「見えない未来」に挑戦し続けられる起業家の素養とは WAmazing 加藤史子CEO(第1話)

"日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に" のビジョンのもと、訪日外国人旅行者向けサービス「WAmazing」を提供するWAmazing株式会社。空港で無料のSIMカードを貸与する斬新なビジネスモデルで注目を集め、端末機の設置は国内20空港を突破した。急成長を続ける同社の代表取締役CEO 加藤史子氏に、起業家の素養や事業立ち上げのポイントなどについて聞いた。(全6話)

見える未来よりも、見えない未来の方が楽しい

――起業家にとって重要な素養を3つ挙げるとすると何でしょうか?

1つ目は「見える未来よりも、見えない未来の方が楽しいと思えること」、2つ目は「忘れっぽいこと」、3つ目は「行動力」です。

 

加藤史子(かとう ふみこ)/1976年神奈川生まれ。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)を卒業後、1998年に株式会社リクルートに入社。「じゃらんnet」・「ホットペッパーグルメ」の立ち上げ等に従事。その後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動し、「雪マジ!19」「Jマジ!」「ゴルマジ!」などを展開。2016年7月、WAmazing株式会社を設立。代表取締役CEOとして、同社を牽引。

 

――まず1つ目の「見えない未来の方が楽しいと思えること」が重要だと思われる理由をお聞かせください。

起業は誰もわからない「見えない未来」に対して、他人の人生とお金を巻き込んでいく壮大な実験のようなものです。これが楽しいと思える人は、起業に向いていると思います。

世の中には人生が安定していることに喜びを感じる人もいれば、逆に未来が見えてしまうことを絶望と感じる人もいます。これはどちらが優れているという話ではなくて、向き不向きの話です。

「見える未来よりも、見えない未来の方が楽しいと思えること」。これは「見えない未来」を突き進み続けなくてはいけない起業家にとっては、必要不可欠な素養だと思います。

 

――加藤さんはこの素養を先天的にお持ちだったのでしょうか、それとも何かきっかけがあって後天的に養われたものなのでしょうか?

私の場合はもともとそういう素養は持っていて、外部環境によってさらに後天的に強化されてきたイメージですね。

私は創立5期目の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、通称SFCに入学しました。

入学した当時のSFCは、まだ卒業生すら輩出していない状態で、構内は建設用のショベルカーが走り回っているし、サークルも文化祭もゼロから作り上げるために先輩たちが奔走していました。当然ながら、そんなキャンパスを選ぶ人は生徒も先生も奇人変人ばかりで、まるでアーリーステージのベンチャーのようなキャンパスでした。(笑)

その環境を選んでいる時点で「見えない未来が楽しい」という素養はあったのだと思いますが、さらに周りの奇人変人たちに揉まれて、その素養がどんどんと強化されていきました。

 

 

――そこからどのような経緯でリクルートに入社されたのでしょうか?

私が所属していたサークルの先輩たちは普通の就職活動をせずに、気づいたらベンチャーに入社しているような、そんなキャリア選択をしていました。当時のベンチャーに対する世間のイメージは「会社に寝袋を持っていって仕事する」といった泥臭いもので、決して現在のようにキラキラしたイメージではありません。

「見えない未来が楽しい」と思いつつも、ベンチャーや起業を選ぶ気持ちは一切なく、私は普通に就職活動をしました。とはいえ、重厚長大の企業ではなく、確実な事業基盤を持ちながらもベンチャースピリットを持ち合わせるリクルートを選びました。

 

――リクルートに入社したことでさらに素養が強化されていったのですね。

そうですね。リクルートの中での出会いもそうですし、SFCの先輩たちがベンチャーに入社して3年もすると役員や関連会社の社長になっていくなど、「見えない未来」に挑戦して成功する人たちを間近で見てきました。

若い頃からそういった人たちがいる環境に影響を受けて、私の「見えない未来が楽しい」と思う素養はどんどんと強化されてきたのだと思います。

 

挑戦し続けるために、理解すべき「限界ライン」

――2つ目の「忘れっぽいこと」が大切な理由をお聞かせください。

何が起こっても翌朝になったら忘れているような、ある程度のオポチュニスト(楽天家)でないと、降りかかってくる様々な困難にメンタル的に耐えきれないからです。

起業は事業が成長すればするほど、困難や課題のレベルも上がっていきますし、「忘れっぽい」くらいがちょうど良いのかなと思っています。

 

――「忘れっぽいこと」は後天的に養える素養なのでしょうか?

私の場合は後天的に会得しましたね。

私は20代後半に仕事のプレッシャーやキャリアに対する迷いなどから、一度うつ病を発症してしまったことがあります。体はどこも悪くないはずなのに、体調が全体的に悪くなっていくことを体験しました。

その体験から学んだことが2つあります。

まず1つ目は「心と体は表裏一体」ということ。そして2つ目が「健全さを損なってまでやるほどの価値は仕事にはない」ということ。私はそこから仕事をある意味割り切って考えられるようになりました。

どこが自分の健全さが損なわれるラインなのか、一度体を壊した体験があるからこそ理解していますし、ラインを超えてしまいそうなときは意図的に「忘れる」コントロールができるようになってきたかなと思います。

なので「忘れっぽいこと」を、私の場合は後天的に会得したと思っていますし、結果的にうつ病を経験して良かったなとも思っています。

 

――ストレスコントロールが長く経営を続ける上で重要だということですね。

おっしゃる通りです。登山家も「引き返す勇気が一番大事」と言いますけれど、「これを超えたら死ぬ」というラインがわかっているからこそ、逆に挑み続けられるんだと思うんです。

常に自分のメンタルタフネスの限界ラインを理解しておくこと。そしてもしラインを超えそうになったら「忘れる」ことで、心身の健全さを維持すること。これが起業家として挑戦し続ける上では、重要な素養だと思っています。

 

 

>第2話「成功する起業家に共通する事業立ち上げの「思考法」」に続く

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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