大企業・コンサル・投資ファンドを経て、経営者になるまでの道のり JMDC 松島陽介社長(第2話)

「データとICTの力で、持続可能なヘルスケアシステムを実現する」をミッションに掲げ、国内最大規模のヘルスビッグデータベースを駆使したデータ事業や遠隔医療事業などを展開する株式会社JMDC。2019年12月に東証マザーズ上場後も、その資本市場評価を急成長させ続けている。今回は代表取締役社長兼CEO 松島陽介氏に、経営者として重要な素養、そしてデータビジネス成功の要諦などについて、DIMENSIONの伊藤紀行が聞いた(全5話)

経営者は「役割」に過ぎない

ーー大企業・コンサルティングファーム・投資家など様々なキャリアを経験されたのちに、経営者になられています。何か経営者を目指そうと思ったきっかけなどがあったのでしょうか?

経営者を目指したという意識はなく、あるのは「今、自分がやらなくてはいけない役割」を果たすという責任感です。経営者も一つの役割に過ぎないというふうに捉えています。

私のキャリアを振り返ると、最初の6年間は第一生命保険という大企業でサラリーマン、次の6年はコンサルティングファーム、さらにPEファンドで6年間、そしてオールドスタイルな会社(ノーリツ鋼機)の経営者を6年間経験し、いまのベンチャー企業の経営者に至りました。

投資家までの18年間は「キャリア」として歩んできたように思いますが、経営者になって以降は「役割」を果たしている感覚です。

創業者で無い限り、経営者というのは誰かに与えられた舞台です。やりたいからやる、という職種ではないと思うのです。

 

ーー経営者は目指すものでは無い、と。

目指してもなれるものではないかもしれませんが、準備はしておいたほうがいいでしょう。機会が巡ってきたときに、その役割を果たすことができるだけの準備です。

私もこれまでのキャリアでの経験がすべてあったからこそ、いまの役割を果たすことができていると感じています。

 

「セルサイド」と「バイサイド」の仕事

ーー現在ベンチャーの経営者になられて、これまでのご経験がどのように活きているでしょうか。いまから「経営者になる準備」をする若者に向けたアドバイスもあわせてお願いします。

世の中の仕事は、大きく「セルサイド」と「バイサイド」の2つに分けることができます。言い換えると「自分の能力を売る」仕事と、「いろんな能力・機能を買う」仕事です。

例えばコンサルタントは「セルサイド」。投資家や経営者は「バイサイド」です。

こういう言い方をすると、「バイサイド」のほうが価値が高いように聞こえるかもしれませんが、決してそんなことはありません。

「セルサイド」は自分自身が売り物ですから、常に自分の知識や経験をアップデートすることが求められます。ゆえに、能力が圧倒的に磨きこまれていくのです。

若い人に対して「いますぐ起業しろ!」という言葉がキャッチフレーズのように使われることもありますが、私は若い人が最初から「バイサイド」に進むのをあまり奨励していません。むしろ最初は「セルサイド」で徹底的に自分の能力を磨き込んだほうが良いと思っています。

若い頃に磨き込んだ能力を活かして、正しい「バイサイド」、経営者になるのが一般的な道だと思うのです。

 

ーーご自身も生命保険会社のFP、コンサルティングファームといった「セルサイド」でご自身の力を磨かれてきましたね。

そうですね。1社目が第一生命保険という「対人」の力が身につく場所で無かったら、いまの私はありません。

また、その「対人」という得意分野だけでは価値を発揮できないコンサルティングファームで、「ロジック」「ファクト」に基づいたコミュニケーション戦略を学ぶことができたのも大きな糧となりました。最初は苦手意識があったのですが、なんとかコンサルの仕事に食らいついて行くことで、「正しいことを言う」経営者としての判断力が身についたように思います。

20代の頃に、自分の苦手なことも含めて「セルサイド」で学び抜いてよかったと思いますね。

 

ーー12年のキャリアを経て「バイサイド」である投資家の道に進まれます。何が一番の変化でしたか?

「セルサイド」「バイサイド」の話は、「意思決定をサポートする」のか「意思決定を自分がする」のか、とも言い換えることができます。

なので、投資の世界に入って学んだことは端的に「意思決定」です。

投資は論理性の帰結として正しい答えが出るほど、単純な世界ではありません。100%の正解というのはありえない中で、それでも正しそうな答えを直感的に識別し、人を巻き込むために様々な方向から論理的に直感を証明していくという作業が求められます。

この「意思決定」がセルサイドとバイサイドの仕事で最も異なるポイントです。

 

意思決定の真髄はプロセスにあり

ーーその「意思決定」において心がけていることはありますか?

「AかBか」と問われたときに「A」と決めることが意思決定だと思いがちですよね。しかし私の「意思決定」の定義は違います。

私は「誰しもがAだと思うようなプロセスを辿ること」を意思決定だと定義しています。

 

ーーそれは具体的にどういうことでしょうか?

物事を合理的に比較検討したうえで「Aしかない」と合意がとれる状況を作り出すのが正しい意思決定。そのためには全てオープンに意思決定ロジックを見せることが大事になります。

一方で、AかBかわからない中で、独断で「Aだ」と言うのは意思決定ではなく、博打に近い。

つまり意思決定とは、事実に基づいて妥当性があり、大体の場合において共感し得るものでなければいけない。意思決定するまでにファクト・ロジックを積み上げ、互いの考えの相違を乗り越えていくプロセスこそが本質なのです。

 

ーーたしかに、周囲の反対を押し切って・・・というのが意思決定・英断だと思われがちです。

加えてもうひとつ、重要なのが意思決定の「後プロセス」です。

決めたからには、どんな結果になろうと後で責任転嫁しないこと。トップが最後は「ケツを持つ」ことが意思決定の真髄です。

 

ーーいずれにせよ「プロセスの質」に重きを置いていらっしゃるのですね。

意思決定を権力の力でやろうとすると、必ず間違いを犯します。そういう場合は往々にして自信の無さや詰めの甘さを、権力で補完しようとしているからです。

意思決定の「前プロセス」をオープンにし、メンバーが合意する状況を作り出すこと。そして「後プロセス」では結果に対して必ずトップ自らが責任を持つこと。

こうすることで結果的に求心力もついてきますし、「意思決定」が成功する確率も高まると考えています。

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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