#インタビュー
「日本の工場から、世界一流のブランドを作る」というビジョンに基づき、山田紙自らが直接足を運んで厳選した工場と顧客とを直接繋ぐファッションブランド「ファクトリエ」。同ブランドを生み出し、ものづくりのあり方を変えようとするライフスタイルアクセント株式会社代表取締役・山田敏夫氏に、社会的価値を生み出す起業について聞いた。(全6話)
社員1人、資本金50万円。誰にも見向きもされなかった日々
――山田さんの起業した当初の話をお聞きしたいのですが、はじめはどういう壁にぶつかりましたか?
最初の壁は、工場が提携してくれなかったことですね。社員が私1人で資本金50万円、おまけにHPもなかったので、スーツを着て工場を訪れても「はい、怪しいヤツ決定」といった感じで(笑)。
「ファクトリエ」のような事業はまだひとつも存在していなくて、彼らからしたら「何言ってるんだ」という印象だったんでしょう。工場を40も50も回っても、誰にも相手にしてもらえなかったのは辛かったですね。創業から2年間ずっと、平日に工場を夜行バスで回り、週末はアルバイトにいそしむ生活をしていたんですが、工場の方に突っぱねられた帰りにバスに乗り込みながら「彼らを救おうとしているのに、なんでこんなに虐げられなきゃいけないんだ」と悔しくなったこともありました。
でも、その時ふと思ったんです。「これは自分がやりたいからやってることであって、彼らは日本から世界的なブランドを作るのを手伝ってくれる仲間であり、むしろ『ありがとう』と言うべきなのは自分の方じゃないか」と。
そこからは考えが180°変わって、たとえ相手に突っぱねられたとしても「どうぞよろしくお願いします」というスタンスをとり続けました。それでも、ほとんどの工場は相手にしてくれなかったですけどね(笑)。真摯な姿勢を続けることで、最初の壁を少しずつ超えていきました。
――厳しいスタートだったんですね。
その次の壁は、やっとのことで協力しくれる工場が見つかって商品を作り、最低ロットで作った400枚のシャツを売る時のことです。ファクトリエは中間流通を省いているので、普通なら2~3万円するような品質のシャツを1万円で売ることができます。ですから、当然みんな買ってくれると思っていたんですよ。でも、結果から言えば、誰も買ってくれなかった。楽天市場にある訳でもYahoo!ショッピングにある訳でもないので、誰も「ファクトリエ」なんて知らないんです。
加えて、当時出来たばかりのクラウドファウンディングサイト「CAMPFIRE」で100万円集めていたことも見通しの甘さに拍車をかけました。100万円も集まったんだから上手くいくはずだと。でも、蓋を開けてみると、クラウドファンディングでお金を出してくれていたのはほとんど私の友達でした(笑)。
そんなことにも気づかずに意気揚々と事業を初めて、いきなり壁にぶち当たったわけです。1万円のシャツ400枚は原価で200万円分なので、2ヶ月後の工場への支払いまでに、クラウドファウンディングで集めた分を除いて最低でも残り100万円分を売り切る必要がありました。
まずは片っ端から友達に電話したんですが、既に「CAMPFIRE」で投資してくれているので買ってくれない。そこでスーツケースにシャツを詰め込み、喫煙スペースに行って個人の方に「シャツ買いませんか」と行商したりもしました。自分としては「ヤクルトおばさん」ならぬ「ファクトリエおじさん」のようなものだから、それなりに受け入れてもらえるはずだと思っていたのに、すごい勢いで拒絶反応を受けましたね(笑)。
次に、個人から会社へとターゲットを変更しました。「ユニフォームとして使ってもらえませんか」とタクシー会社やエステサロン、ホテルなど片っ端からリスト化して連絡しましたが、これもコストが全く合わないという理由ですべてダメでした。
最後の作戦が「無料着こなしセミナー」でした。「一回知ると40年使える着こなしのセミナーをやります」と、会社の大小問わず400の会社に電話して13社アポを取ることに成功しました。そこでなんとかシャツを売り、ようやく最初の支払いの100万円を売り上げることができました。
作るところから売るところまで、最初は見向きもされませんでしたが、愚直にリスクをとって行動し続けて、壁を乗り越えていった感じです。
目の前の人に共感してもらい、「正の経済圏」を作る
――以前、本メディアでGROOVE Xの林さんが「起業家は非常識な真実を見つけることが重要」とおっしゃっていたんですが(リンク)、先ほどの山田さんのお話は、工場の方からすれば「いやいや、ありえないでしょ」と非常識に映るところを、行動の量で理解を獲得していったという印象を受けます。
そうですね。普通、服を買う時ってみなさん素材や縫製の仕方よりもデザインや価格の方を大事にしているんですよね。そんな「どこ製か」なんて考えていない人達に我々の商品に共感してもらうためには、直接行商して共感してもらうしかないんです。これはWebだけではなかなか出来ない。
私は「正の経済圏」と呼んでいるのですが、自分の周り半径1~2メートルの人たちを感化していき、その人達がお金を払ってくれるようにしていく必要があります。だから最初は直接人に会って、例えばセミナーを実施している会議室の中だけでも「正の経済圏」を作ろうとひたすらしていましたね。
――御社がネット直販ブランドなのに、店舗展開を実施されていることとも繋がってくるように思います。
我々のような「正の経済圏」を作って商品価値を伝える必要があるビジネスにとって、人と人が直接触れ合う店舗というのは不可欠です。「正の経済圏」がなくても成立するもの、たとえば大量生産の消耗品や家電のようなものを売るビジネスであれば、アクセサビリティが高いとか、明日届くかどうかとかが重要なんでしょうけれど、感性に訴える必要がある我々のビジネスでは人と人が直接会って価値を伝えることが重要だと思っています。
――それはオンラインではなく、人と人が直接対話して伝えた方が良いのでしょうか?
我々の商品はベーシックなデザインで、比較的高価格なので、しっかり価値を伝えないといけません。もちろんWeb上の努力はしますが、人が直接説明したほうが感性は伝わります。ですから、工場ツアーを始めとして、お客様が工場と直接触れ合うようなイベントも企画していますし、店頭には接客マイスターを取得しているプロしか売り場に立たせていません。
他にも、企業に実際の商品をお持ちしてファクトリエのものづくりのストーリーを紹介する「出張ファクトリエ」が経営者の方々を中心に人気です。これからAIが人間のライバルになっていく中で、本質的なサービスを続けるためには人間らしい感性を磨いていかないといけない。なのに、多くの人は日本製の良いものに触ったことがない。感性が宿っているものに触れたことのない社員ばかりを抱えることは企業にとってリスクなんです。
そんなときに、ある種の社員教育として「出張ファクトリエ」を呼んでもらえば、本質的なモノにタダで触れ合えます。実際、一枚皮を紹介するだけで「これが本物の皮なんだ!」と感動していただけます。
いいもの、本質的なものに触れた経験は蓄積されていきます。但し、そういった経験は現代ではなかなか出来るものではありません。我々は「出張ファクトリエ」で売上は全く考えていなくて、啓蒙活動だと思ってやっています。ちゃんといいもの、本質的なものが分かる人が「正の経済圏」によって増えていかないと、我々のブランドは選ばれませんからね。
>第3話 「本物のブランドをつくる唯一の方法とは」に続く
>第1話「「メイドインジャパン」復活の希望の星」に戻る
>ファクトリエ公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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