#インタビュー
SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)で総合政策学部長、研究所長などを歴任し、現在は慶應義塾常任理事を務める國領二郎教授。長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣について聞いた。(全6話)
起業前に身につけるべき最低限のスキル
――今「起業ブーム」のようなものが、また新たに来ているように思います。起業するうえで最低限備えておくべき知識はありますでしょうか?
ネットバブルの時代は大変だった(第1話リンク)というお話をしましたが、その反面教師として、最低限のルール・知識は持っておいた方がよいですよね。
例えばバランスシート(B/S)。
ここでは難しい会計学を理解しろというわけではなくて、「人様のお金」と「自分のお金」が区別できないような段階で経営はしちゃ駄目ですよねということが言いたい(笑)。
B/SにはDebt(負債)があって、Equity(株主資本)があるじゃないですか。DebtとEquityの違いが分からない人は、まだ会社をやっちゃいけないですよね。
人からお金を集めて会社を興す以上、せめて「人のお金と自分のお金は違うんだ」ということは分かっておいて欲しいんです。おそらく、学校の先生にできるのはそういう知識を教えることなんですよね。いざ会社を経営し出した時に必要となる最低限のスキルを授ける、というイメージでしょうか。
但し、学校でそういう知識を教えたところで、アントレプレナー・起業家が生まれるわけではありません。
意識面、ベンチャースピリットのようなものは、先生がいくら教えても身につくものではありません。ですから、意識面に関しては実際に起業して大成功した人や大失敗した人を大学に連れてきて話をしてもらうようにしています。大学という教育機関だからこそ、フラットに協力してくださる方も多い。
意識面では大学外の人の力を借りながらインスパイアさせてもらって、会計や知的財産といった起業家として最低レベルの知識を大学が教えるようにしています。
起業をするタイミングの見極めポイントは「人脈」
――最近でいうと、資金調達ブームみたいな動きがありますよね。「10億円調達しました!」というニュースもよく見かけるようになりました。そういった流れの中で、先ほどおっしゃった「人様のお金」という知識や意識が重要になってくると感じます。
これも20年前のネットバブルの頃に痛感しましたが、お金が余っている時期って、売上がほぼ無いようなベンチャー企業でもすごい高い時価総額がついて、多額の出資を集めることができちゃうんですよね。
こういうときに何が起こるかというと、例えばドンと2億円出資してもらって、合わせて借入もして、お金持ちになった気になって贅沢し始めて、何だかんだやっているうちにどんどんお金が減っていって……お金を使い切った頃にバブルが弾けて、借金が払えなくなっちゃった。なんていう現象を山のように見てきました。
なので、人様と自分のお金をしっかり区別して、人様のお金で決して調子にのらないこと。これは特に最近のように資金調達市場が盛り上がっている時期にはよりいっそう求められる意識だと思います。
――それは「学生起業家がぶつかる壁」といったところにもつながっていくのかなと思うのですが、先生から見て、学生起業家のみなさんがぶつかる代表的な壁にはどのようなものがありますか?
5万人くらいが加入しているサービスを誕生させて、出資を2000万円くらい受けて、そんな中途半端に成功したタイミングに、Googleなどの大手企業からオファーが来て就職するか自分のビジネスを続けるかで葛藤する……というケースは学生起業家特有の壁としてよくありますね。
このビジネスでそのまま大成功できるとは思えないけど、義理のある人から出資してもらってるから「会社を畳んで就職します」とはとても言えない、みたいな。
そんなときには、私は教育者の立場から、「これを糧として一回大組織で働いて学んでみて、またやり直してもいいんだよ」と言ってあげるんですけれど、義理堅い学生に限って深刻に悩みますね。
――20年前の、ベンチャーが未成熟な頃に比べて学生の傾向は変わってきたりしていますか?
40代前半の起業家の層がすごく厚くなってきたので、起業家に対する理解も進んできましたね。20年前は社会全体として「起業」というものがわかっていませんでした。その時代に比べると、起業とはこういうものであるという共通認識が学生の間にも浸透しているように思います。
――たしかに、今は学生にとっても「起業」が普通の選択肢になっていますよね。
ようやく起業がだいぶ自然な選択肢になってきましたよね。ただ海外と比べるとまだまだだとは思いますけれど。
SFCですら、画一的な就職活動で企業の内定を取ろうと躍起になっている学生が8割9割じゃないですかね。そうじゃないことを考えている人が1割くらいいると、凄く目立つレベルですよね。日本は。
とはいえ、生徒には誰でも起業すべきというようなことは決して言っていません。
先ほど(第1話リンク)でもお話ししたように、起業は情熱やスキルに加えて人脈・ネットワークがモノをいう世界です。そういう意味では学生の同級生間とかで集まってやるのが必ずしも正解ではなく、数年大組織で経験や人脈を獲得したうえで、タイミングが来たらやるという意識でいいんだよと伝えるようにしています。
そのタイミングが来た時に、困らないだけのスキルは学校で提供しておいてあげたい。そういった想いで日々生徒に接しています。
>第3話「緊急特別講義?起業家としてのビジネス思考法」に続く
>第1話「起業家大国 SFC教授が語る起業家の条件」に戻る
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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