【特別対談】「互いに学べることはない」から始まる相互理解――大企業とスタートアップが手を組む条件 株式会社ドリームインキュベータ 三宅孝之社長(第2話)

2000年の創業以来、大企業向けの新規事業創出・産業プロデュースを数多く手がけてきた株式会社ドリームインキュベータ(以下、DI)。今回は、DI在籍中にDIMENSIONファンドを立ち上げ、2021年にMBO・スピンアウトを経て独立した宮宗と、DI代表取締役社長の三宅孝之氏による特別対談を企画。前半では「事業を大きく育てる」ポイントやスタートアップとの向き合い方について、後半ではDIMENSIONキャピタリストの黄が、MBO・スピンアウトの舞台裏について話を聞いた。(全4話)

「一次情報」を武器にする――AIとの付き合い方

宮宗:本を読んでインプットするというお話がありましたが、AIの活用についても伺いたいです。ここ数年で急速にAIが出てきた中で、新規事業とAIをどう捉えていらっしゃいますか。

三宅:AIは50点、60点の答えはすぐに出てくる。だから、その先をどうするか、実際にそれが正しいのかを確かめに行くことが大事です。
AIにないのは一次情報だと思うんです。
世の中に文字化されているものはすべてAIが知っていたとしても、まだ発明されていないもの、まだ話されたことのない話題はたくさんあります。それをAIと結びつけていくと、また良いものが出てくるんじゃないかと思います。

宮宗:世の中に公になっているものは捉えやすくなる一方で、社外での仲間づくりや、それをつなげていく段階で活用できる、ということですね。

大企業とスタートアップ「学べることはない」から始めよう

宮宗:ここからは、スタートアップ側の視点で伺えればと思います。スタートアップは資金も体力もリソースもない中で戦っていて、そこが大企業との差異でもあり強みでもあります。一方で、スタートアップからは「大企業とは組みにくい」とよく言われます。

三宅:よくわかります。

宮宗:スピード感や資源のなさに加えて、「組んでも情報だけ吸い取られて、自分たちのビジネスがうまくいかなくなるのでは」という不安から、縮こまってしまうスタートアップも多いです。大企業と連携する上で、スタートアップはどんな部分を意識すると良いでしょうか。

三宅:大企業とスタートアップは基本的に真逆の存在です。だから、大企業から学べることはないと、そして大企業もスタートアップから学べることはないと思った方がいい。
でも、それがヒントで、逆に言うとお互いが相互補完になっている。それを理解した上で組むことが大事です。
スタートアップが大企業と比べて一番秀でているのはスピードだと思います。情報を盗まれる懸念もあるかもしれませんが、実際には大企業側に力がなくて、吸い取ったつもりで使われていないだけということも多い。
大企業にとっては新規事業でも、スタートアップにとっては本業ですから、意思決定の速さがまったく違います。大企業は何千億円という既存事業の隣で、まだゼロの規模の新規事業の話をやっているわけなので、社内にリソースがあるようで、実は十分ではなく、組織としては何も意思がなかったりする。だからスピードが遅い。
悪気があるわけではなく、これは構造の問題です。お互いにそれを理解した上で、歩み寄り“続ける”ことが大事だと思います。

宮宗:大企業側の視点でお伺いしたいのですが、まったく違う生き物だと感じている中で、大企業から見てスタートアップを見極めるべきポイントはありますか。

三宅:大企業からすると、むちゃくちゃグイグイ押してくる人もしんどいし、ただ待っているだけの人もしんどい。
その中間で、互いの文脈を理解して話せる相手かどうかは大事だと思います。同じ言語で話せるかどうかというか。
その点、もともと大企業にいた人がスタートアップにいると話がかみ合いやすい、というのはあると思います。

「焦らない」という作法

三宅:スタートアップの人が来ると、大企業側の人って「バカにされている」と感じてしまうことがあるんです。
組織を背負っている自分は実はちっぽけで、能力があっても周りを説得できずに動かせない。結局「何もできないやつ」だと思われるんじゃないかとビクビクしている。

宮宗:その傾向はあるかもしれません。態度として見せる見せないは別として。

三宅:スタートアップ側にも、「大企業はブランドがあって偉い人たちだ」という思い込みがある。
お互いにその雰囲気をなくして、人として尊敬し合える「相互尊敬」があるかどうか。これが感じられなければ、何をやっても難しいと思います。

宮宗:最初のミーティングで、大体見極められるものなんですか。

三宅:わかりますね、最初のフィーリングというのは。
ただし、相互尊敬はできても、テーマが全然違うと話の中身が合わないこともある。そういう人は大事にしまっておいて、いつかどこかで何かがあったときのために心の片隅に置いておくのがいいと思います。

宮宗:スタートアップ側へのアドバイスも伺いたいです。大企業内のライトパーソンになかなかたどり着けない、というのはよく聞く話です。

三宅:スピードが違うので、焦らないことです。焦ると絶対に逃げていく。
大企業にとっては、どれだけいい話であっても「3日で決めてください」というのは無理な話です。
自分たちのルールやスピード感ではなく、相手の立場に立って、どういう形ならフィットしそうかを見た上で話をする。難しいことではありますが、それが大事だと思います。

「境界」にこそチャンスがある

宮宗:三宅さんは数多くの大企業を見ていらっしゃいますが、スタートアップが着目すべきだと思う業界や分野はありますか。

三宅:大企業は小回りが効かないので、大企業同士の連携にスタートアップが「つなぎ役」として入るケースは、今後増えていくと思います。大企業同士が直接やるのは大変なので、そこを埋めながらやれる存在はすごく重宝されるはずです。
それから、スピンアウトという形も含めて、大企業の中でなかなか芽が出ない事業を切り出す動きは、今後もいろいろな形で出てくると思います。

宮宗:以前、私もDIに在籍していた頃、大きな産業や構想である「傘」という考え方がとても印象に残っています。傘を描いたうえで、中に大企業がいたり、スピード感が必要な部分はスタートアップが担う、と。傘自体をどう変えていくか、広げていくか、そこにどうお金をつけるか、という話をされていたのが印象的でした。

三宅:傘は「構想」そのものです。別の言い方をすると、「社会課題」そのものだったりします。
たとえば地方でビジネスをやる場合、介護予防やまちづくりをどうするかというテーマで傘を作る。
そうすることで、大企業もスタートアップも、誰が主導というよりは傘が主導になり、その中でやれることを提供し合う形になります。
その傘を作るためにはアーキテクチャ的な発想が必要で、ビジネスモデルを描ける人が必要なので、私たちはそこを手伝ったりしています。

宮宗:最後に、金融についても伺いたいです。我々は金融業でもあるので、金融というものがどうビジネスの血液として機能するのか、あるいはブロック要因になるのか、大企業にとってもスタートアップにとっても、どう活用するといいでしょうか。

三宅:事業における金融の価値は、「時間をずらせる」ことです。
先にお金が必要なら出して、後で回収する。金融機関がちゃんと入って設計してあげて時間をずらしながら、調達のバリエーションを持たせる。
そういう時間のつなぎ方は、構想を実現する上でとても大事だと思っています。
一方で金融業は他の業種と違って規制が本当に厳しいので、業界や組織の垣根を越えて発想するのが難しい側面があります。だからこそ、私たちDIのような存在が境界を超えた絵を描いて、「銀行さんはこれをやってください」「損保さんはこれを」というように役割分担をしてあげると、すごく積極的に動いてくれます。

宮宗:前半のお話のキーワードは、「境界」だったと思います。かつては業界ごとに縦割りだったものが、インターネットの登場で壁が崩れ、その境界にこそ日本企業にとっての新しいビジネスオポチュニティがある。
スタートアップと大企業が組むことも、金融をうまく活用することも、俯瞰して仲間づくりをしながら社会課題とビジネスをつなげていく、というお話でした。後半は少し当事者としての話になりますが、先ほどキーワードとして出てきた「MBO」「スピンアウト」について、我々のベンチャーキャピタリストの黄を呼んで、彼女から改めてお伺いできればと思います。

三宅:改めてちゃんと語るのは初めてですね。

宮宗:初めてですね。よろしくお願いします。

 

>第3話 10月20日公開予定

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