#インタビュー
「日本の工場から、世界一流のブランドを作る」というビジョンに基づき、山田氏自らが直接足を運んで厳選した工場と顧客とを直接繋ぐファッションブランド「ファクトリエ」。同ブランドを生み出し、ものづくりのあり方を変えようとするライフスタイルアクセント株式会社代表取締役・山田敏夫氏に、社会的価値を生み出す起業について聞いた。(全6話)
リスクを徹底的に可視化し、覚悟を決める
――起業家にとって大事な3つの要素の中で(第1話リンク)、まず視座を高く持つことが重要ということでしたが、ベンチャーを経営していると、壁にぶつかって志がブレる……なんてことも起こりがちなのではないかと思います。そういう志のブレが生じたことはありましたか?また、生じたとしたらどうやって乗り越えましたか?
いままで志がブレたことは全然ないんですよ。
我々がやってることは「日本や世界におけるものづくりという文化を絶対に残していくべきだ」という信念のもとやっていて、その想いにブレはありません。
一方で、その裏では挑戦したときに負うべきリスクを出来るだけ可視化する努力もしています。リスクは目に見えないから怖いんです。できるだけリスクを可視化して可視化して可視化していくと、最後にはお金の話になります。それだったら、たとえば、私が30年アルバイトすれば借金は返せるだろうな、とか覚悟を決められますよね。社会にも迷惑をかけないですし。
むしろ、得体のしれないリスクを恐れて普通のアパレルブランドになってしまうことが一番怖い。たとえば卸を始めるとか、原価率を下げるためにアジアで作り始めるとか。そうすると我々の存在価値は無くなってしまう。自分のやろうとしていた世界と食い違いが出てきます。だからこそ、リスクを徹底的に可視化することで、志がブレないようにしています。
――リスクを可視化したうえで、それを背負う覚悟を決めておられる。
時代の新しい扉を開く人は、誰しもがリスクを背負う覚悟を決めていますよね。坂本龍馬だって、「新選組から斬られるかも」と思って何もしなかったら時代は変わらなかった(笑)。
我々も時代の新しい扉を開く一助をしていると思っています。
今、時代の変わり目にあるテーマとして「資本主義は人や世界を本当に幸せにしたのか、これからもしていくのか」というのがあると思います。それは先にお話しした(第2話リンク)「感性 vs AI」という話とも繋がってきます。1900円でシャツが買えるこのご時世に1万円のシャツを我々は販売していますが、それを着ているということは「感性を大切にする」という意思表明であり、日本のものづくりを残していくってことへの大義だと思っているんです。
例えリスクがあろうとも、地球規模で世の中が幸せになることをしていると絶対的に信じているので、志がブレることは無いです。
会社の方向性をぶらさないための、社員の自浄作用
――社員の皆さんは日常業務に追われて視座が下がりがちになることもあるのかなと思うのですが、それを常に引き上げる工夫は何かされていますか?
私が言うのもなんですけれど、凄くいい仲間に恵まれていて、自浄作用の強いメンバーが集まっていると思います。
我々ももちろん売上をシビアに追いかけています。でも売上をなぜ追いかけるかというと、ある程度の発注額を工場に出して儲かってもらわないと、我々は綺麗ごとを言っているだけの人になってしまうからです。
だから単に売上至上主義になるのではなくて、自浄作用を働かせながら「コレってこのまま増やしていいんだっけ?」とか、「みんなが思わずクリックするフレーズを入れたほう売れるけど、それって僕ららしいっけ?」とか、一つ一つの行動を葛藤しながら判断してやってくれています。
ひとつ工夫として言うならば、そういった「自浄作用が働く人か」の確認は採用の時に済ませています。弊社では採用時に、must、can、will……つまり、自分がやらなきゃいけないこと、できること、自分が将来どうなりたいかを全社員に向けてプレゼンしてもらうようにしています。
――なるほど。組織の志をブラさないために、エントリーマネジメントが重要だということですね。もう少し、御社の採用について詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
採用自体は今、HP経由と社員紹介経由が主で、ファクトリエのお客様だったというケースも多いです。その点では理念に凄く共感してもらえていますし、大量採用したり、エージェントを使って公募したりする訳でもないので、そもそも応募してくる時点で既にマインドがマッチしている方が多いというのはあるかもしれません。
そのうえで、先ほど言った全社員へのプレゼンの時には、各社員10項目ほど見るポイントがあって、それが一定を超えていないと一切採用はしていません。
見ているポイントとしては、一般的な「素直さ」や、「コツコツした業務をちゃんと楽しめるかどうか」というのも見るんですが、最も重視しているのは「自分のwillが会社のwillと繋がっているか」です。私の最終面接では、willの部分を徹底的に聞くようにしていますね。
「しごと」には「仕事」だけでなく「私事」や「志事」もあると思っているんです。週5日、誰かの人生のために仕えてお金の奴隷になるのではなく、自分のwillが会社のwillと繋がっていれば、「自責100%」で物事に当たれる。これは凄く大事なことで、99%や98%ではだめなんです。残り1%や2%に甘えてしまうので。「目の前にあるゴミを拾えるか」とか、「自分があと5分残業して他の人を手伝えるか」とか、そういった自責100%だからこそできる事をしっかりとやれる、自分の人生をしっかり歩んでいる方を採用したいと思っています。
――ただ、「会社のwillが人生のwillと繋がっているか」は、一回会っただけでは深く分からないのではないかと思います。それを見極めるために、必ず聞く質問などはありますか?
そこでいうと、「自分が死ぬときにどういう状態だったら幸せですか?」みたいなことは聞くようにしていますね。たとえば、「できるだけたくさんの人に見守られて死にたい」とかだったら、「じゃあそうなるにはどうすればいいんだっけ?」と話を展開して聞いています。
あとは、「1日でもいいので、実際に働いてみてください」と言うようにはしています。おっしゃるように、1時間で価値観を深堀りするのは本当に難しくて、どんな面接官でも完璧には無理ですよね。1日でも一緒に働くとランチの時間を共にしたりすることで、その人が何に喜び何に悲しむのか、というような信頼関係の醸成ができます。候補者の方にとっても現場メンバーにとっても齟齬がなくなるので、意識的にそういった時間はとるようにしていますね。
>第5話 「100年続く世界ブランドへの道のり」に続く
>第3話「本物のブランドをつくる唯一の方法とは」に戻る
>ファクトリエ公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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