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新たなスタイルのチョコレート「Bean to Bar」専門ブランドの先駆けとして脚光を浴びている「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」。全くの門外漢だった株式会社βace 代表取締役・山下貴嗣氏が2014年に立ち上げたブランドながら、世界的なチョコレート品評会で日本初の金賞を受賞している。短期間で商品のクオリティだけでなく、一流ブランドを作り上げた山下氏にブランド作りの秘訣や組織づくりについて伺った。(全6話)
適切なチームつくりは、経営者自身の能力の見極めから
──起業家として必要な3つ目の素養である「自己認知」について教えてください。
1話(リンク)でお話しした「スピード」「決断」にもつながるのですが、私は「自分が何が得意で、それは相対的に見るとどのくらいのレベルなのか」を適切に認知した上で、チーム編成をすることが大切だと考えています。
経営者になる人は能力が高いことが多いので、ある程度のことは人並み以上にできるとは思うんですが、自分の能力の凸凹を認識した上で、相互補完を考えて「この能力がある人を雇おう」「外部のパートナーと組もう」と判断することが0→1のチーム作りには必要です。
──活躍している起業家の方々にお話を伺うと、「人を巻き込む力が必要」とよくおっしゃいます。自分の得意分野・不得意分野を認識していても、優れた人材を引き込む力がなければ次のステップにいけないような気がするのですが、そのあたりはいかがでしょう?
私、昔から「人たらし」ってよく言われるんです(笑)。
まず私の場合の「自己認知」をお話しすると、私は物事をディレクションしたり、企画やコンセプトを作ってどういう地図に基づいて進んで行けばいいかというのをプロデュースしたりする力、そして0→1を突破する力は強いほうだと思っています。
ですが、コンセプトを丁寧に整える力、それを実行に移していく力といった部分は弱い。そんな考えのもとに、創業メンバー3人に声をかけました。
1人目は「ちゃんと商品を作れる人」「味がわかる人」ということで、Minimalのシェフ。
2人目は、「数字を分析することのできる人」。弊社では1週間に1回、リアルタイムで業績数値が正確に出ます。
「ベンチャーには最初からCFOは不要だ」という声もありますが、私は特に小売業の場合は絶対数字が見えた方がいいと思っているので、きちんとP/L(損益計算書)やキャッシュポジションをチェックしているんです。
小売業の場合、今日1億売り上げても明日は全く売れない可能性だってありますからね。1年後はこれくらい支出があるからこういう風に借り入れして……とシミュレーションを重ねています。
そのおかげで、実は我々はこの小売業態でありながら、初年度から黒字を達成できています。
それも、初年度から黒字の方が、金融機関への印象も良いという判断のもと、自分達がどこまで投資して、どのくらいの計画で売り上げるかということを全部見越しています。
そういった計算は、私が手を動かして具体的な数字を出そうとすると、私自身が本来やらなくてはならないことができなくなってしまうので、そこは捨てて、仲間に助けてもらっています。
最後の3人目はITを活用したマーケティング・PRが得意な人。
この時代、我々のような業界では確実にその辺りが重要になってくるので、そういったことを専門でやっている企業で最年少マネージャーになった人をピンポイントで狙い撃ちしました。
そうやって優秀な人材を獲得しに行く方法としては、「こういうビジネスをやるのって面白いよね」「こういう世界っていいよね」というビジョンを発信し、共感してくれる人間を集めていくしかないと思います。ベンチャー企業には志以外、何もないですからね。
新卒入社1年半、新規事業での挫折から見えた道
──山下さんは、どうやって「スピード」「決断」「自己認知」といった3つの素養を培ってこられたのでしょうか?
前職のリンクアンドモチベーションでの経験が大きく生きています。
前職では、新卒入社1年目で新規事業に放り込まれたんです。新規事業だとそもそも顧客がいませんし、何もしなければ人件費含めて赤字が膨らんでいくだけです。
そんな状況下、当時は頭でどうやったら上手くいくか?を考えてばかりいました。それで1年半の間、一切成果が上がらず、四苦八苦しました。
おまけにまだ学生気分が抜けきっていなかったので、「自分は何でもできる!」と勘違いしていたんです。まさに「自己認知」が足りてない状態ですね。(笑)
この上手くいかない時期を経て、身をもって実感したことがあります。
リンクアンドモチベーション内では「三角形の2辺は1辺より短い」という言葉があります。要は、大枠を考えた上で、まず一歩早く実行してみる。そのうえで、やり方を軌道修正するのが、頭で考えるよりもゴールへの近道だと。
このサイクルを短期視点だけで続けてしまうと、自分がいまどこを走っているのか見えなくなってしまうので、時には長期的に俯瞰しながら自分の現在地を確認することも大切です。
「決断」についても同じ時期に身につけました。
あれもこれもと欲張っていた時には全てが中途半端になっていたんですが、ポジショニングを取り、決め打ちして進めたら上手くいくようになりました。
リンクアンドモチベーションは様々な事業やリソースがあるのですが、そういったものを生かそうと欲張るのではなく、一点突破を心がけた。
そうやって「スピード」「決断」を体現できるようになり、事業は3年で約20億円弱の規模にまで成長しました。
──なるほど、前職の実体験をもとに力を身につけていかれたということなのですね。最初の仲間集めのお話で、ビジョンの重要性を強調されていましたが、そういう志を持つに至ったきっかけは何かあったのでしょうか?
最初からビジョンがあった訳ではありません。むしろ、ずっとビジョンがなくて、30歳になるまではビジョンを持つ人に憧れていました。昔から、孫正義さんの『志高く 孫正義正伝』を読んで「かっこいい〜!」と感激はするものの、これといったビジョンが無い状態でした。
キャリアの話をする時に、明確なゴールを決めてそこから逆算して行動する「ゴールピープル」と、自分にとって興味深い分野(川)を見つけ、それを川の流れに乗るように夢中でやりつづける「リバーピープル」の2種類に分かれると言われますが、私は完全に「リバーピープル」なんです。「ゴールピープル」に強烈な憧れを持つ「リバーピープル」(笑)。
今でこそ「チョコレートを新しくする」という心から思える強いビジョンを持っていますが、それも自分で動いて、直接産地に行ったり接客をしたり、実体験を積み上げる中でクリアになっていったものです。
これもサイクルを高速で回すことと同じだと思うんですよね。
私は「Tangible」という言葉が好きなのですが、自分の手触り感のあるものを積み上げた先に、大きなビジョンが出来ていくものだと思っています。
現在、起業して3年目なんですが、3年前の私は、将来自分が「チョコレートで世界を新しくする」と言っているなんて微塵も考えていませんでしたからね。(笑)
>>第3話「Bean to Barチョコレートで活かす『日本の究極の資源』」に続く
>第1話「決断力とは「何をやらないかを決める」力」に戻る
>Minimal公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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