「信用の積み上げ合戦」が商売・組織づくりの本質 ロッテホールディングス 玉塚 元一社長(第3話)

「お口の恋人」でお馴染みの株式会社ロッテなど、ロッテのグループ企業を傘下に置く株式会社ロッテホールディングス。2021年に同社代表取締役社長に就任した玉塚元一氏に、起業家の素養、海外における事業展開のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全4話)

採用力の本質は「信用」

ーー採用について悩まれるスタートアップはとても多いです。採用において重要だと思われるポイントは何でしょうか?

どんな事業や商売、採用でも一番大事なことは「信用」だと思います。

「ロッテのお菓子だったら美味しいよね」という信用の積み重ねが、商売を支えていますよね。今この瞬間も、世界中で何億人という人達が「信用の積み上げ合戦」をしているわけです。

採用においてもテクニック論は色々とあると思いますが、本質的に大事なのは「信用」。

成功している起業家を見ると、「よくこの人と一緒に組めたな!」と驚かされるケースが多いですよね。例えばあのユニクロの柳井さんも、もちろん個人としての戦闘力が非常に高い方ですが、今の柳井さんになるまでには色々な人との出会いがあったと思うんです。

柳井さんを見ていると、とにかくものすごく謙虚で、勉強家。出会う全ての人から本気で学ぼうとしていますし、柳井さん自身がどんどんトランスフォームしていきます。だからこそ、次の縁をどんどんと引き寄せていくのです。

人と出会い、そこで信用を勝ち取り、さらに次の出会いから学ぶ。この「信用の積み上げ」が全ての出会いのベースにあると思います。

 

ーースタートアップでまだ実績の少ない企業が採用において「信用」を勝ち取るためには何をすれば良いでしょうか。

解決したい社会的課題、世の中に提供したいサービスといった起業家の夢やビジョン。そしてこの船に乗った時に、その方にとってどんな意義・メリットがあるか。待遇などだけでは勝負できませんので、今持てるものでいかに説得できるかだと思います。

ただ大きな企業になったとしても、根本は同じ。目指す方向、そしてそこに行った時に得られる意義やメリット。これを力強く説明できる会社は強いと思います。

 

大企業でイノベーションを生むには

ーー会社が大きくなるにつれて、組織マネジメントの難易度は上がります。どのようなポイントが重要だとお考えでしょうか?

そうですね、すごく大事になってくるのが「組織のカルチャー」と「事実の見極め」です。

 

まずロッテのような大きい会社で先ほどの3つを体現しようとすると、「本当にチャレンジできる組織文化」を作り、チャレンジを阻害するものを取り除くことが大事です。小さな組織では存在し無かった阻害要因がたくさん出てきますので、それを取り除くのはトップの仕事です。

加えて「事実の見極め」。

ある程度の大きい会社の役員は日々色んな報告を受けると思います。それが本当に事実ベースで起こっていることなのか、そうではなく思い込みや理想なのか。

それを見極め、事実ベースでオープンにディスカッションし、正しい仮説を立てる。そして出てきた仮説を速やかに実行に移す。

この健全な組織カルチャーを作っていくのが大きな会社のリーダーにとって物凄く重要な仕事だと思います。

 

ーーイノベーションを生む上で、何を大切にして組織づくりを考えられていますか?

両利きの経営がすごく重要だと考えています。

今後我々が日本においてもグローバルにおいても成長し続けるためには新しい柱をいくつか作っていく事がとても重要で、そうするとお菓子の領域から少し飛び石のところに新しい事業を作る必要性があります。

例えばMediPalette(メディパレット)というサイトがあるんですけれども、高いレベルで信頼性のある健康情報を出していたのです。ところがまったくマネタイズしてなかった。

なので、ここをベースにして健康という領域でマネタイズできる事業を作ろうという仮説が生まれ、実行することになりました。

こういう時にすごく大事なのは経験者やプロと、本当にそれを事業化したい思いを持つ人の掛け算、つまり「両利き」になって初めて事業化できる可能性が生まれるということ。イノベーションのためには多様性が必要不可欠なのです。

多様性というと女性やクリエイティブ人材の比率を無目的に上げようとする会社が多いですが、私が重要視しているのは「触媒的な人材」、つまりキャタリストをいかに組織内に埋め込めるかどうか。

今までロッテでやってきた人とは全然違う発想で物事を進めてくことで化学反応が起き、イノベーションが生まれます。

多様性やゆらぎを無理やり作ることで、強引にでも化学反応を起こす。異分子の人材がキャタリストとなり、会社にイノベーションを生み出す。そういった「両利きの経営」の視点が大きな会社の組織運営では重要だと考えています。

 

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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