#人事・組織
2013年11月の東証マザーズ上場以来、21四半期連続の前年比増収増益と躍進を続ける株式会社じげん。2018年6月には東証一部への市場変更も果たした。そんな同社の成長を牽引する代表取締役社長CEOの平尾丈氏に、起業家に求められる素養、成功する事業の作り方などについて聞いた(全2話)
起業家に求められる素養の「パラダイムシフト」
――ベンチャーナビ恒例の質問からさせていただきます。起業家にとって重要な素養を3つ挙げるとするとなんでしょうか?
無い、と答えたいのが正直なところです。
「起業家」のパラダイムが変わりつつあり、これだと言い切ること自体がナンセンスな時代になってきているからです。
私が学生時代に起業した頃は、いわゆる「リーダーシップの高い人」しか起業できませんでした。しかし最近は「しなやかなリーダー」「サーバント・リーダー」といった言葉にある通り、ボトムアップ型の新たなリーダー像が流行しています。
ノマドでもOKですし、ホロクラシーなどの新たな組織形態も出てきている。リーダーシップの高さが必ずしも必要かというとそうではありません。
加えて十人十色、いろんなタイプの起業家がいて、メンバー構成によっても必要な素養は全く変わってきます。つまり相対的に求められる素養は変化するということです。
平尾丈/1982年生まれ。慶應義塾大学在学中から2社のITベンチャーを起業し、2005年に株式会社リクルートに入社。2006年にリクルート最年少取締役として現・株式会社じげんの創業に参画。2010年にMBOを経て2013年に東証マザーズ上場、2018年に東証一部への市場変更を果たす。
――成功者が語る「リーダーシップ論」の言葉尻に踊らされるのではなく、自らのリーダー像をつくることが大切、とも言えそうです。
世の中で語られる言葉を真似することに競争優位性はありません。言語化されていないところに真の価値があります。
この意識を前提に置きながら、ぜひ記事を読み進めていただきたいです。
「リーダーシップ」を学んだ学生時代
――起業家の素養について議論する際に「リーダーシップ」は一つのキーワードになりそうです。「リーダーシップ」について、平尾さんの今のお考えをお聞かせいただけますか?
私は学生時代にベンチャーを立ち上げてトップを経験したことで「リーダーシップ」を学びました。学生の先輩後輩関係がベースにある、いわゆるトップダウン型のリーダーシップです。
おかげでどんな立場においても、常に組織のトップ視点で物事を考える癖が身につきました。この力は会社組織の中で働くだけではなかなか学ぶことはできません。
一方で、自分一人のリーダーシップの限界を感じたのも学生時代です。
学生時代に起業したベンチャーでは飲食や就職関連のサービスをいくつか立ち上げていたのですが、ことごとくリクルートのサービスが私たちの前に立ちはだかりました。単価は我々のサービスよりも高いのに、リクルートのサービスが次々と売れていく現実を目の当たりにしたのです。
この経験を通して、自分一人だけの力には限界値があることを痛感しました。
――学生起業を経て、そのリクルートに入社されていますが、考え方に変化等ありましたでしょうか?
創業者・江副浩正さんのリーダー像が注目されることの多いリクルートですが、入社してわかったのは、その成長の背景には一人のリーダーではなく、ボトムアップ型でたくさんのリーダーが存在していたということ。この組織構造こそがリクルート躍進の源泉でした。
このリクルートでの経験から、ボトムアップ型でリーダーが次々と生まれる会社はどうやったら作れるのか、という意識を持つようになりました。
トップ自身が成長し続ける「トップアップ」の重要性
――リクルートでの経験を経てボトムアップ型でリーダーが生まれる組織を志向されたのですね。
弊社は事業成長スピードがとにかく早いので、自然と人材の競争原理が働きます。「事業家集団」と掲げている通り、客観的に見ても「じげんのリーダーたち」は経営者としてのマーケットバリューが高いと思います。
しかしながら、近年いわゆるボトムアップ型のリーダーシップが流行っているからこそ、逆説的にトップダウン型のリーダーシップの価値が再び高まるかもしれない、と感じ始めています。
例えば、ソフトバンクの孫正義さんは超トップダウン型のリーダーですよね。創業1代であれだけ大きな会社を作られて、さらに時価総額100兆円、200兆円規模の会社を目指すとおっしゃっている。あの圧倒的な突破力はトップダウン型だからこそなせる技とも言えるんです。
――ボトムアップ型の組織も優れているが、それを凌駕する圧倒的なトップダウン型の会社もある、ということでしょうか。
そうですね。ボトムアップ型の組織を否定しているわけではありません。トップが超優秀であり続けることができればパラダイムシップも起こりうる、ということです。
なので、「ボトムアップ」でも「トップダウン」でもない、「トップアップ」の意識をあらためて強く持っています。トップ自身が圧倒的に成長し続けないと、企業を圧倒的に大きくすることはできないのです。
冒頭にも申し上げた通り、私は絶えず自分の考えをアップデートし続けています。ボトムアップ型の組織づくりが流行している昨今だからこそ、新たなオリジナルの「リーダーシップ」像を作らないといけない。
起業家に求められる素養も、理想的なリーダーシップも、常に変化し続けます。その変化を最前線で切り拓き続けることが、起業家に与えられた使命だと思います。
「経営の補助線」で勝てる事業を創る
――先ほどリーダーシップについてお話しいただきましたが、他に起業家にとって重要な素養を挙げるとすると何でしょうか?
1つ挙げるとすると「顧客の創造」です。大企業の経営者はリソースのアロケーションが重要ですが、ゼロから始める起業家はマーケットを自ら創り出さなければいけません。
ありがちなのが、流行りのテーマで起業して話題になったものの、最初の顧客が見つけられずにゼロイチが立ち上がらないパターン。昨今は売上ゼロでも起業家と呼ばれる時代ではありますが、私はやはり「顧客の創造」ができてこそ起業家だと思います。
――顧客を創造する上で、平尾さんが重要だと思うことをお聞かせください。
私は「新たなマーケットを創る」ことを非常に臆病に、慎重に考えています。だからこそ、参入前から事業計画は緻密に立てますし、当てずっぽうではなく確実に勝てる勝負をします。
マーケットの波が来そうだから参入する、という流行りに乗るようなことはあまりしません。波は自分で起こせばいい、と考えているタイプの起業家です。
――「確実に勝つ」事業をどのようにして考えていらっしゃるのでしょうか?
事業を運頼みにしないために「経営の補助線」、つまり事業の別解をたくさん持つことが重要です。事業を先読みして、プランB、プランCを前もって考えておくということです。
例えば、とあるマーケットに参入する時に、そのマーケット依存で考えるのではなく、他のマーケットも別解として持っておく。そうすれば、何か不測の事態が起こったとしてもスムーズに対応できます。
起業家は事業のスケールや成長度、不測の事態に耐えられるだけの「ディフェンシビリティ」も本当は評価されるべきです。「ディフェンシビリティ」が可視化されていないだけなのです。
「経営の補助線」をたくさん引くこと。これが運がなくとも「勝てる」事業をつくることに繋がると信じています。
経営論に「絶対」はない
――「リーダーシップ」、「顧客の創造」に続き、起業家にとって重要な素養3つ目を挙げるとすると何でしょうか?
「相対的」に流れる時間軸において「最適解を模索し続ける」ことです。
起業家が、事業を継続させられる経営者になるためには、「最適な意思決定」をし続けることが求められます。二の矢三の矢を用意しておかないと、お客様に継続していただけなかったり、後発の競合に負けてしまったりするのです。
事業を継続成長させるということは、自社だけではなく様々なプレーヤーが存在する市場を把握するということです。そのために「相対的」に動き続ける環境を先読みし、「最適解を模索し続ける」ことが必要なのです。
――状況に応じて、自分が出した解をアップデートし続けることが必要なのですね。
経営に「絶対」はありません。
私の中には「相対的な経営論」を行き来できるかを常に考えています。
冒頭に申し上げた通り、私が「起業家の素養」としてこうやってお話している時点で、この内容の価値も下がってしまっています。この内容を踏襲するだけでは差別化できません。
自分なりの経営論を常にアップデートし続けること。「最適解を模索し続ける」ことが重要です。
勝てる「自分だけの道」を見つけ出す
――「経営の補助線」「相対的・逆説的経営論」といった思考プロセスは、どのようにして身につけられたのでしょうか?
学生時代から、「公式」にはあまり興味がありませんでした。知っているかどうかの戦いではなく、自分で「別解」をひねり出して認めてもらうのが好きだったんです。
「人と同じ」ことが嫌いなのでしょう。
ここで気をつけないといけないのは「人と違う道」だからといって「当てずっぽうで決めた道」ではいけません。「答えに辿り着ける、人と違う道」を見つけ出すことが重要です。
経営者が「運」の勝負をしているようでは社員や顧客、株主に対して失礼です。勝つ方法を考えに考え抜いて「常勝」できることこそ、経営者の役割だと思っています。
>第2話「無限に広がり続ける「事業家集団 じげん」の舞台」に続く
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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