「エネルギーの民主化を実現する」デジタルグリッド株式会社 豊田 祐介社長の “経営者に重要な3つの素養”とは(第1話)

「エネルギーの民主化を実現する」というミッションを掲げ、東京大学研究室から誕生したデジタルグリッド技術の普及に向けて、電気を使う企業が主体的に電力を調達する取引プラットフォームを提供するデジタルグリッド株式会社。2025年4月に東証グロース市場に上場した同社 代表取締役社長 豊田 祐介氏に、経営者に必要な素養や、電力業界及び再生可能エネルギーの今後について、DIMENSIONビジネスプロデューサーの古家 広大が聞いた。(全4話)

熱量高く“魂を燃やせる”か。

ーー豊田社長にとって、経営者に重要な素養を3つ挙げるとしたら何でしょうか。

一つ目は、「熱量」です。

自分自身が強烈に目指す世界があり、そこに向けて魂を燃やせるかどうか。一つの事業を何もない所から作っていくには、これが最も重要だと考えています。

二つ目は、どんな困難があっても「諦めない」こと、そして三つ目は「リスクを取る」ことです。

大きなビジネスに挑戦する際には、リスクは相応に発生するものですから、一歩踏み込んでリスクを取れるかがポイントになります。

 

豊田 祐介 /1987年生まれ
2012年に東京大学大学院工学系研究科を修了後、ゴールドマン・サックス証券に入社。為替・クレジット関連の金融商品組成・販売、メガソーラーの開発・投資業務を担当。2016年よりインテグラルにてPE投資業務を行い、2018年2月にデジタルグリッド創業に参画。2019年7月2日に代表取締役社長に就任。

 

ーーこれらの素養を身につけられた原体験をお聞かせください。

一つ目の「熱量」については、幼少期に「興味のある事にとことん熱中できる環境にいたこと」が影響していると思います。

例えば、私は昔からゲームが趣味で、中学生の頃にはお年玉で自作PCを作ろうとマザーボードやCPUやメモリを購入し、熱中して取り組んでいました。

目的は「ファイナルファンタジーXIをプレイする」ことだったのですが、その過程で、「CPUとは何だろう」「メーカーはIntelとAMDどちらが良いんだろう」と、自発的に少しずつ学んでいきました。

このような好きなことに熱中する学生時代を過ごしている中で、大学3年生の頃に「デジタルグリッド」というコンセプトに出会いました。

「電力の世界にインターネットのような革命がくる」という話にとてもワクワクしたことを今でも覚えていて、こういった”ワクワク感”が、経営者として持つべき「熱量」の原動力になると思います。

二つ目の「諦めない」ことについては、海外居住の経験が原体験です。

中学2〜3年生の頃に、父の都合でスペインに約2年間滞在していました。その際、「英語を喋れるようになりたい」と考え、インターナショナルスクールに通わせてもらいました。

アルファベットのbとdで混乱するような英語力で海外へ行き、学年も一学年落とし、「何とか追いつかなければ」という環境の中でとても苦労したことを覚えています。

一方で、英語を完璧に話すことが難しい中でも、スポーツを通して同級生とコミュニケーションを取ったり、得意のゲームを通じて友人を作ることができたことが自分にとって大きな収穫でした。

もちろん努力は必須ですが、たとえ英語が上手く出来なかったとしても、とにかく色んな環境に飛び込んでみる。

「諦めずに行動し続ければ何とかなる」ことを実際に経験できたことが、今に繋がっていると感じています。

三つ目の「リスクを取る」ことの重要性は、新卒で入社したゴールドマン・サックスのマーケット部門で学びました。

為替も、株価も、先のことは分からない。だからこそ、世の中の動きをマクロで捉える必要がある。細かい部分を考えすぎず、物事を中長期で捉え、リスクを取るべき時はしっかり取ることが重要です。

 

”デジタルグリッドを世の中に広めたい” 会社が危機的状況の中、代表へ就任

ーー「諦めない」ことについてお話しいただきましたが、代表に就任された後に「諦めずに乗り越えた」経験をお聞かせください。

私は会社の創業メンバーではあるのですが、最初は特に役職は無く、私の大学時代の教授である阿部力也先生(元東京大学特任教授)が代表を担われていました。

私が代表に就任したのは2019年7月ですが、まさにその前後、“会社が倒産しかける”という危機がありました。

原因は、当時ハードウェアやソフトウェア(ブロックチェーン)など様々な最新技術に投資していたことでした。

今でこそ「リーンスタートアップ」という言葉が身に染みていますが、“モノ”に投資しすぎたために“カネ”が無くなってしまい、2019年の6月末に資金が底をつくという状況になってしまったのです。

当時は約40社の大手企業の方々からご出資いただいており、大部分は東京大学時代の共同研究のパートナーでした。

ビジネスを始める際にお金を出してくださった株主の皆さまに対して「資金が底をつきました」とご報告する形となり、「このまま追加出資の見込みがなければ会社を畳むしかないだろう」と阿部先生とよく相談をしていました。

一部の方から、スピンアウト等を検討したら良いのでは、というようなアドバイスをいただくこともありましたが、何度も阿部先生や経営者の先輩方とお話をする中で、「私を信じて出資をしてくれた人も少なからず絶対にいる。」と気付くことができたのです。

また、私自身電力業界で挑戦をするためにキャリアを変え、電力の世界へ骨を埋める気持ちで仕事をしてきた中で、別の道を選択するのは自分の信念に反していると感じました。

この責任感と、自身の源泉である「デジタルグリッド」というコンセプトへの”ワクワク感”が合わさって、諦めずに経営を立て直す決断をすることができました。

創業から1年半ほどでこの危機が訪れたのですが、私にとってこの1年半の期間がとても楽しかったんですよね。

休日もホワイトボードに向かい、阿部先生と時には議論・討論をしながら、修士論文時代の研究テーマの世界を作っていくような時間がそこにはあって。

「この1年半で作ったものを世の中に広めたい」「絶対に社会の役に立つ」という想いから、2019年に代表に就任することとなりました。

 

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古家 広大

古家 広大

早稲田大学卒業後、三井住友信託銀行に入行。 広島にて個人向けFP業務を行った後、大阪にて法人RMを経験。非上場からプライム市場の企業まで担当し、融資や不動産など信託銀行の幅広いソリューション営業に従事。また、ESGやSDGsをはじめ、CGC改訂への対応支援も行い、グローバルで勝ち続ける企業への成長を非財務領域も含めてサポート。 2022年DIMENSIONに参画。LP出資者からの資金調達と国内スタートアップへの出資・上場に向けた経営支援を担う。

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