大きなビジョンを持ち、マクロとミクロへの感度を高く ロッテホールディングス玉塚 元一社長(第1話)

「お口の恋人」でお馴染みの株式会社ロッテなど、ロッテのグループ企業を傘下に置く株式会社ロッテホールディングス。2021年に同社代表取締役社長に就任した玉塚元一氏に、起業家の素養、海外における事業展開のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全4話)

この船はどこへ向かうのか?を示し続ける

ーー玉塚さんが考える「起業家に重要な素養」を3つ挙げるとしたら何でしょうか。

大きなビジョン、マクロとミクロへの感度、仮説を立て速やかに実行する、この3つです。

まず何より起業家はリーダーとして「どこへ向かうのか」、つまりビジョンを明確に示さなければいけません。

例えば船で考えると、沖縄へ行くのか、ニューヨークの自由の女神を目指すのかでは、その船の強度も食糧の量も変わるし、航海に求められる技術も全然違いますよね。

大きなビジョンを達成する上では、「どこに向かうべきか」に加えて、「なぜそこへ向かうべきなのか」「そこに巻きこまれた皆さんにはどういう意味があるのか」を指し示し、共感を得ていくことが必要となります。

 

玉塚元一/1962年生まれ
慶應義塾大学卒業後、旭硝子株式会社(現AGC)に入社。その後、株式会社ファーストリテイリングへ入社、2002年に同社代表取締役兼COOに就任。2005年には企業の再生支援を行う株式会社リヴァンプを設立し代表取締役社長に就任。株式会社ローソン代表取締役会長CEO、2017年株式会社デジタルハーツホールディングス代表取締役社長CEOを歴任し、2021年より現職。一般財団法人ジャパンラグビーリーグワン理事長、公益社団法人経済同友会副代表幹事 、株式会社千葉ロッテマリーンズ取締役オーナー代行 も務める 。

 

ただビジョンを示して共感を得ても、実際にそこへ到達するのは当然簡単なことではありません。ここで求められるのが「マクロとミクロへの感度」の高さ。状況を見極め、舵取りしていく力です。

商売は抽象的なことよりも「ミクロ」、つまり現場に答えがあります。

例えばあるカテゴリーのチョコレートが急に売れ始めたとしましょう。
こういったミクロの情報をキャッチした時に、その原因を「特定の成分を訴求したことによる結果だった」というレベルまで突き詰め、さらに広げるチャンスだと思えるか、単なる変動だと見過ごすかで、経営方針は全く異なってきます。

加えて「マクロ」の感度も持つこと。例えば原材料調達環境の変化や顧客ニーズのダイナミズムなど。どこから波がたち、いつ波がさっていくのか。マクロな視点を持って見極めなければ波に乗ることはできません。

このように「マクロとミクロの感度」を両方高く持ち続けることで、初めて確度の高い仮説が生まれます。経営者というのはこの「ひたすら仮説を作る」ことこそが仕事です。

3つめの「仮説を立て速やかに実行する」に関しては言わずもがなでしょう。経営者が立てた仮説を1人で考えているだけでは、ただの思いつきです。

仮説を実現させるためには、現場のメンバーや専門家と喧々諤々しながら仮説を速やかに実行し、PDCAを回していく。この速度をいかに早くしていくかが重要となります。

 

ユニクロ柳井さんからの学んだ「経営の真髄」

ーーこれらの素養が重要だと思われた原体験などがあればお聞かせください。

株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正さんです。柳井さんが私にとって商売や経営の師であり、原体験だと思っています。
1998年、私は当時まだ年商が700億円ほどだったユニクロに飛び込み、そこで柳井さんと一緒にユニクロの強烈な急成長を経験しました。

柳井さんはものすごく「壮大なビジョン」を常にぶらさずに持っている一方で、日々起こる現場のミクロな事象に対してもものすごく敏感な方です。

「これは商売として厳しい状況に突入する兆候じゃないか」「こういう問題を一個でも許したら、結果としてユニクロファンが離れていく」といったミクロなことに対する感度、執着心は尋常ではありませんでした。

その一方で、世界の大きな潮流、社会情勢も見ながら、常に具体的な仮説を立て、即座に実行を繰り返し、商売や商品のあり方を毎日毎日少しずつ変革させていく。時には大胆にゼロベースから入れ替えて大変革を起こす。

先ほど申し上げた「起業家の素養」を全て体現されている方ですし、そんなスタイルで経営される柳井さんの下で経営を学ぶことができたのは、私にとって本当にかけがえのない原体験です。

 

ーー柳井さんとの出会いが人生を変えた、といっても過言では無いかと思いますが、どうすればそのような出会いを得ることができるのでしょうか?

「人との出会い」というのはロジカルに、あるいはノウハウ的に整理できるかというと必ずしもそうではないと思っています。私で言うと、柳井さんとの出会いだったり、大学の先輩でもあり尊敬する新浪さんとの出会いであったり。事前には予想がつかないですよね。

ただ一方で、出会いを作っていく方法はあると思っています。それは、一つ一つの与えられたミッションに真摯に向き合うこと。

頑張っていると必ず誰かが見ていて、「玉塚君どうせこれ頑張っているなら、これ一緒に頑張ってくれない?」と声をかけてもらえます。そこでまた得た機会に真摯に向き合っていく。

一個一個の縁や出会いを大切にしながら、目の前のミッションに対してベストを尽くし、ちゃんと結果を出す努力をすることこそが、新しい出会いを生む方法だと思うのです。

それはスタートアップの起業家でも同じで、起業するに至る前のその人の行動や真摯な姿勢を通して「この人は裏切らない」と思ってもらう積み重ねが、結果として次の良き出会いを生んでいくのだと信じています。

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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