100万ユーザーのデータを基に、対話型金融の世界へ/株式会社400F 中村 仁社長(第4話)

業務提携の本質は、提携先企業に解決策を提供すること

ーー御社は多数の金融機関と業務提携を結んでいます。大企業との提携において、決裁プロセスの長さがスタートアップにとっては負担となることがありますが、交渉の進め方にポイントはありますか。

弊社は証券業界において、楽天証券株式会社と株式会社SBI証券の両社と提携を実現しています。このような幅広い提携は業界内でも稀有な事例だと認識しています。

さらに、銀行分野では地域金融機関との協業を開始し、ポイント事業ではPonta(株式会社ロイヤリティ マーケティング)との提携も実現しました。つまり、特定分野に限らず、多岐にわたる業界の企業と協力関係を構築しています。

このように多様な企業と提携できているベンチャー企業は多くないと思います。

単に製品やサービスを売り込んでも、業務提携どころか競合とコンペになってしまい、機能や価格のみで評価され、交渉が停滞してしまいます。

では、我々が業務提携を提案する際に意識していることは何か。

業務提携の本質は、自社の成長ではなく、提携先企業が直面している課題や将来的な目標に対する解決策を提供することにあります。

そこで我々が採用しているのは、コンサルティング的なアプローチです。

まず、提携先企業の中期経営計画、決算資料、業界レポートなどを徹底的に分析します。

加えて、弊社独自のデータも活用しています。BtoCビジネスを展開しているため、そこから得られるデータと業界に対する深い理解を基に、仮説提案を行っています。

決算書を綿密に分析した上で、「貴社はこのような目標を掲げていらっしゃいますが、おそらくこういった観点で課題があるのではないでしょうか」といった提案を行います。

そして、「弊社は現在このような取り組みを行っており、このようなデータが得られています。弊社との提携により、このような成果が期待できるのではないでしょうか。その実現のために、弊社のプロダクトをご活用いただければ」というように、プロダクトの提案は最終段階で行うようにしています。

さらに、トップダウンとボトムアップのアプローチを適切に組み合わせることも重要です。

例えば、経営層同士で合意に至ったケースでも、大企業の場合、経営層が実務レベルまで関与することは稀です。そのため、実務担当者レベルでの協力関係構築が不可欠となります。

業務提携自体は努力次第で実現可能かもしれません。しかし、最も重要なのは、その提携関係を継続的に維持することです。それはトップダウンだけでは実現しません。

野村證券時代に「全館営業」と呼んでいた手法を参考に、様々な部署、階層の方々とコミュニケーションを取り、私一人ではなく、弊社の経営陣やチームメンバーも積極的に関与し、相互理解を深めていきます。

このような総合的なアプローチにより、業務提携の実現と、その後の円滑な事業運営が可能となっています。

 

フィンテックは対話型AIによって変容していく

ーーテクノロジーの進歩によってキャッシュレス決済や仮想通貨などが普及し、ユーザーの行動変容が起きている中で、金融業界は大きく変化している最中だと思います。2016年から本業界に在籍してきた中村社長から見て、フィンテックの現在のトレンドと今後の見通しについてのお考えを教えていただけますでしょうか。

「対話型金融」が今後の顧客体験の主流になっていくと考えています。

フィンテックについて、日本は欧米と比較して特徴的な点があります。

日本では、金融資産分布のマス層には金融資産5,000万円未満の世帯が該当しています。

海外では超富裕層が莫大な金額を保有しており、そこでのビジネスが発展しやすいのですが、日本は中間層が多いマーケットなのです。

では、この層に対してどのようなビジネスが展開されているか。

例えば日本ではNISAが大きなブームになりました。

しかし、実はNISAの口座ごとに見た稼働率、つまりNISA口座を開設してお金を入れ、何かを購入する割合は、証券会社によっては50%程度にとどまっています。

つまり、何を買えばいいかはほぼ決まっていて、インデックスを購入すればいいと思っているものの、最後の一歩を踏み出せない人が多いのです。

2015年、2016年頃からのフィンテックは、全て金融商材的なフィンテックだと考えています。

ロボアドバイザーや、ポイント投資、家計簿アプリなど便利な金融商材が登場しても、それを実際に使ってもらえるかどうかという支援の部分、いわゆる仲介機能が課題と考えています。

そしてここが、今までイノベーションが起きていなかった部分で、生成AIを軸とした対話型AIは、今後明らかに金融体験を変えると思います。リアルな店舗でもなく、ネットで全て自分でやるのでもない、この両者が組み合わさった新しい金融の形です。

そもそも、人にとってのお金の問題は、証券だけ、保険だけといった部分的なものではありません。全体的に取り組む必要があるのです。

では、なぜ誰もトータルで提案しないのか、これが私にとって不思議なところです。そして、これは我々が目指すところでもあります。

結局のところ、今後のフィンテックは、対話型金融を通してデータをどう活用し、様々な金融商材をどのように使ってもらえるようにするのか、という方向に向かっていくでしょう。

そこでイノベーションが起きていくのではないかと考えています。

 

100万ユーザーのデータを基に、対話型金融の世界へ

――それらの金融における変容を踏まえ、御社の今後の展望について伺えますか。

我々が今後チャレンジするのは「対話型金融の社会的な実装」です。

実は、創業時から今述べたような仮説を持っており、この実現のために長年データを蓄積してきました。現在、累計100万ユーザーを突破し、家計データ、チャットデータ、面談データなど、多岐にわたるデータを保有しています。

これらのデータを基に、自動的に対話ができるAIを現在開発中です。

つまり、先ほど言及したように、ネットでの自己完結でもなく、リアルでもない、本当にユーザーの皆様と伴走できる対話型金融が今後来る世界だと考えています。

そこにチャレンジするためには、何よりもノウハウとデータが不可欠なのです。

我々はこれまでずっとデータを蓄積し続け、ようやく100万ユーザーを突破したことで、様々な方針を打ち出せるようになってきたのです。

今後は、この対話型金融の分野に我々は全力で取り組んでいきます。

 

古家 広大

古家 広大

早稲田大学卒業後、三井住友信託銀行に入行。 広島にて個人向けFP業務を行った後、大阪にて法人RMを経験。非上場からプライム市場の企業まで担当し、融資や不動産など信託銀行の幅広いソリューション営業に従事。また、ESGやSDGsをはじめ、CGC改訂への対応支援も行い、グローバルで勝ち続ける企業への成長を非財務領域も含めてサポート。 2022年DIMENSIONに参画。LP出資者からの資金調達と国内スタートアップへの出資・上場に向けた経営支援を担う。

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