新規事業をつくるために必要不可欠な「誇り」とは アトラエ 新居佳英社長(第3話)

「誇り」を持てる事業しかやらない

――ゼロイチの事業立ち上げフェーズにおいて、重要視されているポイントをお聞かせください。

一番最初に問うているのは、「自分たちが誇りを持ってこの事業を運営したいと思えるかどうか」だけです。

自分の子供でも親でも良いのですが、自分の身内に自慢したり勧めたりできる事業かどうかを自分に問うてみるのです。本当にこれを欲しがっている、もしくは勧める相手がいるかを確かめると言い替えても良いかもしれません。もし、勧めたくないのだとしたら、どれだけ儲かる事業でもやらないようにしています。

誇りが持てない事業を立ち上げても何にもカッコよくないですし、楽しくない。儲かるかもしれないけれど、胸を張って娘に言えないなんてダサいですよね。ですので、私はいたるところで「誇り」という言葉を使うようにしています。

 

――御社の主要事業といえば成果報酬求人サイト『Green』ですが、このアイデアを最初に出されたのは新居社長だったのでしょうか?

『Green』は私のアイデアです。

寝る時はいつも枕元にノートとペンを置いているのですが、深夜の2時ごろに飛び起きてこのモデルを思いつきました。一気に書いて寝て、朝起きたら字が汚すぎて読めなかった記憶があります。(笑)人材紹介業界において、間に入っている業者を全て中抜きして、求職者と企業を直接マッチングさせるプラットフォームができれば面白いのでは、というアイデアでした。

 

競合優位を保ち続ける新規事業のつくり方

――新規事業は主に新居さんがご自身で発案されているのでしょうか?

会社の仕組みとしては、私でもアルバイトでも経理でも、確率論的には同じ確率で新規事業を発案できる環境をつくっています。ただし、私は『Green』以前にも100個以上の事業計画書を書いてきた経験があります。新規事業を考えてきた数が人よりも異常に多いので、結果的に私から新規事業案が出る確率は高くなっていますね。

 

――もちろん「誇りが持てるか」は大前提としてありつつも、ビジネスの競合優位性を維持していくには戦略も必要かと思います。

はい。競合優位性を保つことは非常に難しいことですけれど、我々の特徴の一つは、「オリジナルビジネスしかやらないこと」です。オリジナルビジネスである限り、事業スタート時点ではあまり競合視する事業がありません。一番に市場参入すれば、あとは追い越されなければいい。

最初に市場参入したのに追い越されるパターンというのは、大概が「イノベーションや変化を嫌がる」ことが原因で起こります。要は守りに入ると、追い越されてしまうんです。たとえば『Green』もオリジナルビジネスです。結果的に、日本の求人サイトの多くは『Green』に似ていますが、それは他社が先行する我々を模倣しているからだと考えています。

模倣するだけでは、その組織の中にいる人材の能力はだんだんと落ちていきます。対して、我々のメンバーは誰もやっていないことを日々探求し、変化し続けているので、どんどん能力がついていきます。この差が、また新しいサービスを生みだす時に活きてきます。

まとめると、優位性を保つために重要なことは、一番最初にサービスを立ち上げて、変化・挑戦し続けることだと思います。

 

メンバー全員が持つ「誇り」を広く届けていく

――次に、事業を1から100に広げていく際のマーケティングについてお聞かせください。

一つだけ大切にしているのは、我々は自社のサービスに誇りを持っているので、このサービスで「実現したい価値」とか「届けたい想い」というメッセージを必ず入れるよう徹底しています。見た人・読んだ人が我々のファンになってくれるように意識しているのです。

例えば『Green』では「ちくしょう!転職だ。」という強烈なメッセージのバナー広告を出して、一世を風靡した時期がありました。あれは転職業界からするとコントロバーシャル(議論を醸す)な内容でもあります。なぜならば、転職を嫌なもののように扱っていると感じることも出来るからです。

しかし、我々はそんなことは一切思っていなくて、多少のリスクをとってでも「日本人の人材市場がもっと流動化しないと、この国はダメになる」という想いを届けるためにこのキャッチコピーを使い続けました。面白いバナーがきっかけでも何でもいいから、とにかく人材を流動化させるための仕掛けを仕込まなきゃいけない、という想いをメッセージに込めたのです。

我々がサービスを通してやろうとしていること、実現しようとしているビジョンを理解してもらい、我々のファンになってもらうこと。その意識は徹底していますね。

 

――営業で気をつけられているポイントはありますか?

これも「サービスに誇りをもつ」ことと関連するのですが、「自分のお客様が、自分の親や子供、親友だったらどうするか?」ということを常に考えるよう徹底しています。

売るべきじゃない時に、売らなくていいものは売らない。もし自分たちのサービスで価値提供できない人がいるのなら、サービスを改良するか、新しいサービスを作るか、他社のサービスを引っ張ってきて紹介する。ちなみに、私も売りたくないものは一切売れないタイプの人間です。弊社の社員の多くが、そういうタイプの人間でしょう。

 

――逆に事業の撤退基準などはあるのでしょうか?

唯一明確にあるとしたら、それをやっているメンバーの「志」が無くなった時です。

本音で「絶対やるべきだ」と言っている人がいるのだとしたら、なんとか継続します。もちろん戦略や差別化は細かく詰めますが、やっているメンバーの「志」がない事業は進みません。逆に会社にやれと言われて仕方なくやらされているような新規事業はすぐに撤退します。そうではないとベンチャー企業は戦えなくなりますね。

関わるメンバー全員が「誇りを持てる」サービスを作ること。これは新規事業を創り広げていく上での鉄則だと思っています。

 

 

>第4話「取締役以外の役職なし。フラットな組織を運営するポイントとは」に続く

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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