#経営戦略
「金融を“サービス”として再発明する」というミッションを掲げ、金融サービスを展開するための「クラウドインフラ」と「データ解析基盤」を提供している株式会社Finatextホールディングス。同社代表取締役社長CEO 林 良太氏に、経営者の素養や、組織づくりのポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)
起業家に重要な素養は「体力・素直さ・明るさ」
ーー林社長にとって、 起業家として重要な素養は何でしょうか。
まず1番大切なのは「体力」です。
アップサイドに成功するかどうかは、運に大きく左右されると私は思っています。だからこそ、長期的に取り組み続けることが必要で、体力があるほど続けられる。
「心技体」という言葉がありますが、体の状態はメンタルにも大きく影響するため、体力は本当に大事だと思っています。
林 良太/1985年生まれ
東京大学経済学部卒業。ドイツ銀行ロンドンのテクノロジー部門に新卒で入社した後、グローバルマーケッツ部門に移りロンドン・欧州全域の機関投資家営業に従事。ヘッジファンド勤務を経て2013年12月に株式会社Finatext(現・株式会社Finatextホールディングス)を創業。
2番目は「素直さ」だと思います。
私が起業を志したのは、20歳の誕生日の前日でした。
当時、家庭教師をしていた生徒さんのお母様に「フラフラしていないでこの本を読みなさい」と渡されたのが、『渋谷ではたらく社長の告白』というサイバーエージェント藤田さんの本でした。
この本に感銘を受け、そこから私の起業家人生が始まったのです。
日本では、新しい技術やトレンドに対して斜に構え、「お祭りに乗らない」傾向がありますよね。
しかし当時の私はピュアに、「自分も起業して成功したい」と思いました。
大人になればなるほど、そういった素直さのようなものは薄らいでしまいがちですが、いつまでも意識して大切にするべきだと考えています。
そして3番目に重要な素養は「明るさ」です。
イチロー選手も「しけた面してる奴にはチャンスは来ない」と仰っていましたが、私もその通りだと思います。
良い状況の時に明るい表情は誰にでも出来ます。一方で、厳しい状況でも笑顔でいられるなら、それは相当な器の持ち主だと言えるでしょう。顧客も投資家もチームメンバーも、明るい人に付いていきたいと思うはずです。
楽観は「意思」であり、悲観は「状態」です。明るさは、意思をもって後天的に身につけられる重要な素養だと考えています。
「お祭りにあえて“乗っかる”」トップが持つべきノリ
ーー1番に挙げられた「体力」について、それが重要だと思われるようになったきっかけはございますか。
私は現在38歳なのですが、2歳と5歳の子供を世話しながら、会社経営もしています。
例えば今朝は、5時頃に娘が起きて、おままごとをしてから朝食を作り、保育園に送り、会社に行きました。このインタビューの後も子供を迎えに行き、寝かしつけをした後、採用面接が待っているという状況です。
このような生活を送れるのは、ひとえに体力があるからだと思います。
体力があれば、厳しい状況も乗り越えられます。部活動経験者や過酷なスポーツをしていた人は、ストレス耐性が高く、簡単には折れない傾向があります。ベタですけれど、体力と精神力には一定の相関性があると考えています。
体力をつけることに関しては、子育て自体がかなりの体力トレーニングになっていますし、体を鍛えることも仕事の一部だと思っています。
起業して10年が経った今、体力の重要性をより強く感じています。体を壊すと何もできなくなりますから(笑)。
繰り返しになりますが、「まず元気である」ということが何よりも重要だと思います。
ーー素直さ、明るさに関しては、何か原体験がありますでしょうか。
実は、「もう無理だ!」と思うほどの苦しい瞬間がこれまで7回ほどありました。
そういうときにはいつも、私はメンバー全員に集合をかけ、「皆!手を出して!1、2、3、おー!!!」と気合いを入れるようにしてきました(笑)。
エンジニアが多いチームなので、皆からは「そんなの意味ないだろ・・」みたいな顔をされるのですが、「いいから!やろう!!」と言って参加してもらうんです。
そうすると、不思議なことに状況が好転することが多いんですよ(笑)。断られていた案件が復活したり、大きな障害の根本原因がその日に見つかったり。
スピリチュアルとかではありません。チャンスというのは、基本的に平等なんです。でも、「しけた面」をしている人にはそのチャンスが見えないんですよね。
弱気になればなるほど、お客さんも離れていきます。私は難しい場面こそ、明るさを意識するようにしています。
素直さについては、こんな経験があります。
我々が創業した2013年頃は、UberやAirbnbが全盛の、ベンチャーバブルの頃でした。
当時、第一次AIブームで自然言語処理やニューラルネットワークが話題になり、それに乗ったベンチャー企業たちが「〇〇億円調達しました!」というプレスリリースを幾つも出しているような状況でした。
それらに対して当時の私は、「実力のない人たちが流行に乗っているだけだろう」とかなり斜に構えていました。実際に失敗したベンチャーも沢山ありましたからね。
そんな時、「なぜ林さんはブームに乗らないんですか?」と言われたんです。「それは、ベストを尽くしているとは言えないですよね」と指摘されて、確かにそうだなと。
例えば生成AIが出てきたときも、「いや、それって昔からある話だよね」とそっぽを向くのではなく、あえてお祭りに乗っかって、自分たちに取り入れていく。アメリカ人ライクな感じとでも言いましょうか。
日本人にはこれが難しいので、意図的にやらないといけないんです。
「自分の実力はこのくらいだけど、それをどうやってラッピングして高く売るか」という、見せ方の努力も経営者としては必要です。
だから私は、目の前の事象に対して、意識的に素直なリアクションをするようにしています。
誰かが大きな資金調達をしたら、「そんなの大したことないよ」ではなく、「この人すごい!」と反応する。
素直に聞いて吸収する方が学びが多く、メリットも大きいのではないかなと思います。
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家弓 昌也
名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。
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