経営は「人に始まり人に終わる」 成長するスタートアップに共通するポイントとは 起業ノウハウ特別編 DIMENSION 社外取締役 和田洋一(前編)

「真摯に経営に向き合う起業家」に向き合い、資金面以外にも多面的な経営支援を提供することを特徴とするDIMENSION。今回は起業ノウハウ特別編として、これまで大企業の代表取締役を20年近く、現在はスタートアップや上場企業の取締役・社外取締役としても多くの企業の成長を見てきたDIMENSION社外取締役 兼 投資委員会メンバーのうちの1人である和田洋一に経営者として重要な素養、成長するスタートアップに共通する経営組織の構築方法や、経営指針について話を聞いた。(全2回)

経営の基本は「人に始まり人に終わる」

ーースタートアップ経営者に必要な素質はフェーズ(シード・アーリー・レイターなど)ごとにどういったものがあり、どういった風に変化していくのでしょうか?

どのフェーズにおいても経営は「人に始まり、人に終わる」ことだと認識しておくことが重要です。

創業者を起点に人が人を呼んで、人の間で作用が生まれます。そしてその作用を再現・定着させるためにルールが出来上がります。そして各ルールが会社全体で矛盾なく機能するように構造化した姿を組織といいます。組織は組織図のことではないのですね。

このように会社の成長は、創業者1人の状況から段階的に構造化していく過程と捉えられます。そもそも完成はありませんし、ある時点の仕上がりを前提にそれ以前の各フェーズがどの様であるべきかとか、このフェーズではこういった素養が必要ということは、事前にも一般的にも言えません。

そのうえで、起業家にとって共通して大切な素養は
・根拠のない自信を持っていること
・やりたいことが明確であること
・人を巻き込めること
・絶対に諦めないしぶとさを持っていること
・素直であること
の5つだと思っています。

段階ごとに取るべき戦略もその時点でおかれた環境も異なるでしょうが、これらの素養はどのフェーズにおいても重要なことです。

 

和田 洋一 / 1959年生まれ
東京大学法学部卒業。1984年、野村証券入社。2000年、株式会社スクウェア入社。2001年、同社代表取締役社長兼CEOに就任。2003年、エニックスと合併し株式会社スクウェア・エニックス(現・スクウェア・エニックス・ホールディングス)を発足。2003年~2013年、同社代表取締役社長を務める。社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)会長や、経団連の著作権部会長なども歴任。2016年藍綬褒章受章。社外取締役を務める上場企業は、株式会社オープンアップグループ、カバー株式会社、株式会社マイネット、ワンダープラネット株式会社、株式会社クラシコム。

 

ーー経営者はどういったことを意識すればよいでしょうか?

繰り返しですが、構造化し続けることが経営の本旨だと意識することは必須です。

同時に、リーダーとしてのコミュニケーション能力、すなわち「説明・説得・指示」する力を高めることを意識すべきです。当たり前ではありますが、言われないと人はわかりません。さらに、わかったことが行動に移せて初めて貢献になります。そこまで意識したコミュニケーションが実践できている経営者は意外と多くありません。

さらに、組織が大きくなると、経営陣から全社員に対してダイレクトに肉声を伝えられなくなります。内部、外部からのノイズが大きくなっていく環境で伝えきらなければなりません。

ノイズが入ってもきちんと届く経営陣のコミュニケーション能力、そして組織の一貫性、人的依存でない構造化された体制作りが必要です。

 

採用にはカルチャーの一致が不可欠

ーー組織が構造化され、完成した組織へと進化していく中で、どういった人材を採用していくべきとお考えでしょうか?

一般社員の採用においては、その候補者が当事者意識を持っているかどうかが重要です。

大企業のように組織がしっかり固まっていると、何の仕事をすればよいかはある程度決まっています。

一方、ほとんどのスタートアップでは、そういった枠組みがない中で社員一人一人が事業を推進していく必要があるので、経営陣以外のメンバーについても当事者意識を持っている方が好ましいでしょう。

また、取締役の採用においては、やりたいこと・カルチャーが一致していることが非常に重要です。

スタートアップによくある失敗例としては、ビジネスモデルが固まり始めると、履歴書上の経歴や能力の有無に偏った採用をしてしまうことです。

そういったメンバーがカルチャーフィットしていないにも関わらず、社内の重要なポジションに居続けると、組織内で徐々に歪みが生じます。

率直に言うと、素晴らしい経歴の人材が普通に仕事をこなすより、特筆したバックグラウンドはないかもしれないが、カルチャーフィットしている仲間が献身的に働く方が1.5~2倍、組織全体に貢献することは間違いないと思っています。

もちろん売上が数千億の大企業となると違うかもしれませんが、IPO前の段階ではカルチャーフィットし、お互い志が同じであるかどうかを重視して採用活動を進めることを強くおすすめします。

 

ーーカルチャーの不一致が起きた際にどういった対処をすると良いでしょうか?

カルチャーの不一致に対する根本的な治療法はないため、その場合は人の入れ替えしかないと考えています。

今までの経験から、その人自身が変わることは期待しない方がよいですね。

怖い話ですが、創業者が自身の判断で、経歴上は優秀そうな人を採用したが、そのメンバーがカルチャーフィットせず、成果も出せていないにもかかわらず、ポジションに居続けさせるケース。このような場合、深刻な組織崩壊に繋がります。

創業者としては、仲間と始めたベンチャーが成長していくと、次の段階に進むために創業期の中枢メンバーを入れ替えなければならないのではないかとの考えがよぎります。実際にVCの人達もそういう「助言」をしますからね。
そして心を鬼にして主要ポストは外部からの招聘としてしまう。創業メンバーを主要「ポスト」にしておく必要はありませんが、無理に入れ替えた結果、わざわざカルチャーを壊す意味はないですよね。

創業者が大切にすべきは、事業の成長であり、創業期から仲間・同志と共にしてきた意図の一貫性を保つことなのです。

 

社外取締役として第三者視点で経営のポイントを伝える

ーー和田さんはこれまでご自身が経営陣として携わってきた会社の他に、上場企業からスタートアップまで多くの企業において社外取締役を務めてこられましたが、効果的な取締役会の構成や運営について、お考えはありますでしょうか?

私個人の意見としてではありますが、IPO前のフェーズにおいては、取締役会よりも株主達との会話の方が重要で、社外取締役については必須でないと思っています。

ただし、社外取締役である必要はありませんが、創業者が定点観測してくれる人を外部に持つことは非常に大切だと考えています

特にスタートアップにとっては、どのハードシングスも初めてのことですし、今自分たちの置かれた状態がわからなくなってしまう経営者も多くいます。

定点観測をしてくれていれば、その人から「今の状態は改善した方が良いのではないか」とか「そこまで切羽詰まることはないんじゃないか」など、第三者目線での指摘をもらえます。

これは社内や取引先などからでは難しく、基本的に利害が絡まない外の人間が適任であり、私自身、社外取締役として関わるのはそういったケースがほとんどです。

 

ーー創業者を定点観測し、行動をガイドするにあたり、効果的なコミュニケーションの取り方などはありますでしょうか?

大前提として人間関係ができていること、そして創業者の方から社外取締役の就任依頼がない限り、社外取締役としての効果的なガイダンスは難しいと思っています。

組織のトップは、その重責に長く深くいればいるほど、心が閉じていきます。この人の意見なら聞きたいと本人が心から思わないと、何を聞いても肚に落ちないでしょうね。逆に肚に落とさず知識を得たいだけなら、定点観測してもらう必要はありません。

そんな中で創業者の方にお話をいただけるのは、私がベンチャーから大企業まで多くの企業体の経営経験があるからだと思います。

誰しも同じような躓き方をしますから予め察知したり、被害を被っても受け身を取る準備をしておこうということなのでしょうね。

実務の中で組織構築で苦労した経験や、売上が上がらない中でどのように試行錯誤して困難を乗り越えていったのかなどの実体験についての質問が多いので、一般論として特段意識しているコミュニケーションというのはありません。

 

ーー社外取締役という立場だから言えることや、意識されている行動や観点はありますでしょうか?

私は実際に20年以上、大手からベンチャーまで、経営者としての実務に携わってきました。そこで得られた知見を、お話する相手の現状を踏まえて応用展開することを大切にしています。

私が社外取締役として入る企業の多くでは社内チャットもオープンになっており、取締役だけでなく、メンバークラスともコミュニケーションを多く取り、会社経営する中で得てきたポイントや視点をできる限り伝えられる環境をセッティングしています
(実際にDIMENSIONにおいても、和田へのチャットはインターン生であってもいつでも会話・質問できる環境が整っています)

一般的な社外取締役というと、取締役会に出てコーポレートガバナンスなど、いわゆる「身だしなみ」の確認を行うだけで、私のような「全社課題以外」でのコミュニケーションを取る者は少ないでしょう。

もちろん通常の社外取締役としての役割も果たしますが、それ以外に、いかに具体的に踏み込んでいくかをウリにしています。

 

ーー和田さんのような方に社外取締役として参画いただきたいスタートアップは多くあるかと思います。和田さんがある会社の社外取締役として加わるかどうか、どういった観点を基にご判断されてますか?

基本的にはご縁です。ご縁があれば、お受けします。

ただ、上場会社やIPOを目指す会社であれば、現在就任している会社と決算期が被っている場合はお断りしています。株主総会の日程調整が困難になるためで、複数の会社の社外取締役を務めるうえで、自身でルール化していることです。

 

>後編「経営者は全てがぶっつけ本番 起業ノウハウ特別編 DIMENSION 社外取締役 和田洋一編」はこちら

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