制作請負の仕事では、案件受注から納品までの工程において、どうしても納品に近い工程を担う部署に、様々な要因により皺寄せが発生し負荷が偏ってしまうことがあります。事業が成長すればするほど、案件が多くなれば多くなるほど、皺寄せが大きくなります。
そういった状態が進むと、目の前の仕事に追われてしまい、「Will」や「Why」が大切なことはわかっているけど…、という心理状態になってしまいます。
鈴木:
いわゆる「社内下請け構造」ですね。メンタリングの1回目は縦の「階層」にフォーカスしたケア、そして2回目「部署間」のケア。つまり縦と横のケアが必要になっている状態でしょうか。
中平:
まさに。
鈴木:
事業モデルに依存した課題で、組織が大きくなる上で構造的に出て来る課題ですよね。その課題を中平さんはどのように捉えましたか?
中平:
実は、昔はこういった課題に直面すると、よく目を背けたり先送りしてしまっていました。スタートアップあるあるの「売上成長で癒す」というパターン。ですが今回はそうではなく、課題に正面から向き合えているのが経営者として改善しているポイントかなと思っています。
鈴木:
その背景をもっと聞いてみたいのですが、なぜ向き合えるようになったのですか?
中平:
これまで経営者をやってきて、一番辛い出来事の一つが社員の大量離職でした。疲れ果てて去っていく社員の姿は、経営者にとって一番嫌な光景だと思います。
私たちも2018年頃に半年で社員の半分が辞めたことがあります。事業急成長を最優先する裏返しとしての組織の疲弊。あのステージの経営者の意思決定としては正しかったと思っていますが、やっぱり精神的にきつかったです。
だからこそもう嫌なんです。繰り返したくはない。
ですので、事業の急成長と組織コンディションの向上、これをなんとしても両軸で実現すべく、真っ直ぐに向き合う覚悟です。
鈴木:
中平さんがご経験されたその出来事はある種の地獄ですよね。でもそうやって失敗を糧に経営者が変化できるという社長の変化力は、すなわちダイレクトに組織の変化力に繋がるので素晴らしいことだと思います。
そういったことも踏まえて、社員の方々から「社長変わりましたね」って言われることはありますか?
中平:
この前、とあるマーケットでもトップクラスの方を幹部として会社にスカウトするタイミングがあったのですが、幹部クラスであるからこそ私とダイレクトに関わることが多いので、私とのミスマッチを起こしてはいけないと思い、幹部3人に「忖度なく俺のダメ出しを書いてその方に見せてあげてほしい」とお願いしたのです。
リクエストした通り忖度なくダメ出しを書いてくれました(笑)。その中に「中平は数年単位で驚くほど変化があります」と書いてありました。ですので、周りから見ても、良くも悪くもどんどん変わっているのかなと思います。
鈴木:
中平さんらしいリクエストですね(笑)。それができる経営者はすごいと思いますよ。そして、そのダメ出し公開の取り組み、効果が出そうですね。
中平:
私の組織の作り方はいわゆるハブアンドスポーク(もともとの意味は、大拠点に貨物を集中させ、各拠点に分散させていく輸送手法)だなと思っていて。
私の周りにマネージャーが7人くらい円陣を組んでいて、そのマネージャーの周りにはユニットリーダーが円陣を組んでいる。ヒエラルキー構造にはしつつ、エッセンスとしては同心円状に意志が広がっていくような組織を目指したいのです。
そのために、私の周りにいるマネージャー陣には私の課題や、もっと言うと悪い部分も含めてとことんさらけ出すように意識しています。
“経営チームの定義”を明確化する
鈴木:
まさに、経営者の強みや弱みが組織の強みにもなり弱みにもなる。経営者が組織のキャップを決めるというのはよく言われることですね。
経営者である中平さん自身の変化がポジティブに発生している次のステップとしては、中平さんの周りに円陣を組む経営チーム強化が重要になりますでしょうか。経営者のキャップと同じくらい重要なのが経営チームのキャップになりますしね。
中平:
まさにその通りだと思っていたところです。
鈴木:
そうしますと、何よりまずは経営チームの再定義。
もしかすると、そもそも定義が曖昧である可能性も高いので定義を明確化することからかもしれません。経営チームの定義が明確化されていないスタートアップは多いんですよね。
どのレイヤーを経営チームと呼び、どう定義付けするか。これができると、経営チームメンバーの自走力が高まり、より強いリーダーシップチームになると思います。
ガラパゴスはこの経営チームの定義付けの観点、状況はいかがですか?
中平:
ちょうどその点を試行錯誤しているところなのです。
現時点で考えているところまでの共有ですが、事業の「5年後の理想像」から逆算して今の組織のあるべき姿を考えるようにしています。そうすると圧倒的に不足しているのがあと数名の経営人材。
アントレプレナーシップを持ち一定規模の事業と組織でリーダーシップを発揮できる経営者素養のある人材が7人くらい必要なのですが、どう考えても足りない。外部からの採用か成長の仕組みをつくるか、そういったところも思案しはじめているところです。
鈴木:
私もよくメンタリングしている経営者と一緒に、事業の未来を描き、それを実現するための理想の組織図から理想のマネジメント人材像まで解像度を高める支援をしたりしています。
それを「未来組織図」づくり、と呼んでいます。
特に経営レベル人材は採用に相当な時間がかかるので、「このポジションはあの人がターゲットで、1年後に退職交渉を始めてもらって半年で退職、半年オンボーディングして2年後には綺麗に組織が回り始める」というくらいの解像度レベルで会話できるようにならなくてはいけないと思っています。
中平:
事業や組織の全体の、いわば設計図のようなものを描くことと、そこに必要な仲間を集めること。まさにそれが私の仕事だと思いますし、そこに時間が使えるようにならないと駄目だなと最近は強く感じています。
編集長:
その観点で思い出しましたが、2回目のメンタリングの際に、中平さんの話を聞いた鈴木さんが「ここの層の人材がまだまだ弱いですよね」と的確に言い当てていたのがすごく印象に残っています。
あの時、中平さんはどう感じましたか?
中平:
本当に、驚くほどの臨場感と解像度で我々組織のウィークポイントを突いてきて。なんでバレてるんだろう、動画でも撮られて見られているのかなと思いました(笑)
まずはそのびっくりがあり、もう一つ、鈴木さんが仮説で探り当ててくれたってことは、もしかすると他の会社でも見たことがある問題だということなのかなと。それはつまり「解法もある」ということなのでは?と思い、安心感もありました。
鈴木:
まずは問題が解ける可能性を感じていただけているんですね。
当然のことではあるのですが、問題発見はあくまでも手段であって、目的である成長のための問題解決につなげることが私のアドバイザーとしての一つの価値だと思っているので、そう捉えていただけるととても嬉しいですね。
スタートアップ経営者にとっての“メンタリングの価値“
編集長:
ところで、中平さんは組織に関して、鈴木さんのような外部人材を招いてメンタリングしてもらったのは初めてでしたか?
中平:
初めてでしたね。
経営者は外部人材の活用に対してハードルが高いと言いますか、率直に言いますと懐疑的なところもあると思うのです。私も実際にそうですし。
例えば、本に書いているような教科書的なことや一般的なことを言われてもスタートアップに存在する現実の問題は解決しないですし、そもそもスタートアップの生々しい経営を経験していないと対話すらできないと思ってしまいますので、経営者としては外部人材のコストをかけにくい部分だと思います。特に、組織人事という会社そのものの領域になるとなおさらです。
そういった思いがありながらも、実際にメンタリングを経験してみての感想としては、鈴木さんはスタートアップの実感値をもって生々しく対話ができ、先ほども言った通り解像度高く問題発見や問題解決のアドバイスがいただける。例えるなら「病名を的確に言い当て処方するお医者さん」。
スタートアップ経営者はどうしても自分でなんとかしようと考えてしまいますし、それは大切なことだとは思いますが、成長し続けるためにはそれだけではダメで、このようなメンタリングがあるのであればしっかりと「聞く耳」を持つことも必須であり重要なんだろうなと強く感じます。
鈴木:
メンタリングはおっしゃっていただいたような点もまさにそうですし、お互いの相性もありますし、経営者として選択するのはなかなか心理的ハードルが高いですよね。
私の場合、強烈なオーナーシップ型の会社、ミッションやカルチャー主導型の会社、徹底的なガバナンス重視型の会社、型など存在しないカオスステージの会社など、経験の振れ幅が広いという特徴はありますので、複眼的にメンタリングできるのが納得感を得やすいのかもしれない、と実感する時があります。
私のアドバイザーとしての一つの理想形は、私なりの定義付けなのですが「タイムマシン効果」を生み出すことにあるのです。私が過去に経験した経営における様々なハードシングス経験を伝え、そのハードシングスをスキップもしくはスピーディに乗り越えて成長を加速させてほしいなと思っています。
中平:
個人的には、逆に鈴木さんがわからなかったら誰がわかるのだろう?と思ったりもします(笑)
スタートアップは課題が山積みで、どれからどのように手をつけよう…という状態が常でもあるので「課題のセンターピン」を捉えることが重要だと思うのですが、そういったときに鈴木さんのような経験豊富な人に一緒にセンターピンを探してもらうことは本当に価値があります。特に組織課題は、様々な課題がこんがらがって影響しあっていますので、どこが根源かを探り当てることは至難の技なんです。あとは、気持ち的なところになりますが「大丈夫だよ」と後押ししてもらえるような感覚も有難いです。
鈴木:
最後のところ、私も同感です。経営者の方って課題は見えていることが多いんです。ですので、「どの課題がセンターピンか」の判断の伴走と後押し。
あとは見えないフリをしている問題を、ストレートに「見ましょうね。見ないとダメですよ」と声がけすること(笑)
編集長:
鈴木さんにDIMENSIONに参画いただいたのが2021年末頃で、投資先のメンタリングを本格的に始めていただいたのは2022年に入ってからなのですが、こういう取り組みは経営者にとって、とても価値がありそうですね。
中平:
100%価値あります。おかげさまで我々も本当に助かっています。とりあえず組織に違和感を感じたくらいで鈴木さんを呼んでしまう。これが最もコスパが高いんじゃないでしょうか(笑)
鈴木:
恐縮です(笑) これまではガラパゴスでは経営陣とメンタリングさせていただいたので、タイミングをみて人事の方とお話しさせていただくのも良いかもしれないですね。人事というポジションって経営と社員の双方を理解しなければいけないがゆえの悩みやストレスを抱えている可能性が高いので。
中平:
たしかに、現場メンタリングまで踏み込んでやっていただけるのでしたらさらに良いですね。鈴木さんは経営レイヤーから人事実務レイヤーまで経験されていますしね。
鈴木:
文化づくり、制度設計、採用、育成、労務管理など、人事の大変さは身をもって味わいました(笑)
是非、様々な観点から今後も一緒に組織課題を乗り越えていきましょう。
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