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「働くをもっと楽しく、創造的に」をビジョンに掲げ、業務の効率化と会社の成長を目的としたビジネスコミュニケーションツール『Chatwork』を提供するChatwork株式会社。同社代表取締役CEO 山本 正喜氏に起業家の素養、PMFまでの道のりなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの下平将人が聞いた。(全4話)
ーーPMFを達成していくために意識されたことはございますか。
プロダクトマーケットフィット(PMF)って結構難しい概念だと思うんですけれども、『Chatwork』がPMFにいたるまでの道のりは結構特殊だったと思います。
『Chatwork』を作ったのは2011年。そもそも「ビジネスチャット」という言葉がなく、LINEがリリースする3カ月前のことです。
LINEが世の中にチャットという文化を広めるまで、チャットってごく一部のITに詳しい人だけが使っているツールだったんです。それをさらに仕事で使うっていうのは、正直新しすぎたし、マーケットもまだ何もない状態でした。
とはいえプロダクトとしては結構よくできていました。なぜかと言うと当時社内でチャットを使って仕事をしていたからです。
ロサンゼルスと日本、東京と大阪、といった形で私たち兄弟はリモートで創業していたので、『Chatwork』を作る10年ぐらい前からチャットで仕事するっていうのを当たり前のように社内でやってきていました。
なのでチャットで仕事する難しさや運用方法について結構ノウハウがあったんです。
そういう意味で、プロダクトのPSF(プロブレムソリューションフィット)は初期からほぼ出来上がっていて、プロダクト仕様は今の『Chatwork』とあまり変わらないぐらいです。
ただ、マーケットが無かった。だからPMFしない、という例だと思います。
転機が来たのは2013年~2014年ぐらいの、LINEが携帯メールをリプレースしていってLINEで仕事する人たちが増えてきた頃です。
端末にログが残るから会社を辞めても持ち出せる、という問題が勃発して大きな社会問題になり、セキュリティがしっかりしているビジネスチャットが求められるようになりました。
それで急激に風が吹きました。『Chatwork』は3~4年先行していてプロダクトとして圧倒的によくできていたので、小さい企業から大手までみんな『Chatwork』を使う、そんな世界観になった時に一番PMFを感じました。
なので私の感覚としてPMFっていうのは、風を受ける帆船があったとして、帆を張って待っていて風が来た瞬間なのかなと思っています。
ーーマーケットが無いところから、外的環境変化によってPMFを達成されたと。
実は『Chatwork』を作った瞬間、すぐ真似されると思っていたんです。でも競合が全く現れなくて、ブルーオーシャンの状態が3年ぐらい続きました。
でも先ほどの社会問題を契機に急に「ビジネスチャット」と言われだして、どんどんプロダクトが生まれて劇的にレッドオーシャンになりました。一番加熱していた時は1週間に1個競合サービスが現れる時もあったほどです。
ものすごい勢いでシリコンバレーのスタートアップや大手が参入してくるので、後から追いかけても小さいスタートアップは絶対勝てません。『Chatwork』は先行して優位性があったからこそ、逃げ切ることができました。
ソフトバンクの孫会長がおっしゃった「時代は追ってはならない。読んで、仕掛けて、待たねばならない」という言葉がありますが、『Chatwork』はまさにそれをやったからPMFできたのかなと思います。
ーー確かに特殊ではありますが、PMFの要点が詰まってるようにも思います。
『Chatwork』は特別に技術力が優れていたわけではありません。ペインに対して筋の良いプロダクトを最初から作っていたこと、そして参入のタイミング。この2点が良かったのだと思います。
特にタイミングに関しては、『Chatwork』を作ったのが2011年ですが、3年早かったらPMFせず息切れしていたんじゃないかと思いますし、逆に3年後だったら遅かった。それぐらいのスパンしかスタートアップにはタイミングが無いということです。
ーービジネスチャットブームが来る3年前に立ち上げられたわけですが、それは何か読みがあったのでしょうか?
実は全然読んだわけじゃないんです。
はじめ、自分としては確信を持って一日でビジネス向けのチャットツールの企画書を書いて社内でプレゼンしたんですけど、見事に却下されるし全然評価されなかったんですよね。
自分達も使っているからそういうビジネスチャットが便利なのは分かる。でも大手が絶対参入して来るという話と、そもそもお客さんに提案しても刺さらないし理解してもらえないし無理、と全員反対でした。
自分はどうしてもやりたかったし、技術的にもこのタイミングしかないと思い、役員1人1人呼び出して「絶対いけるからやらして下さい」と説得して、その時に社長だった兄も説得し、「最悪社内システムにすればいい」とOKが出ました。
ただし交換条件として「お前が好きなことをやるんだからお前一人でやれ、かつお前の仕事はやった上で空いた時間でやれ」となり。笑
なのでリソースゼロ、社内副業という状況から始まりました。最初は一人でコードを書き、社内のSkypeを置き替える所からスタートしました。
社内で「これSkypeより便利じゃん」と評価されたり、自社配信番組のチャンネル上でネタ不足だった時に偶然社長が「今開発してるプロダクト」として『Chatwork』の社内版を画面に映したら、コメント欄が「欲しいです」とか「これはいつ発売ですか」とすごいコメント欄が盛り上がったり。
そうやって一個一個実績を出していき、遂には正式に事業化OKが出ました。エンジニア2人とデザイナー1人をアサインしてもらってついにチームになったっていう。笑
ーー大企業の新規事業開発に近いストーリーですね。
そうですね、結構近いと思います。
大企業さんとはまた違う世界かもしれないですけど、既存事業がある中での新規事業企画って、既存事業のリソースを頂き赤字を出しながらやるものです。そういう肩身の狭さも良くわかります。
新規事業をだんだん大きくしていきながら、遂には既存事業をやめて、会社全体の事業を『Chatwork』に変えていくっていうところまでやりきりました。その事例は参考になる会社も多いのかなと思います。
(次回へ続きます)
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著者 下平 将人
1986年生まれ。長野県松本市出身。弁護士として法律事務所で勤務した後、LINEにて社内弁護士や新規事業開発担当を経て、DIに参画。国内VCファンド「DIMENSION」を立ち上げる。投資先複数社の社外取締役。一橋大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業、グロービス経営大学院卒業経営学修士。NewsPicksプロピッカー。動画プラットフォームUdemyにて、スタートアップ経営戦略の教科書(全5回)を配信中。経済産業省 U30関西起業家コミュニティ メンター、超起業学校スタートアッププログラム メンター等。趣味はバスケ。
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