基礎から学ぶ!起業の手順書 第5回 VCからの資金調達

はじめに

こんにちは。独立系ベンチャー投資ファンドDIMENSION家弓(かゆみ)と申します。

本コラムでは、起業からEXITの時間軸に沿って、事業推進の論点になり得るポイントを網羅的に紹介していきます。当連載を順番に読めば、検討すべき項目を抜け漏れなく把握できる、そんなコラムを想定しています。創業前の方は第1回から、起業済の方は会社のステージに合う回からご覧頂ければと思います。

私共のナレッジの活用によって、真摯な起業家精神と、正しい事業構想を持つ起業家のみなさまが、少しでも効率的に事業を推進されることを願っています。

第5回の本稿では、VC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達を成功させるポイントについてお伝えします。

VCから出資を受けることで、成長資金を確保できるだけでなく、経営支援やネットワーク提供といった伴走支援を得られるメリットがあります。一方で、株式を手放すことによる経営権の希薄化や、ハイリターンを求めるVCからの成長プレッシャーなど、起業家にとって覚悟すべき点も存在します。

起業家の皆さまが、本稿を通じて資金調達の全体像を把握し、自社に最適な戦略を描く一助となれば幸いです。

 

VCからの資金調達とは(概要と役割)

VCとは、成長が見込まれる未上場スタートアップに対し、出資という形でリスクマネーを提供する投資ファンドです。

VCは投資先企業の株式を取得し、事業成長による株価向上=キャピタルゲインを目指します。その際、単なる資金提供に留まらず、役員派遣や経営アドバイス、ネットワーク紹介などのハンズオン支援を行い、投資先の価値向上を後押しする点が大きな特徴です。

銀行融資と異なり返済義務がない資金調達手段ですが、その代わりに起業家は、株式希薄化や経営への一定の関与を受け入れる必要があります。

VCから資金を調達するメリットとして、必要資金の確保だけでなく、VCの持つ知見・人脈を活用できること、信用力が増すことで追加調達や採用が有利になることが挙げられます。特にプレシード〜シード期のスタートアップにとって、一定の経験を持つVCが株主につくことは心強い後ろ盾となるでしょう。

一方で、デメリット・注意点も存在します。代表的なのは、出資を受けることで創業者の持株比率が下がり、意思決定の自由度が減る点です。

また、投資契約の内容次第では、取締役派遣や重要事項の拒否権など、経営への関与が生じる場合があり、早期に成果を求められるプレッシャーもかかります(それが良い方向に作用する場合も勿論多くあります)。

こうした特徴を正しく理解し、VCからの出資が自社の成長戦略と合致するか慎重に見極めることが重要です。

なお、VCには独立系、金融機関系、事業会社系(CVC)、公共系など様々な種類があり、それぞれ投資スタンスや支援内容に違いがあります。

一般に独立系VCはIPOやM&Aでのキャピタルゲイン獲得を主目的とし、ハイリスク・ハイリターンな投資を行います。一方で事業会社系のCVCは戦略的シナジーを重視する傾向があり、投資後の協業や業務提携を期待して出資するケースもあります。

また最近では、海外有力VCが日本市場への投資を活発化させており(例:Khosla VenturesやNEAなど)、国内スタートアップにとって国際的な資金調達機会も広がりつつあります。

各VCの特性を理解し、自社に適した投資家を選ぶことが、良いパートナーシップ構築の第一歩となります。

 

資金調達のタイミングと、ラウンドの種類

スタートアップの資金調達は、会社の成長ステージに応じて段階(ラウンド)を踏んで行われます。一般的なラウンド区分と特徴は以下の通りです。

 

■プレシード
創業直後〜プロトタイプ開発段階。製品・サービスの構想検証や初期開発のための資金調達フェーズです。調達額は数百万円〜数千万円規模が多く、資金源は創業者の自己資金や知人・エンジェル投資家からの出資が中心となります。政府の助成金やコンテスト賞金を活用するケースも見られます。

■シード
製品開発やPMF検証の段階。調達額の目安は「開発・検証に必要な1〜2年分の資金」で、数千万円~数億円程度になるケースが一般的です。出資者はシード特化の独立系VCが主となります。
この段階では、常に有益な議論ができる投資家を選ぶことが重要です。株主は後で簡単に入れ替えできないため、IPOまで長く付き合えるパートナーか慎重に見極めましょう。

■シリーズA(アーリー)
一定のユーザーや売上が得られ、ビジネスモデルが形になり始めた段階です。PMF達成にメドが立ち、これから本格的に市場拡大・収益化を図るフェーズで、調達額も数億円規模に大きくなります。主に、経営体制強化やマーケティング投資、人材採用などスケールに向けた基盤作りに資金が充当されます。

■シリーズB(ミドル)
事業が軌道に乗り、さらなる成長加速や新規事業・海外展開を目指す段階です。調達額は数億円~数十億円にもなります。大規模なマーケティング投資に充当し、一気に事業規模を拡大するケースもあります。

■シリーズC以降(レイター)
上場やM&Aを見据えた最終成長フェーズで、調達額も数十億円以上の大型資金となるケースが多くあります。この段階になると、事業計画の精緻さや実績数値の力強さなど、投資家からより厳格な目線で成長性と収益性が問われるでしょう。

 

なお、各ラウンドのタイミング設定において肝心なのは、「事業が非連続な成長を遂げて不確実性が大きく低下した直後」に資金調達することです。投資家から見て事業の魅力度がピークになるタイミングで調達できれば、企業価値を高く評価してもらいやすく、結果的に希薄化を抑えられます。

逆に言えば、不確実性が高い段階で焦って資金調達に走ると、低い評価で大きな持分を渡すことになり、創業者利益を損なう恐れがあります。

また、資金繰りに余裕があるうちに次の調達準備を始めることも鉄則です。資金が心許ない状況で交渉すると足元を見られ、条件面で不利になる傾向があるためです。

資金調達は、将来を見据えた経営戦略そのものです。ラウンドごとの目的と調達額を事業計画に沿って明確に定め、常に次の調達タイミングを計画に織り込んでおくようにしましょう。

 

VCの投資判断のポイント(例)

VCとの協議へ臨むにあたり、投資家が重視するポイントを把握して準備することは極めて重要です。一般に、以下のような観点が投資判断の主な評価基準になります。

 

■市場(マーケット)
ターゲット市場の規模・成長性と、解決しようとしている課題の深刻さです。特にシード期では、解決すべき顧客課題が明確かつ切実であるか、起業家自身がその課題に強く共感し深く理解しているかが評価のポイントになります。

■プロダクト(製品・技術)
提供するソリューションの優位性と実現可能性です。VCは「その課題をどう解決するのか?」に強い関心を持っています。プロダクトの独自性や技術的優位性が明確で、競合には真似できない強み(いわゆる「不公平な優位性」)があるかを見極めようとします。

シード期であれば、完成度よりもProblem-Solution Fit(課題に対する解決策の適合)を重視し、小規模検証などでソリューション有効性を示せているかを確認します。

■チーム(起業家/経営チーム)
結局は「どんな人たちがこの事業を遂行するのか」が最大のポイントだ、とVCは口を揃えます。特に創業者については過去の実績や専門性を確認し、「なぜあなたならこの事業を成功させられるのか」を問う質疑が行われます。同じプランでも託せる人かどうか、創業者の資質が資金調達成否を大きく左右します。

■トラクション(実績指標)
顧客数・売上成長など、実績数値のデータは強力な説得材料です。繰り返し利用する顧客がいるか、成長曲線はどうか、収益モデルは回り始めているか。VCはこれらの客観指標をチェックしようとします。

事業内容によっては、チャーンレート(解約率)やLTV/CAC(顧客生涯価値と獲得コストの比)などのユニットエコノミクスも重視されます。ただしシード段階では実績が乏しいため、代わりに仮説の精度(ユーザー検証から得た学び)や、KPIの設定根拠などが問われます。

いずれにせよ、数字で語れる部分は積極的に数字で示しつつ、不足部分は「これからどんな検証を行うか」を論理立てて説明しましょう。

■競合優位性
既存競合や今後参入し得る競合に対して、どれだけ有利な立ち位置を築けるかも焦点です。「主要競合は誰で、それらに比べ自社サービスは何が優れているのか」を明確に示す必要があります。

単に違うだけでなく、他社が真似しにくい参入障壁があるかも問われるでしょう。例えば独自技術の知財やネットワーク効果、優秀な人材チームなど、模倣困難、かつ持続性のある強みをアピールできれば安心材料になります。

■事業計画と資本政策
資金使途の妥当性や株主構成も投資判断の重要事項です。調達したい金額とその使い道が明確で現実的か、成長ストーリーに沿った資金計画になっているかをVCは確認します。

また、これまでの株主構成もチェックされます。例えば創業者持株が著しく低すぎないか(将来のインセンティブに影響)、離脱した共同創業者が大株主のまま放置されていないか(経営の不安定要因)といった点です。

「この事業領域、このステージのスタートアップに、●億円~●億円出資し●%以上の株式を持つ」などの投資スコープ(バリュエーションレンジやチェックサイズ)を持つVCが殆どですので、自社がその範囲に収まっているかも意識しましょう。

 

以上のポイントは、ステージによって重みづけが異なります。シード期では「市場・課題への共感」「起業家チームの熱意と能力」「仮説の筋の良さ」が特に重視される一方、アーリー期以降は「実際のトラクション」「ビジネスモデルの収益性」「スケーラビリティ」が重きを占めます。

昨今の投資環境では、かつてほど「とにかくユーザー急成長」一辺倒の評価はされにくくなっています。むしろ持続的な成長率と資本効率の良さが重視される傾向で、「限られた資金で着実に成長できる堅実なビジネス」が高く評価されるようになりました。

VCも慎重になっており、高すぎるバーンレート(資金燃焼率)で突っ走るスタートアップより、堅実に財務管理された企業を優先する傾向があります。

起業家としては大きなビジョンを示しつつも、財務健全性やリスク管理についても説明できるとベターです。

 

次回に続きます

本稿一回分で書き切る予定のところ、想定外にボリュームの多い内容となってしまったため、ここで一度区切らせて頂きます。次回は、実際にピッチを行う際のポイントについて記載する予定です。

数多くのVCが立ち上がっている昨今、起業家の皆さんは、VCとの協議の機会を得やすくなってきているのではと思います。一方で、VC担当者のレベル感にはバラつきがあることも事実です。

起業家の皆さまには是非、(VCの主張を一定は受け入れつつも、)ご自身の描いたストーリーを信じ、真っすぐに突き進んでいただけたらと思います。資金調達の際には、なるべく多くのVCと議論を重ね、その道程を共に歩みたいと思えるような方を見つけ出しましょう。

DIMENSIONでは、スタートアップの皆様からのご相談をお待ちしております。

いつでもお気軽に、弊社メンバーまでご連絡下さい。

 

>第1回「基礎から学ぶ!起業の手順書 第1回 会社設立の手順

>第2回「基礎から学ぶ!起業の手順書 第2回 創業時の仲間集め

>第3回「基礎から学ぶ!起業の手順書 第3回 事業計画の作成

>第4回「基礎から学ぶ!起業の手順書 第4回 資本政策の策定

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