2022年7月逆風下でのIPOを決めたワケ 後輩に伝えたい資金調達のポイント エアークローゼット 天沼聰CEO(第4話)

月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』を中心に、サブスクの先駆け的存在とも言える株式会社エアークローゼット。2022年7月には東証グロース市場へのIPOも果たし、急成長を続けている。同社代表取締役社長 兼 CEO 天沼聰(あまぬま さとし)氏に起業家の素養、事業成長のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全4話)

投資家には「ブレない価値」を共有する

ーー資金調達について、これまで意識されてきたポイントをお聞かせください。

スタートアップが資金調達をする理由の一番大きい部分は「成長スピード」だと思います。外部資金を投入してでもスピードを早めるべきビジネスモデルなのか、という部分です。

我々は大きい市場の中で立ち上げた新サービスだったので、できるだけ早くポジショニングを作っていくことが大切だと考え、創業メンバーの持分比率が小さくなってでも資金調達をしてスピードを優先することを、最初に創業メンバー間で決めました。

この大方針を初期に合意したのは、振り返ると資金調達で一番大切だったポイントだったように思います。

逆に1番苦労したのは企業価値(バリュエーション)の考え方。

私自身、スタートアップや投資の経験はなく、サービスも新規性が高かったため、どう企業価値を考えれば良いのか正直わかりませんでした。

ですので、とにかく様々な意見を聞き、丁寧に進めていきました。事業計画上、必要な資金とタイミングはある程度決まっていますが、企業価値をどう正当化していくかは最後まで迷った部分でしたね。

逆に投資家と向き合う際に、大切にして良かったのは「目的を徹底的に聞く」こと。投資目的が何で、どういう目線で我々を評価しているのか、とことん聞くようにしました。

そうやって聞いていく中で、特に「サービスが作る未来」と「私たち経営陣」をご評価頂いた方が、長い目で見た時に良いと考えました。

実績や業績は変動がありますが、「サービスが作る未来」と「私たち経営陣」はブレない。そのブレない部分を信じてくださる投資家を選んだことが良かったポイントだと思います。

 

ーーご自身の経験に基づいて、もしほかに後進起業家にアドバイスがあるとしたらどういうポイントでしょうか?

資金調達の目的と、会社としての優先順位を徹底的に話し合っておくことです。

私たちは「スピード優先」と決めたからこそ迷わず進んでこられましたし、意見が割れることもありませんでした。選択を迫られたら「こっちの方がスピードが早い」で決まる。

資金調達も会社それぞれに正解があります。「目的の明確化」と「優先順位の検討」は私たちがやっていて良かったなと感じている部分です。

 

逆風下でのIPOを決めたワケ

ーー2022年は上場を見送るスタートアップも多数いる中で、IPOを果たされました。

これは読者の方の参考にならないかもしれませんが、私たちが上場時に一番苦労したのは新型コロナウイルスへの対応です。

当然このような事態を予想していませんでしたし、特にファッションアパレル業界に対してコロナウイルスは非常にネガティブな影響を与えました。市場全体が9兆円あったものが、1から2年で7.5兆円まで下がった。市場の10%以上が1年で消える非常事態だったわけです。

そんな状況下でもIPOを決めたのは、IPOをする目的が明確だったからです。

まずはパートナー企業様もしくはお客様からの「信頼獲得」。これは例え株式市況が悪くても得られるメリットです。むしろ悪い市況下で上場することが、かえって良い評価に繋がることさえ考えられます。

2つめの目的は「資金調達」。これは明確に市況によってダメージを受ける部分でした。

ただし、私たちは元よりIPOを「持続可能な会社になることを約束する」ことだと考えていたので、事業の継続的な利益性が準備できた状態がIPOのタイミングだと決めていました。

ですのでIPOによる資金調達が無いからといって、事業が存続できない状態ではありません。

そうだとしたら、外的環境が大きく変化している中だけれど、目的は達成できるのだから当初予計画していたスケジュールを変える必要はない、と判断して上場を決めました。

逆にいわゆるコーポレートガバナンス整備といった上場準備は、かなり早めから準備をしていたので、大きな問題はありませんでした。

上場するためにやらなければいけない、で始めていたのが良かったのだと思います。

 

ーー上場時に投資家に対するコミュニケーションで大切にされたポイントなどあればお聞かせください。

1つめは私たちのビジネスモデルを深く知っていただき、かつ既存のビジネスモデルとの会計の考え方の差分を理解していただくこと。

ここは監査法人とも喧々諤々議論し、とにかく「正しく知っていただく」努力をしました。

もう1つは、マーケットに先行する比較対象の会社がない中で、企業価値のわかりやすい判断軸を提供すること。

KPIを「有料会員数」と「一人当たりの限界利益」に絞り、これを掛け合わせたもので固定費を賄っていきさえすれば長く持続可能な状態になる、というシンプルな論理を軸にコミュニケーションをしていきました。

 

“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ

ーー最後に読者のみなさんへのメッセージをお願いいたします。

創業当初から変わらず、関係するすべてのスタークホルダーの「時間の価値」が高まっていく状態を作ることが私たちの目指す世界です。

そのために色んなビジネスモデルにチャレンジするかもしれないですし、ITやAI、データ活用をするかもしれませんが、すべては目指したい世界に向けた手段と捉えています。

なので、このビジョンや「9 Hearts」という行動指針に共感してくださる方は、ぜひチャレンジを共にしたいと考えています。

私自身、様々な仕事をしてきて、仕事において一番大事なのは「納得できる仕事をして、人生にとって意味のある時間を過ごすこと」だと感じています。これからも意味あるビジョンを大切に、チャレンジし続けたいと思います。

 

ーー御社への入社を希望されるメッセージともとれそうです。

先ほども話しましたが、エアークローゼットに入社していただいたとして、ここで過ごす時間の長さに関わらず、その時間が意味あるものにしたい。

例えば「短期で成長する」ことを大切にされたい方にとって、とにかく成長できる組織環境でありたいですし、逆に「成長角度を一定にしながら、育児とバランスさせたい」という人にとっても、働きやすい環境を作りたい。

だからこそ採用前には必ずビジョンに共感していること、人生にとって意味ある環境にエアークローゼットがなれるかどうかを確認させていただいています。

是非、興味があるかたはお話ししに来ていただけると嬉しいです。

 

 

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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