日本の産業はまた必ず伸びる。その一助になりたい GROOVE X 林 要社長(第6話)

人々の潜在能力を向上させ、癒しを与える新世代の家庭用ロボットを開発するGROOVE X。2015年の設立以降、多額の資金調達にも成功している今注目のスタートアップ企業だ。同社のCEOであり、ソフトバンクの孫正義氏の誘いに応じて「Pepper」の開発にも携わった林要氏に、起業家としての心得やチームマネジメントの極意について聞いた。(全6話)

日本を代表する「自動車の次」の産業を創っていきたい

――林さんの信念についてお聞かせください。人生において大切にしていること、そしてGROOVE Xでなしとげたいことはなんですか?

小学生の頃に読んだ開発プロジェクトのノンフィクションに描かれていたような、「元気のよかった高度経済成長期の日本」「焼け野原からのし上がった日本」のイメージをいつか自分でも体現したいと思ってチャレンジしています。

高度成長期に今の日本の代表産業である自動車産業が確立されたと思うんですけど、そういう意味では私達は「日本を代表する次世代の産業」を創っていきたいなと考えています。GDPの数字を見ていても、日本って、今がどん底なんじゃないかと思うんですよね。バネでいうと縮みきった状態。あとはどこかで伸びるだけなんだけど、それが今年なのか10年後なのかは分からない。ただ、伸びない理由は一切ない。

日本は過去、相当イノベーティブな国であったものの、今はそのイノベーティブさが影を潜めている。なので、揺り戻しは必ず来ます。その揺り戻しの一助になれたらいいなと思っています。

ハードウェアベンチャーが生まれるために必要なこと

――日本ではハードウェアベンチャーをあまり聞きません。なぜそのような状況にあるとお考えですか?

理由は単純で、「エンジニアの人材流動性が低い」ことだと思っています。

優秀なハードウェアエンジニアは他国に比べても人数はたくさんいます。しかし、エンジニアの特性上、技術にはアグレッシブでもプライベートには保守的な傾向にあります。特に日本においては、力のあるエンジニアがベンチャー市場に放たれていないという現状があります。

私もトヨタで14年勤めたのでわかるのですが、エンジニアとして会社で10年以上過ごすと、自分が外の世界で果たして通用するのか分からなくて外に出られなくなるんですよね。でも、何かのきっかけで大企業で5年バリバリ働いた方が外に出たら、凄く世界が広がるはずです。世界に羽ばたくスタートアップだって、いくらでもできる。

例えば、クラウドファンディング事業(インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集める仕組み)で失敗が多く起こっているのは、優秀なハードウェアエンジニアが市場に出てこない結果だとも言えます。アイディアはよくても、支える人がいない。

ハードウエアで起業する場合って、ビジネスマンとものづくりのプロであるエンジニアが組むケースが多いですよね。ホンダもソニーもそうでした。でも、経営者を支える優れたエンジニアが欠けてしまうと、クラウドファンディング等において抜群のストーリーで人を魅了してお金を集めることができても、モノづくりの見通しが甘すぎて実践の時にコケてしまうんです。ビジネス系の経営者は夢を語りすぎるので、できないことを言いがちですから。

ただ、最近は大企業からもエンジニアが流れてくるようになってきているので、凄くいい傾向だなと思っています。実際に大企業から飛び出したエンジニアがベンチャーでイキイキと働いている。これからもっと面白いことが起きてくるんじゃないかなと期待しています。

 

起業家は”役割”と考えられれば、決して挫けない

――では、ベンチャーナビの読者である起業家、起業家予備軍の方々へのメッセージをお願いします。

まず、僕は「起業ありき」という考え方はどちらかというと反対です。

起業家としての素養(第1話リンク)に「非常識な真実を発見できること」を挙げましたが、それを見つけられるかどうかというのは役回りだと思うんですよね。たまたまその時、その人に回ってきた「役割」にすぎないんですよ。

だから、起業家は「スター」を目指していてはいけないんじゃないかと思っています。世間から脚光を浴びる“かっこいいスター”を目指して起業するのって、もう古いんじゃないかな。今は起業家同士の戦いが熾烈すぎて、そういうモチベーションで起業していると勝てないんじゃないでしょうか。

それよりも、「起業家=役割」だと認識して、その役回りを大事に育てるというのが正しいのではないかと思います。起業家が役割だとすれば、やらなきゃいけないことをやってるだけなので、上手くいかなくても別に挫ける必要はありません。

起業家を役割ととらえるなら、他の支えるメンバーがとても大事であることもわかってきます。あなたが起業家だろうと、2番目以降の「支える人達」であろうとたまたま「役割」が違うだけなのです。

 

起業か、大きな夢を追いかける20番目の社員か

「起業ありき」ではなく、手がけるビジネスが世の中の新陳代謝に貢献できるのか、たとえば私どものように「日本の産業の新陳代謝に貢献することなのか?」という部分を判断基準にしていけばいいと思います。本当に貢献する事業なのであれば、必ず存在理由がありますから。

例えば、自分が小金を稼げるようなスモールビジネスの起業家になるのか、それとも「日本の産業の新陳代謝に貢献できる」ような大きな事業の20番目の社員として支えていくのか、どちらがいいかといったら、私は間違いなく後者を推します。私が組織人だったのでそういうマインドを持ってるだけなのかもしれませんが、日本にとってメリットがあるのは後者ですし、ひいては世界にまでその影響を広げる事ができます。結局、一人で出来る事って、限界があると思っています。

「注目を浴びるスターになる」「お金持ちになる」を目的に起業してしまうと、壁にぶち当たった時に折れやすい。そしてスターになるために、事業とは関係の無い部分で見栄を張る必要が出てくる。一方で自分を「役割」だと思って起業している人は、間違ったとしても「自分は役割じゃなかった。他の人を呼ぼう」と方針転換して、名参謀にピボットできますよね。

自分の「役割」だと思ってストイックに自分なりの起業家像を追求していくと、信頼してもらえて、ある程度ベテランの方ですら、意外についてきてくれます。この記事を読んで、少しでも勇気をもってやっていただけると嬉しいですね。

 

 

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著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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