#インタビュー
SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)で総合政策学部長、研究所長などを歴任し、現在は慶應義塾常任理事を務める國領二郎教授。長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣について聞いた。(全6話)
一歩引いて、俯瞰して思考することの重要性
――少し切り口を変えてお尋ねします。大学はやはり理論を学ぶ場だと思うのですが、それを実践に応用するには隔たりもあるのではないかと感じています。どうやれば、知識や理論が生きた実践に繋がるのでしょうか?
僕は、理論と実践の間に溝を作らなくてもいいんじゃないかと思っています。実践を通じて理論を磨くようなことがあっても構わないですし、逆もしかり。むしろ、大事なのは常に「科学的に考えること」です。
――科学的に考えること、ですか?
エビデンスを大事にしつつ、現場で目の前に見えているものだけにこだわるんじゃなくて、より抽象化したところで考えるという意味です。
たとえば、こう考えてみてください。だんだん学校の授業みたいになってきましたが(笑)。
今、「シェアリングエコノミー」が話題ですよね?なにが変わったからこんなにブームになったんでしょうか。そもそもシェアリングエコノミーってなんなんでしょう?シェアっていうけど、一体何をシェアしてるの?どう思います?
――何をシェアしているか……。普通に考えると使われていない資産やモノでしょうか?
なるほど。じゃあ、なぜそれができるようになったんでしょう?今までだってそういう形態のビジネスはありましたよね。貸し会議室とか。
――情報化によって世の中に存在している余剰なモノが、情報として色んな人の前に平等に顕在化してきたおかげで、「どこに何があって、どう借りられるか」が最適化されてきたというか……。
なるほど。顕在化、最適化ね。
――本当に授業みたいになってきましたね(笑)。
という風に考えることが、私が言う「科学的に考える」ことです。
一歩引いて物事を抽象的に考えてみて、だったらどこが残っているとか、これができるようになるだろうとか。そのような思考法で常識に先んじてチャンスを捉えることが起業家には必要です。
今「シェアリングエコノミーとはなにか」について、DIさんがおっしゃっていただいたようなレベルでビジネスについて投資家に説明できれば、とてもいいですよね。だから理論と実践は矛盾していないと思っています。科学的に考える癖をつけることが重要です。
現象を抽象度の高い所から「科学的に考える」
――おっしゃる通りです。現象を一歩引いて見てみて、その中で理論などをちゃんと理解するというのは、起業家だけでなく全ビジネスマンにとって未来を見据えるために必要な思考方法ですね。
そう思います。だからあまり「ビジネスのために勉強するぞ!」といきり立たないで、是非勉強したことをビジネス化して欲しいし、ビジネスをやりながら「これはどういう現象が起こってるんだろう?」と、ひとつ抽象度の高いところで考えてみて「こんなことが起こってるのか!」と気づいて欲しいんです。
その気づきこそが、次のビジネスチャンスにつながると思うんですよね。
――その思考方法は流行に流されず、時流の本質を見極める際にも重要となりそうですね。
歴史的に見ても、「バブル」は必ずはじけます。近年のAIを見ていても、確かに技術革新には目をみはるものがありますが、明らかに期待が実力を上回ってしまっている。その実力以上の上振れは必ずいつかクラッシュします。
一方で、バブルがはじけたからといって、必要以上に見限ってしまうのもおかしい。ネットバブルの時も、煽りに煽ってお金を大量につぎ込んで、バブルがはじけた瞬間に見向きもしなくなったような人がたくさんいました。でも、だからといって、インターネットが嘘だったかと言われれば、そんなことは決してない訳です。インターネットは間違いなく世界を革新しました。
なので、様々な現象を一歩下がって自分なりに「科学的に考える」こと。これは長年企業を経営していく上では必須の思考方法だと思います。
>第4話「第一人者が語る、日本のベンチャーに課せられた使命とは」に続く
>第2話「自分が起業すべきタイミングがいつなのかを見極める方法」に戻る
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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