時代を読んで仕掛けて待て 弁護士ドットコム 元榮太一郎会長(第5話)

「時代を読んで仕掛けて待て」を真髄に

―8期連続で赤字だったなか、事業を続けられた理由について教えてください。やはり「社会にとって必要なサービスである」という理念があったことが大きいのでしょうか。

大きいですね。私は孫正義さんの「時代を読んで、仕掛けて、待つ」という言葉が好きでした。これは、世の中に事業を生み出していく成功の要諦だと思います。

まさに私自身が「弁護士を取り巻く世界が大きく変わる」と時代を読んで仕掛けていましたので。

赤字のときは、「今は時代を読んで仕掛けている最中だ」と言い聞かせ、「弁護士が身近になると多くの人が必ず喜んでくれるはず」ということを信じ続けました。

加えて、サービスを続けていくなかで、利用者の方から感謝のメッセージをたくさんいただきました。それが心理的な支えにもなっていましたね。

ただし、会社が赤字ということは、資金面のやりくりは精神論で解決できるものではありません。

そこで私は、法律事務所のオーセンスで頂いた利益を元手に弁護士ドットコムの運営費用にあてました。

インターネット企業が受託の仕事をしながら自社サービスを作るように、別法人ではありますが、法律事務所でお役に立ちながら報酬をいただいて、それを弁護士ドットコムに投下していったのです。

この精神面と経済面の2つが、8期連続赤字でも事業を続けられた理由です。

サービス拡大の秘訣

―弁護士ドットコムを広げていくために、どのような戦略を行ったのですか。

サービスリリース当初は、弁護士検索サービスがメインだったのですが、「みんなの法律相談」という無料Q&Aの仕組みや「弁護士ドットコムニュース」というオウンドメディアを立ち上げました。

この仕組みにより、有益なコンテンツが自動的に増殖していくので、CGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)型としてユーザーの皆さんさんの目に触れやすくなっていきます。そうすれば、SEO的にもサイトが上位に上がっていきますよね。

このような多くのユーザーの目に触れるための施策がうまくいくようになると、自然とユーザーが集まってくるようになりました。ユーザーが集まれば、さらに多くのユーザーを呼ぶのです。

さらに、多くのユーザーと繋がれるのであれば、と弁護士の先生の登録スピードも速まっていきました。

―サービスが大きくなるまでの間、登録弁護士数とユーザー数のどちらを伸ばすことに重心を置かれていたのでしょうか。

今あるアセットを活かして、どちらも同時に増やす施策を講じていったイメージですね。

弁護士の登録者数が1,000人を超えるようになって、弁護士ドットコムニュースのニュース記事を作成していただける弁護士の先生が増え、ニュースコンテンツの量が増える。コンテンツが増えるとサービスのトラフィックが増えて、ユーザーが増える。そして、また弁護士が増えるといったようにどちらか一方だけを伸ばそうとするのではなく、交互にサイクルを回しながら利用者を増やしていきました。

投資家に求めたのはお金ではなく知見

―順調に動き出していた中で、創業して7年たった2012年8月のタイミングで外部資本を入れた理由を教えてください。

月間サイト訪問者数が100万人ぐらいまでは自前でやろうと思っていました。繊細なハンドリングが必要な段階までは、自分でコントロールしたいと思っていたからです。

弁護士業界には独自の風土がありますから、その感覚値を他の業界の方に共感していただくのはなかなか難しい。そのため、事業が十分成長するまでは外部資本を入れずに弁護士である私がハンドリングしていこうと思ったのです。

訪問者数100万人になると、収益化の選択肢が飛躍的に広がり、収益力が高まるということを聞いていたので、100万人が近づいてきた数カ月前から動きはじめて外部資本を入れることに決めました。

―投資家に求めるものは何でしょうか。

各社各様だと思いますが、少なくとも私が求めるのは、お金ではなくて、知見です。インキュベーション力こそ重視するポイントです。

どういったことかというと適切なアドバイザーのアレンジや、コミットする社員やスタッフを紹介していただくといった仲間集めに貢献してくれることです。

そういった意味で、最初に出資いただいたデジタルガレージ(当時)の石丸氏は、食べログの創始者である村上氏などウェブサービスの知見を持つ方をご紹介くださいました。

村上氏は、食べログが無料店舗会員から有料化へ舵を切る戦略を立てた方。まさしく弁護士ドットコムがやろうとしていることをすでにしてきている人でした。こうした経験者のアドバイスは何事にも代え難く事業成長にとって大変有益です。

なので、投資家はお金ではなくこういった知見や人脈において力になってくるか、という観点で選ぶようにしていますね。

 

 

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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