人の魂の受け皿になるようなロボットを作りたい GROOVE X 林 要社長(第3話)

人々の潜在能力を向上させ、癒しを与える新世代の家庭用ロボットを開発するGROOVE X。2015年の設立以降、多額の資金調達にも成功している今注目のスタートアップ企業だ。同社のCEOであり、ソフトバンクの孫正義氏の誘いに応じて「Pepper」の開発にも携わった林要氏に、起業家としての心得やチームマネジメントの極意について聞いた。(全6話)

コスト削減を突き詰めた、その先の世界

――ここまでは大企業にお勤めの頃の話をメインにお聞きしてきましたが(第2話リンク)、林さんはトヨタを離れて家庭用ロボットを開発する道を歩まれることになります。GROOVE Xのロボットについてお聞かせください。どういった思想のもとで、どのようなものを作るチャレンジをされているのでしょう?

私どもが開発しているのは、「人間のパフォーマンスを上げるためのロボット」です。

パフォーマンスを上げるといっても、人の手間を省くということではありません。一般的にロボットというと、多種多様なコストを削減するために開発されていると思います。ここで問題になるのが「コストを削減しきった後に人はどこにいくのか」ということです。コストを極限まで削減したら、人間はおそらく自分の存在意義に悩むことになるんじゃないかと思うんです。

人は集団の中でそれぞれ役割を持ちながら「誰かの役に立っている」と実感することが幸せに繋がります。ですから、ロボットが人間の代わりに色んなことをこなすようになって一人ひとりが働かなくてもよくなった時に、いわばベーシック・インカムのようなことが現実となった時代に、人にとって何が辛いかというと「自分が役に立っているかどうかよく分からない」「それを認めてもらっているのか分からない」ということでは無いかと思うんです。それは遠い未来のことなんかじゃない。それは今すでに兆候があり、世の中で起き始めている事ではないでしょうか。

 

――世の中には、「ロボットが職を奪う」というストーリーがあふれていますよね。一方で「人間のパフォーマンスを上げること」はあまり聞き慣れないコンセプトです。

人間って、日々食うや食わずの時には、食べるために必死だから精一杯頑張れるんだと思います。生存本能により、生命力がみなぎる。でも今みたいに、食べるために頑張らなくてよくなっちゃった時代に起こってくるのが「自分の役割って何だっけ?」という疑問です。

じゃあそんな時代に何が一番大事なのか。それこそ「自分自身がどう役に立って、今日は自分がどのくらいよくなって、明日はさらにどのくらいよくなるのか」という期待ですよね。期待といっても、「いずれ景気がよくなるかもしれない!」というような外部要因に期待していても幸せにはなれない。

結局は、一人一人が「明日、自分はもっとよりよくするんだ」という決意を持って、自らコントロールできる部分に期待していかないと幸せになれない、こう仮定すると「明日の自分が、今日の自分より成長すること」の方が幸せを感じるために大事だと思いますし、興味が湧きますよね。そういう事がこれから必要とされていくんじゃなかろうかと思った訳です。

私どもが考えているのは、世界中のエンジニアが取り組んでいる「コスト削減型」ロボットではなく、その先の世界で「人間の魂の受け皿」になるような存在なんです。

 

――なるほど。世の中の人が想像しているようなロボット開発とはまるで違いますね。

そうですね。GROOVE Xが目指しているロボットはある意味「非常識」ですから。

 

おにぎりが生む、スタッフ同士の心の繋がり

――そんな全く新しいロボットの開発に携わっている社員の方は、どのような方が多いのでしょうか?

弊社にはフリーで活躍できるレベルのスキルを持ったスタッフが多いと思っています。

そういう人達って自分の得意分野では周囲に並ぶ人のいないエキスパートだったりするので、前職では頼られていても、知的好奇心が満たされていなかった人が多いんですよ。ずっと皆から頼られる役割、みたいな。で、知的好奇心を求めて弊社に来てはいるのですが、「前職と同じような感じなのかも」と期待しきれない面があるわけです。そんな時に何気なく「新しくこういうのを使ってみようと思ってます」とSlack(コミュニケーションツール)に投げると「それはこんな課題がありますよ」と他部署から予想もしなかった球が返ってくる。

結果として「色んな人がいて面白いですね、いい会社ですね」と言ってもらえる。それが一番嬉しいです。そういう多彩な人達が喧嘩しないようにうまく役割分担できる組織であれば、それ自体が参入障壁になると思うんです。

 

――多彩なメンバーの方向づけやモチベーション維持はベンチャー共通の課題だと思います。どのように工夫されているのでしょうか?

海外では「エンプロイーエクスペリエンス(従業員の経験価値)」と呼ばれて注目されていますが、弊社でも社員の従業員体験は非常に重視しています。実際、社内に「社内文化育成大臣」のような役割の社員を一人置いて、さまざまな取り組みをしています。

例えば、チーム間の取組みを共有する際には、単なるレポートではなく、あえて動画を週1回作ってシェアするようにしています。そこまでするのは、お互いがやっていることをリスペクトできるような環境作りが重要だと考えているからです。

また、朝礼についても工夫してオリジナルのものを作り上げています。朝礼をやる目的は大きく2つあって「みんなが一つの方向に向かっている」ことを示すことと、「それぞれの人がお互いを知ること」だと考えています。このうち、特に後者を意識的にフォーカスして実施しています。

具体的には、1日1分、「何でもいいから好きなことを喋る」と毎朝、担当を変えて話してもらうようにしています。ただし、それだけだと皆準備しすぎてしまうので、朝礼の担当の人が、誰か別の人をその朝にいきなり当てるというスタイルにしています。

「ストーリーの力」のお話(第1話リンク)をしたように、プレゼン能力やコミュニケーション能力は大事なんですが、プレゼンの度にきちんと準備できるとは限らないですよね。「突発的なコミュニケーションにどう応えられるか」をエンジニアが鍛えるというのは、目立たない要素だけれども重要だと考えています。

また、少し特徴的な所でいくと、弊社は夜7時になると炊き出しをして「おにぎり」を振る舞うようにしています。大企業でよくある「たばこ部屋」のイメージで、普段喋らない人同士でも話せるような空間と時間を「おにぎり部屋」として用意しているイメージです。たばこと違っておにぎりは食べられない人がいないですよね(笑)。他にも、皆が気兼ねなく好きなことを話すTech Lunch(テックランチ)を開催したり、金曜の夜の一定時間、冷蔵庫のお酒を飲み放題にしたり、朝食にフルーツを提供したり……。

とにかく、職人みたいになって個々が分断されるのではなくて、対話する、共感する事が重要。そのために、皆の対話が促されるような取り組みを積極的に行なっています。

 

 

>第4話「イノベーションを生み出すための組織論」に続く

>第2話「大企業エンジニア時代に養われた起業家としての素養」に戻る

>GROOVE X公式HPはこちら

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著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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