「事業選定のポイントは『技術の確かさ・マーケットの存在・風を読むこと』」株式会社Synspective 新井 元行 代表取締役CEO(第3話)

「次世代の人々が地球を理解し、レジリエントな未来を実現するための新たなインフラをつくる」というミッションを掲げ、小型SAR衛星と関連システムの開発・製造・打上を通じた衛星コンステレーションの運用と、その取得データの販売・解析ソリューションを提供する株式会社Synspective。同社代表取締役CEO 新井 元行氏に、事業作りや組織構築、ファイナンスの要点などについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)

技術は確かか。マーケットは存在するか。風は吹いているか。

ーー白坂先生の持つ技術シーズと出会われた際、「この技術なら成功できる」と確信したポイントと、反対に「ここは不確実だけれども挑戦しよう」と思ったポイントがもしあればそれぞれお聞かせください。

私には、過去のスタートアップやフリーランス時代の経験を通して、重要だと考えていたポイントが3つありました。

1つ目は、技術がしっかりしているか、という点です。

私自身が工学系出身ですので、どんな技術でも、理解すること自体は比較的容易でした。開発者の話を聞き、自分で勉強し、実際の物を見ることで、技術が確かであると確認できたことが、この事業を選んだ1つ目のポイントです。

2つ目は、マーケットの存在です。端的に言えば、市場があるかという点です。

優れた技術があっても、サービスとして展開できなければ売上は立ちません。

当時、「この技術を必要とする顧客がいるかどうか」を私なりに検証しましたが、「今の時点で顧客がいるかは分からない」というのが結論でした。ただ、それまでのソーシャルビジネスでの経験から、この部分のリスクはカバーできそうだとも考えていました。

それよりも重要なのは、技術とマーケットの両者を繋ぐ要素で、これが3つ目のポイントです。具体的には、国の政策的支援や、現在で言うAIのような、明確なトレンドが存在するかという点です。

「とりあえずこの文脈で行けば事業は立ち上がるだろう」と言えるような、強烈な「風が吹いている」か。

この3つ目の要素が極めて重要で、これがなければ技術とマーケットは繋がりません。技術が「時期尚早」と言われて頓挫するケースでは、「風」が吹いていないことが多いと思っています。

弊社の場合、ちょうど宇宙産業が立ち上がるタイミングで、政府も宇宙産業の育成を明確に打ち出していた時期でした。

さらにIT面では、衛星データが大量に取得可能になったことで、GAFAが大規模なビッグデータを低コストで解析できるプラットフォームをリリースし始めていました。つまり、取れたデータをサービスとして転換するトレンドが立ち上がっている状況でした。

この環境を見て、「いい風が吹いてるな」と感じました。顧客マーケットのところさえクリアすれば成功できる状況でしたので、このくらいのリスクなら大したことはないと判断し、事業を開始したのです。

ーー大学発スタートアップの技術シーズを事業化するにあたり、新井さんのご知見はとても参考になりそうに感じます。

大学発の技術は特に、「風」の見極めが重要です。

どんな事業でも、2〜3年ほど真摯に取り組めば、顧客自身も気づいていないニーズを掘り起こして、顧客を見つけること自体はできると思います。

しかし、事業の立ち上がりのスピードは、明確なマーケットトレンドとして認識されているか、たとえば政府が新たな産業として推進し、注目を集めている分野であるか、によって大きく変わってきます。

これは特に大学発ベンチャーにとって重要なポイントです。

現在でいえば、宇宙、AI、ロボティクスや医療、さらには世界的な課題となっている食料問題に関連した農業ビジネスなどが、数多く立ち上がっています。

これらの分野では、同じような「風が吹いている」のではないかと考えています。

 

「一度失敗しても潰れないようなファイナンス」が全て

ーー宇宙系の事業の組み立て方や、発展のさせ方についても、是非お伺いしたいです。大型の資金調達の達成や、官公庁とのやりとり、専門人材の確保など、様々な留意点があると思いますが、特に注意すべきハードルと、それを乗り越え、事業を発展させるポイントについて、是非ご教示頂けますと幸いです。

宇宙系と一括りにすると難しいところがあるので、サービス寄りの事業や、アプリケーションの分野は一旦置いておきますね。

私たちのように、実際に宇宙機を軌道に投入したり、月に行ったりするような、ハードウェアを扱う事業はとてもシンプルで、「ファイナンスが全て」です。

一回失敗しても持ちこたえられる資金をいかに確保するか。それに懸かっています。だからこそ、この領域はアメリカや中国が強くなっているのだと言えますね。

また、数百億円から場合によっては数千億円かかるような事業ですから、技術的な成果と事業的な成果を積み上げながら、継続的に資金調達を成功させていく必要があります。

実は私も起業をする際、アストロスケールの岡田さんやispaceの中村さんに「ポイントは何ですか」と同じ質問をしたんです。

すると、「とにかく、一回失敗しても潰れないようなファイナンス」という全く同じ答えがお二人から返ってきましたので、それを念頭に置いて事業を進めてきました。

最初のシードラウンドで積極的に資金を集めたのも、このファイナンスの考え方があったからです。

大型のファイナンスを行う際には、先ほどの3つのポイント、つまり「技術」と「マーケット」と「風」をしっかりと押さえた上で、ベンチャーキャピタル(VC)に対して明確に事業の魅力を説明することが重要です。

 

ーー宇宙関連、特にハードウェア分野のスタートアップには、ファイナンスに強い経歴をお持ちのCFOが多い印象です。

そうですね。数百億円単位の話を聞いても動じない度胸が大切です。私も途中から、宝くじの当選額を見ても何も感じなくなりました(笑)。

投資銀行のファンドマネージャーなど、数百億円を動かすような人たちと同じ感覚で話ができること。この業界では特に、それが求められるように思います。

 

ーー御社は創業からこれまで、衛星の打ち上げを順調に成功させてきています。ファイナンスもそうですが、「失敗しない」という観点も重要かと思いますが如何でしょうか。

「失敗しなかったこと」は結果でしかなく、次の挑戦が成功するかはいつだって「分からない」ものです。そのため、常にワーストケースを想定して事業を進める必要があります。

一方で、できることをどこまでやり切れるかで、成功率は変わってきます。スピード感とのバランスが重要ですね。

失敗を重ねながら修正を加えていくSpaceXのようなアプローチもありますが、彼らの資金力は別格ですよね。

そういった手法を取るには相応の資金力が必要で、様々なアプローチの中で自社に合うバランスを見極め、それに見合うファイナンスを確保できるかが重要だと考えています。

 

投資家を「仲間」として迎え入れる。

ーー投資家から資金調達をする際は、どのようなコミュニケーションを心がけ、どのように投資家を選ぶべきでしょうか。

弊社がジャフコさんから初回の資金調達をした7年前は、エクイティファイナンスがしやすい市況でした。

景況感が今よりもずっと良く、多くの企業がCVCを立ち上げていた時期でした。今は状況が変わり、資金調達はより難しくなっているように感じます。

ただし、時代を問わず重要なことが1つあると思っていて、それは「自分たちのミッションやビジョンに共感し、一緒に動いてくれる投資家を見つける」こと。

投資家に、単なる資金提供者ではなく、一緒にリスクを取る仲間として入ってもらうことです。

資金を出したからと、事業に対して口だけ挟んでくる投資家も多いですが、彼らの殆どは、起業もしたことがない人たちです。そんな人の言うことを聞いても失敗するだけ。仲間意識を持って、一緒に資金を集め、一緒に事業を作ってくれる投資家を迎え入れるべきです。

弊社の場合、今なら「次世代のためのインフラを作る」というフレーズでビジョンを表現できますが、当時は説明に5-6分かかってしまうほど、ビジョンの言語化ができていませんでした。

でも、時間がかかっても構いません。やりたいことをしっかりと伝え、それに共感してくれる投資家をいかに見つけるかが重要だと考えています。

 

ーーVCによる出資先の支援体制や、パートナーおよび担当者の能力、姿勢、行動などについて、求めたいものがもしあればお聞かせ下さい。

「一緒に悩んで、動く」ことです。一緒にのたうち回って、事業を進めることだと思っています。

ジャフコさんは一緒に営業も回ってくれましたし、そこで得た情報をどのように整理して次の営業活動に繋げれば良いかなど、他社の成功事例も紹介してくれました。

そういった形で、一人のメンバーとして、自分の出来ることを、社内のオペレーションに入ってでも実行する動きが大切だと思います。

そこまでの支援ができるVCは少ないですが、そろそろ、そういうVCが中心となって、VC同士の協業や統合を業界として進めて行っても良いかも知れませんね。

日本のベンチャー産業を成長させるためには、投資家も国際競争力を持つ必要があるはずです。

グローバルに事業を展開する起業家は特に、海外からの資金調達を進め、本社機能を海外に移転してしまうこともあり得るでしょう。

そうならないためにも、日本のVCも世界との比較で選ばれる投資家になる必要があります。資金力や支援能力を高めるために、協業、統合といった選択肢を検討する時期に来ているのではないでしょうか。

 

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