#インタビュー
SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)で総合政策学部長、研究所長などを歴任し、現在は慶應義塾常任理事を務める國領二郎教授。長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣について聞いた。(全6話)
強さの裏には必ず弱さあり
――日本のベンチャーだからこそ戦うべきフィールドや業界、地域などはありますか? 今、世界はGoogle、Facebook、Amazonといった欧米系に席巻されていますし、ここからどうやって逆転できるのかなと。
これはもう経営戦略論的に、出遅れてしまったときの定石として、「ネクストジェネレーション」を狙うべきだと思います。
今強い企業っていうのは、数年前の技術体系の中で優れたものを作ったので強いんですよね。その強さは弱さと表裏一体なんです。強さゆえの弱さを持っています。
20世紀型ハードウェアづくりにおいて素晴らしければ素晴らしいほど、21世紀のナレッジ型の産業では上手くいかなくなった、というのも強さゆえの弱さの代表例です。
――確かに。歴史はそれを証明しています。
だからこそ、Googleにも究極的に強くなったゆえの弱さがあるはずなんです。
例えば、今はIoT(モノのインターネット。さまざまなモノをインターネットに接続し、制御する仕組み)が話題になってますけど、そこでよく言われているのは「クラウドは自動運転するためには遠すぎる」という話です。
自動運転の場合、レスポンスに0.5秒かかったら、事故で人が死んでしまいますよね。なのでクラウドではなく、今のテクノロジーをもっとローカル処理できなきゃダメなんです。
そう考えると、クラウドの覇者がIoTの覇者になれるかというと、そこはかなりクエスチョンマークだとも考えられますよね。エンタメや音楽、メールならクラウドで良いかも知れないけれど、人の命を預かるようなものはクラウドには任せられない。
であるとするならば、徹底的に自動運転にチューニングしたようなシステムに勝機がある可能性があるわけです。こういう見方をすることで、一見隙が無いように見える相手でも、勝機を見出すことができます。
――なるほど。今、自動運転についてお話がありましたけど、そういった見方をすることで、他にもチャンスがたくさん転がってそうですね。
弱者が強い敵を相手取るには、言い方は少し乱雑ですが「相手のアキレス腱となる箇所を探して、蹴り飛ばす」というのが戦い方の定石です。
例えば日本企業は過去に、世界の自動車産業のアキレス腱を思い切り蹴り飛ばしましたよね。1970年代、欧米ではパワフルなエンジンを積むことで、豪華さと乗り心地の良さを実現する車が全盛でした。そんな中、石油などの資源を持たない日本が、小さなエンジンの軽自動車にエアコンを積んでオートマティックで走らせるという離れ業をやってのけた。それがオイルショックという追い風も吹いたおかげで、一気に形勢逆転し世界を席巻したわけです。これは強さが弱さに変わった典型的な瞬間です。
視点を変えて見てみると、パソコン産業は自動車産業に近いようにも見えます。
CPUの容量は加速度的に進歩するものの、それを使うソフトウェアがついていけていなくて、結果的にソフトウェアに無駄が多くてもCPUが大きいので動いてしまう。そうすると、日本お得意の徹底的にすり合わせて無駄を減らして……というやり方は逆に弱みになってしまっています。
――でもムーアの法則も終わろうとしています。
その考え方が重要なんです。
ムーアの法則が成立している時代には圧倒的に強かった相手が、止まった時にどういう弱みを露呈してくるか。その弱みの部分に今のうちに狙いを定めて、投資しておけばいいんです。
――確かにおっしゃることに納得できる一方で、漠然とした疑問も浮かんできます。大企業とは言っても、特にインターネット企業は組織としてのあり方が過去とはだいぶ異なるのではないでしょうか。強いけど柔らかい、というか…。例えばGoogleの「システム」は覆るかもしれないけれど、Googleという「組織」は覆らないのではないか、というイメージです。
確かにそうかもしれませんね。
逆に経営者視点としては、それを目指すべきですよね。未来永劫続くものなんて無い、という前提で、いかに自身を革新し続けられるか。
とはいっても、私はGoogleにも絶対「アキレス腱」はあると思ってますけどね。
シリコンバレー流・イノベーションの「アキレス腱」
――ちなみに、いままで米国・シリコンバレー型との対比という観点で話を進めてきましたが、成長著しい中国はどう見ておられますか?
「中国モデルをどうとらえるか」というのは、真剣に考えるべきところですよね。
私もいままでシリコンバレー型の、オープンな環境こそがイノベーションを生むという考えでいましたので、中国のようにある種、閉鎖空間の中でやっても絶対成功しないと思ってたんです。けれど、中国単体で十分に市場が大きいゆえに、きちんと成立していますよね。
むしろ、中国の中で成功したモデル、例えばWeibo(中国版Twitter)やAlipay(オンライン決済サービス)は中国の外でも使えるようになってきた。中国という空間で起こったイノベーションが世界に革新を起こし始めている。これは、もはや今までの考え方を改めざるを得ない、新しいモデルの出現だと感じています。
――イノベーション創出モデルでも、現在の常識ではない部分が出てきていると。
それを言うと、私の世代の考え方では古くて対応できないのかもしれません。私の世代では開放的で自由であることこそがクリエイティビティの源泉だと信じてやってきて、それなりに成功してきたように思います。
でも今は違うモデルが到来しているという気もします。それを謙虚に受け止めなくてはいけない。いままでの常識ではオープンであることを是として、そのオープン性を保つために多種多様なコストを払っていますが、それをバサッと省いてしまっていいんだったら、簡単に色々なことができる。これは旧来の考え方にはないイノベーションモデルだと感じています。
そう考えると、自由さ・オープン性こそがシリコンバレー型のイノベーションモデルが蹴り飛ばされつつある「アキレス腱」なのかもしれませんね。
だと仮定するならば、その先を見据えて、さらに逆転するために何をすればよいか。そのようなしたたかさが我々には必要です。その作戦も立てなくちゃいけないですね。
>第6話「若者達よ、現状に安住するな。そして絶望するな。」に続く
>第4話「第一人者が語る、日本のベンチャーに課せられた使命とは」に戻る
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著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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