#起業家の素養
「社会基盤の最適化」を目指し、生産や配船といった極めて複雑な運用計画に特化した計画最適化ソリューション『Optium(オプティウム)』を開発・提供している株式会社 ALGO ARTIS。株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の中で AI を活用する新規事業としてスタートし、2021年7月にスピンオフし設立された。同社代表取締役社長 永田 健太郎氏に起業家の素養、スピンオフなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)
大事なのは「社風とビジネス上のWin-Win」2要素
ーー御社はDeNAからのスピンオフをご経験されていますが、友好的なスピンオフを成功させるために注意すべき点は何でしょうか。
まず前提として、スピンオフが出来るかどうかの生殺与奪の権利は親会社側にあります。拒まれたらもうそこで終わりです。
よって、スピンオフの成功のためには、親会社がその選択を許可するかどうかが大きな鍵となります。
DeNAはスピンオフを承認してくれましたが、それは「起業家を育てていくカルチャー」を持つDeNAの懐が深かったからだと思うんです。したがって、そういった親会社の社風が前提として必要だと思います。
それに加えて、結局は会社対会社の話ですから、双方がWin-Winの関係を築けるようにディールを組むことが重要です。
DeNAは上場企業ですから、スピンオフやカーブアウトを行うにあたっては、経営会議などを含めた適切な意思決定が必要です。そのため、そこで筋が通るようにディールを組み上げなければいけません。
その際、親会社のメリットはもちろん重要ですが、スピンオフが新しい事業にとって良い判断であることも同様に重要です。
我々の場合、前者はALGO ARTISの成長に伴う持ち株の株価上昇といった親会社としてのビジネスメリットなど、後者は事業の成功のためのリスクを取ったスピード経営や、重厚長大産業への長期のソリューション提供に対するコミットメントとして事業の独立性の必要性を訴求しました。
スピンオフにおいては、親会社の社風とビジネス上のWin-Win、その2点が成功する上で重要な要素となりますね。
ーー社内に新規事業部門を持つ大企業が、スピンオフを成功させるための土壌を作るにはどうすればよいでしょうか。
新規事業の育成やスピンオフの方針に関して、意思決定者を明確にすることだと思います。
「誰が決定を下すのか分からないから進まない」という状況はよく見られますが、大企業では特に、その点を明確にする必要があります。
そして、その意思決定者が「会社の成長」や「社会への価値提供」など広く長期的な観点で強い意志を持っているか。結局、我々のような小さなスピンオフなんて親会社からすれば、狭く短期で考えたらやってもやらなくても大したインパクトは無いわけです。そうなると広く長期的な観点で不確実性のもとで判断する必要があるため、誰かが意志をもたないといけません。
この要素が欠けていると、モヤモヤと停滞し、何も進まない状況になってしまうと思います。
PoCで満足しない覚悟と泥臭さを
ーー御社は設立から2年という若いスタートアップでありながら、関西電力株式会社などの大企業とも取引されています。大企業に対して価値を提供しながら事業を拡大するポイントについて教えてください。
大企業からのスピンオフであることが、我々にとって大きなアドバンテージだったと思います。実際、関西電力さんや東北電力さんなどとの取引が始まったのは、私がDeNAにいた時のことですから。
新規のスタートアップにとっては難しいビジネスのスタートの仕方が、スピンオフだと可能になります。スタートアップはどうしても社会的信用が低く、良いサービスを提供できていてもなかなか大企業に取り合ってもらえない。スタートアップや産業全体の成長のためにも、このような取り組みがもっと増えて欲しいと思いますね。
スピンオフ後に事業を拡大するポイントとしては、「正直にビジネスすること」に尽きるかなと思います。
AIブームがあり、多くのPoC(Proof of Concept:試作開発に入る前の検証のこと)が作られました。しかし、今も使われているかと言うとその多くが現場で使用されていない。それは、価値を創出していないからで、大企業もこれに気づいています。
それに対して我々は「価値の創出」、つまり現場で日々使ってもらうことにこだわっていて、それをきちんと説明するようにしています。
我々のビジネスでは顧客と共同でプロジェクトを行うことが多いのですが、AIやDXのような先進的なプロジェクトには、必ず不確実性が伴います。途中で諦めようと思ったらいくらでも諦められるような難しいことが常にあるわけで、その不確実性を乗り越えて何とかしていく泥臭い根性が必要なんです。
そうやって誠実な姿勢をプロジェクトで貫き、最後の価値提供まで達成できれば、顧客の信頼も生まれますし、それが積み重なって「別の部分もお願いしたい」「他のお客さんを紹介しますよ」と次のお話に繋がることもあるので、そこはすごく大切にしています。
スタートアップ界隈の代表と話をすると、Tier1と言われる大きな顧客の最初の実績を獲得するのが大変だとよく聞きます。本当は良いサービスなのに、社会的信用が不足しているために適切に評価されていないことはよくあると思うので、その点では我々のようなスピンオフ起業はそれを解決する仕組みになると思いますし、もっとスピンオフ起業が増えることを期待しています。
実際に運用されるという視点で設計する
ーー実際に大企業の現場で使われるサービスを提供するために意識すべき点について、お伺いさせて下さい。
プロジェクトをスタートしたばかりの段階では、「とりあえず始めれば良いか」と気持ちが緩みがちです。しかし本来は、設計段階から、運用までを前提に考えて進めなければなりません。
製品を作った経験がある人なら分かると思いますが、PoCで終わる前提のものと、実際に本番環境で日々使ってもらうような製品は、設計段階から考え方が全く異なります。
ですから、初めから「ちゃんと運用される製品を作る」という視点で設計を進めることが何よりも重要です。
例えば、PoCで終わって良いのであれば必ずしも現場の人々が使う必要はないです。顧客のDX担当者とだけ会話すればいい。しかし、現場で実際に使ってもらうためには、現場の人々を巻き込んでいく必要があります。現場の人なら、「このままいったら現場で使われない」ということはすぐわかるんですよね。
現場で毎日働いている人々を巻き込んで、その人中心にプロジェクトを進めることで、きちんと使われるものが作れるようになります。
ーー大企業に価値提供する際の営業や開発フェーズ、または導入サポートで重要なポイントは何でしょうか。
一つは、我々が取り組んでいる領域が高度で不確実性のあるものであるという前提に立ち、各フェーズを適切に区切ることが重要です。
最初から「1年で導入しましょう」と約束してしまうと、途中で「これは微妙ではないか」と感じた時に、プロジェクトを止められなくなります。
そうすると、顧客も困りますし、我々にとっても貴重なリソースを無駄に割いてしまうことになる。
各フェーズを適切に区切りながら、「これは価値があるのか」ということを両者でフラットに議論をしていくと、運用に乗るものが生き残ります。
逆に、このステップを踏まずに進めると、運用に乗らないゾンビのようなプロジェクトが生まれてしまいます。そうならないことが両社にとっても社会全体にとっても重要です。
だからこそ、「価値が創出できるかどうか」に注意しながら各フェーズで適切な判断を下すことが重要だと私は考えています。
(次回に続きます)
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家弓 昌也
名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。
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