#人事・組織
ベンチャー経営者が常に頭を悩ませる「採用」。昨今の売り手市場で適切な人材を見つけ、仲間にしていくのは簡単なことではない。そんな中、経営者は採用にどう向き合い、何をすべきなのか。そのヒントを探るべく、ベンチャー人事に長年携わり深い見識を持つキープレイヤーズ高野氏、働き方ファーム石倉氏の2人にベンチャー採用のあるべき姿を聞いた。(全4回)
高野秀敏(株式会社キープレイヤーズCEO/代表取締役)
1999年、当時未上場の株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)入社。人材紹介・転職サポート・人事で経験を積み、2005年に株式会社キープレイヤーズを設立。ベンチャー企業に対する転職支援・人事コンサルを行い、これまで1万人以上の求職者と面談。就職・転職に関する著書多数。
石倉秀明(株式会社キャスターCOO、株式会社働き方ファーム代表取締役)
2005年、株式会社リクルートHRマーケティング(現株式会社リクルートジョブズ)入社。2009年、当時社員5名だった株式会社リブセンスに転職し、主力事業の責任者として同社の上場を牽引。その後株式会社DeNAで採用責任者等を歴任し、2016年より現職。個人事業主としても多くのクライアントの採用や事業立案、営業部門強化のサポートなどを行い、同年、株式会社働き方ファームを設立。
採用が上手くいっているベンチャーは、必ず経営陣が採用活動にコミットしている
――まず最初に、ベンチャー企業の採用活動における経営陣のミッションとは何でしょうか?
高野:とにかく経営陣が自ら前線に出て自社の魅力を候補者にアピールすることです。特に社長が採用活動にあまりコミットしない企業は採用に苦戦しやすい印象があります。
石倉:そうですね。理想は社長が相当な時間を採用活動にかけることですが、実際は前に出ることが苦手な社長も多いので、経営陣の少なくとも1人は採用にコミットをさせるべきだと思います。経営陣が早い段階から積極的に候補者に会い、自社の魅力を伝えるべきです。世の中の殆どの人からすれば、敢えてベンチャーに入る理由なんて無いわけですから。どのように候補者から自社が思われているかを理解したうえで採用活動をすることが重要です。
例えば私がCOOを務めている会社では、必ず私が1次面接に出て、候補者の惹きつけを行なうようにしています。
また、視点を変えると、会社の内部に対して「採用は大事」というカルチャーを浸透させることも必要なので、経営陣が先頭に立って採用活動をすることは重要だと思います。
――実際に経営陣の積極性が功を奏して採用に成功している企業の具体例を教えていただけますか?
石倉:過去に私が在籍していたDeNAは顕著で、経営陣が他社と比べて圧倒的に採用に時間を使っています。創業初期の頃はもちろんですが、未だに南場さん(代表取締役会長)の仕事の30%以上は採用に割かれているくらいのイメージではないでしょうか。
そのくらい会社として採用の優先度を高くしているので、他社の人事担当者から聞くような、「面接官の依頼を役員に断られて困る」といったことが全くありませんでした。新卒採用のインターンでは執行役員が四日間付きっきりなこともありました。DeNAは採用が上手いと言われる理由には、そういった経営陣の圧倒的なコミットがあると思います。
高野:古い例ですが、リクルート創業者の江副さんが、「新卒採用の最終面接があるから」と言って大臣との面会予定をズラした話は分かりやすい例ですよね(笑)。常にそうしていたわけではないでしょうが、そういう逸話が残るくらい採用に時間と情熱を割いていたことが伺えます。
あとは、非常に積極的に声をかけるタイプの社長もいます。私がプライベートで通っているジムで、某ベンチャーの社長と一緒になることがあるんですが、彼はジムのインストラクターを気に入ったら「君、うちの会社で働かない?」といきなり誘うんです(笑)。
石倉:新幹線で隣の人に名刺渡して口説く社長というのも聞いたことがあります(笑)。
高野:ただ、決して適当に声をかけているわけではなくて、明らかに人を選んでいる。トップがそこまで積極的に人材獲得に動く会社はやはり大きくなっているように思います。普通の人はベンチャーに入ることを躊躇するものなので、会社側が前のめりじゃないといけない。極論、その時に採れなくても、後に続く縁ができれば良いわけですし。
石倉:確かに、そこまでトップが動いてくれる会社だと、エージェント側からしても安心して紹介できますね。
本気で採りたい人を口説いている企業は、案外少ない
高野:あるベンチャーでは、経営陣しか見れない「口説くリスト」というスプレッドシートを作っています。経営陣が、「この人に今週連絡したか」「ランチに誘ったか」といった内容を全てToDo管理しているんです。
石倉:それは凄いですね。
高野:「あの人はさすがに口説けないだろう」というレベルの人に対して社長が自らどんどんアプローチするんです。口説かれた側の人が「このくらい前のめりじゃないと成功できないんだな」と感心していました(笑)。その方は結局口説かれて入社したのですが、その際に社長が「どの会社の人も『○○さん良いよね、辞めてウチに来ないかな』と口では言うが、本気で口説いたのは自分たちだけだった。だからうちに来てくれたんだ」と言っていたのが印象的でしたね。
石倉:確かに、そこまで本気で口説きにいっている会社は少ないのかもしれません。
高野:もちろん自社の事業に実績がないと誘いにくいという面はありますが、業界を見てきた経験的には1~2人であればどんな会社でも本気で口説けば採れると思います。
石倉:仰る通り、「会社を変えるようなキーマンに入って欲しい」というタイミングであれば、タブーを作らず本気で働きかけるべきですね。
高野:高望みが大事です。特に幹部人材は高望みした方が良いと思います。
役割分担でミスマッチを防ぐ
――一方で、経営陣が前に出すぎると採用後に現場とのミスマッチが増えるのではないでしょうか?
高野:やはりどこかでミスマッチは起こります。なので、会社の規模が大きくなってきたら色々な社員が候補者を見るようにすべきだと思います。
石倉:最初の声は経営陣がかけて、マッチするかの見極めは現場社員が行うと上手くいく場合が多いですね。
ベンチャー企業の採用で一番難しいのは、面談のテーブルについてもらうまで。採用が上手くいっていない会社は、往々にして候補者を選考して、自分たちが採ると決めてから口説いています。しかし、それでは良い人はなかなか集まらない。なので、まず最初に口説いてから選考するという意識を持つことが大事です。候補者が会社のことを先に好きになってくれていれば、あとは何とでもなりますから。だからこそ最前線に経営陣が出ていくべきだと思いますし、極論、社長は口説くのが上手ければ見極めが出来なくても大丈夫だと思います。
高野:そうですね。見極めるのは一緒に働く現場の人に任せればいい。
石倉:ベンチャー社長はよく「口説く」と「見極める」をセットで考えている方が多いですが、現場の仕事から離れてくると見極めはだんだん難しくなってきます。なので、経営陣は口説くことに集中して、実務面でワークするかは現場、カルチャーが合うかは人事担当者が見極めを行う、というような役割分担が理想だと思います。1人で色々な要素を見ようとするからミスマッチが起こるんです。結局のところ「餅は餅屋」ですから。
DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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