#海外展開
株式会社ドリームインキュベータ(DI)は、起業家だけのクローズドなイベント「CEO Night」第2回を開催した。当日はSHOWROOMの代表取締役社長 前田裕二 氏に登壇いただき、DIの執行役員 宮宗 孝光 とのパネルディスカッションや公開質疑を行った。本稿では、本イベントの内容を一部レポートする。(全3話)
社内起業のメリット・デメリット
――DI宮宗:ここからは会場のみなさまからの質問に移りたいと思います。
Q1:大企業で社内起業するメリット/デメリットを教えてください。また、もう一度やるならまた同じスキームでやられますか?
前田:社内起業で良かった点は「ひたすらユーザーに向き合うことができたこと」です。
ゼロイチで起業した際に発生する雑務など、ユーザーとは関係のない仕事の量がほとんどありませんでした。どうやったら優秀な人材が集まるか、どうやったらユーザーが集まるかということにひたすら向き合うことができたのは良かった点ですね。
あと、「ヒト・モノ・カネ」で言うと、モノとカネは代替可能ですが、ヒトは代替できない。先ほどご紹介した川崎修平(第1話リンク)や、一緒にサービスを立ち上げたCTOの佐々木との出会いは、ゼロイチ起業ではなかなか難しかったと思います。その点は社内起業のリソースを活用できた点だったなと思います。
一方で、難しかった点は「会社に対してのオーナーシップが100%もてないこと」です。
SHOWROOMは、立ち上げ当初から営業利益で100億円いくようなポテンシャルのある事業だと信じていましたし、DeNAとは異なる独自の企業文化を作っていくと決めていたので、将来的には本社から外に切り出すことを想定していました。
そして結果的に分社化したわけなのですが、その際に資本交渉などで非常に労力がかかりました。この労力はゼロイチで起業していたら無かったものでしょう。
SHOWROOMという事業をやるとしたら、今の社内起業のやり方が正しかったと思っていますが、事業の性質によってはゼロイチで起業していたほうが良い場合もあると思います。なのでどちらが良いとは、一概には言えないですね。
「イシュードリブン」に考えられる社員の育て方
Q2:「イシュー(仮説構築力)」を大切にされているとおっしゃっていましたが、社員教育をどのようにされているか教えてください。
意識していることは2つあります。
まず、「思想の伝播フローをつくる」ことです。
人というものは、接触量が多い相手から言われないと思想が伝播していきません。なので、私からはミドルマネジメントにひたすら「イシュードリブン」で考えるように徹底しています。そうして、ミドルマネジメントの口癖にしてしまえば、彼らが接触量の多い現場のメンバーにも考え方が浸透していくのです。
なので、経営トップからミドルマネジメント、ミドルマネジメントから現場、という「伝播のフロー」を意識的に作っていくことが大事だと考えています。
もう1つは「エントリーマネジメント」で、採用の時点からある程度「イシュー」と向き合える思考の人に絞っています。そして、どうやって面接でその適性を見極められるかも検証し続けています。
具体的に実践していることの例として、「水平思考」のクイズ(出題者にyes/noのclosed質問を投げかけながら答えを導き出すゲーム)を面接で出したりしています。
ここで見ているのは、正解に導けるかどうかではなく、仮説構築力のスピードと精度です。
そもそも質問が出てこない人や、ロジック的に意味をなさない質問をする人は、仕事においてもそういった「イシュー」の立て方をする傾向にあります。
もちろん面接においてはこういったスキルだけでなく、価値観がフィットしているかなども見ますし、私が面接するタイミングでは主にそういったエモーショナルな部分を見ています。
自分の「モチベーションのスイッチ」を知る
Q3:前田さんのような原体験を持つ人は、他にも世の中にいると思うのですが、なぜそこまで他の人よりも頑張れるのでしょうか?
前田:これも2つポイントだと思っていることがあります。
1つ目は「受けた愛情の総量」です。
私は8歳のときに母親を亡くしました。そのように親の死などの逆境を経験する人はたくさんいると思うのですが、それをバネにして頑張れる人と、後ろ向きになってしまう人を分けるのは「受けた愛情の総量」だと思っています。
私はいまだに母の優しさとか、ご飯を食べているときの記憶とか、風邪引いた時に何してくれたかとか、あらゆるシーンを色付きで覚えています。それほどに母が大きな愛情を注いでくれたのでしょう。また、両親を亡くした後、10歳上の兄に育ててもらったのですが、その兄の愛があったからこそ、逆境をバネに転換することができたんだろうなという気がしています。
2つ目は「自分のモチベーションのスイッチをよく知っているから」です。
これは過去にVenture Naviでも「Aさん事件」としてお話ししましたが(過去インタビューリンク)、兄を喜ばせることが私の幼少期の「モチベーションのスイッチ」でした。
兄が通知書を見て褒めてくれるから、という理由で勉強をし始めた私は、どれだけ頑張ってもAさんに勝てないという壁にぶち当たります。Aさんは、まだ教科書に載っていない素数の話を算数の時間に紹介してきたんです。
どれだけ一生懸命勉強しても、自分は与えられた教科書内でしかパフォーマンスできない。それなのに、Aさんは後天的な努力とは関係なく、先天的に裕福な家庭に生まれたからという理由で塾に通い、学校を先取った知識を得ている。この事実に、私は強い悔しさを覚えました。
なので、未だにくじけそうになった時には、Aさんが教壇でドヤ顔をしている映像を思い浮かべて、「ここで負けたらAさんと同じだ」と自分に言い聞かせて頑張っています(笑)。
他にも、「自分は辛い環境に置かれたときほどアウトパフォームする」ということがよくわかっているので、絶対に店員が起こしてくるカフェで仕事をし、物理的に朝5時まで寝られないといった辛い環境をあえて作っています。(笑)
そういった「自分の中のモチベーションのスイッチを知っている」からこそ、熱量を高く維持できるのかなと思っています。
ミクロ視点での質と、マクロ視点での質
Q4:自分がやった方が質が高いのに人に任せないといけない、というジレンマがあると思います。そのジレンマにどう向き合われていますか?
前田:これも意識していることは2つあります。
まず、「エントリーマネジメント」で、自分よりも優秀だなと思うポイントがある人しか採用しないこと。
例えば、私は営業が得意です。英語がネイティブに比べて劣っているのにニューヨークで何度も賞を受賞するなど、客観的に見ても営業が得意だと思っていました。
しかし、あるエリア・業界に限っては、そうではない。エンジニアリングやテクノロジーのキャッチアップについてはうちのCTOが最強だと思っているので、彼を頼る。他にも例えば、先日ある企画でディズニーと組みたいと思って社員に相談していたんですが、それを即座に先方に提案して、一週間で決めてきてしまった社員がいる。
私はその社員の能力をすごく信じていますし、任せるからこそ、彼女は期待を越えようと頑張ってさらに結果を出してくれるのかなと思います。
なので、どこか特定の部分でも良いから、切り取ってみると自分よりも圧倒的に優秀な人を採用することができれば、自然と社員に任せることができるようになると思います。
2つ目に、「ミクロ視点で見ると質が低くても、マクロ視点で見ると組織でやった方が質が高い」ということ。
例えばSHOWROOMの立ち上げ時は、サービス内の企画やページのテキスト作りなど全て私がやっていました。私がやった方が早いし質が高いと考えていたんです。でも、それは私の驕りでした。
チームを作って、企画だけを作る人、テキストだけを書く人、という分業制にしたら、私一人でやっているときには決して生まれないようなものが生まれました。ミクロ視点では自分より質が低く見えても、マクロ視点で見ると自分だけではできないことがチームだったら出来ると気づいたんです。
戦略構築においても、徳川家康的な経営を参考にしていて、トップダウン型の経営はしないと決めています。
そうやって決めると、マネジメント層は自分の発言が経営に影響を与えることを意識して、クオリティの高い発言をするようになります。
ですので、マクロ視点で俯瞰した時の質もしっかりと見て、人に任せる判断をしていくのが良いと思います。
最後は時間切れとなるほどに質問が飛び交い、大盛況で幕を閉じた第2回 CEO Night。 DIは、このような勉強会やVenture Naviでの情報発信等、今後も起業家の皆様を応援して参ります。
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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