#インタビュー
「デジタルマーケティングで社会を良くする事業家集団」を標榜するナイル株式会社。月間利用者数1,000万人を超えるスマホアプリ紹介サービス「Appliv」や、車のサブスクリプションサービス「おトクにマイカー 定額カルモくん」など、多領域に渡り注目サービスを生み出し続けている。そんな同社代表取締役社長 高橋飛翔氏に、起業家にとって重要な素養、成功する事業の創り方などについて聞いた(全6話)
ウェット情報からコアアイディアを見つける
ーー異なる様々な領域で事業立ち上げに成功されています。ビジネスアイディアの見つけ方、そして絞り込み方の秘訣を教えてください。
まず最も重要なのが「コアなビジネスアイディア」を見つけること。
「コアなビジネスアイディア」が何かというと、そのマーケットの「ユーザーペイン」と、それに対する「ソリューション」のセットです。
ただし、ウェブメディアや新聞を読んだとしても、この「コアなビジネスアイディア」は絶対に見つかりません。ニュースのようなものを「ドライ情報」、業界関係者の生の声を「ウェット情報」と分けたときに、大切なのは「ウェット情報」をいかに収集するかです。
市場関係者しか知らないような情報、業界の中でも最先端を走っているような人から引き出すディープな情報。そういった良質な「ウェット情報」を収集できればできるほど、ユーザーペインに対する正しい仮説が生まれ、ソリューションを発想できる。
成功する「コアなビジネスアイディア」は、誰もが知り得ない希少性が高くて重要な情報から生まれるのです。
ーー近年急成長されているモビリティサービス事業「 おトクにマイカー 定額カルモくん」も、そのようなプロセスを経て生まれたのでしょうか?
「おトクにマイカー 定額カルモくん」を立ち上げたのは2018年の2月ですが、企画準備自体は2016年10月くらいからやっていました。
当時私がやっていたことは、yentaというビジネスマッチングアプリを使って、ひたすら車業界の人に会い、ビジネスモデルに対する意見を募ることです。yentaの1日フリック上限数が当時10人だったものを、yenta事業責任者に直談判して私専用の50人フリック有料プランを作ってもらったほどです(笑)。
2016年には主要な車関係会社は全てテレアポし、電話でプレゼンをしてはフィードバックをもらい続けました。そんな泥臭いことを社長室で1人やり続けたところから「おトクにマイカー 定額カルモくん」のビジネスアイディアは生まれました。
「5つのチェックポイント」で精査する
ーー「コアなビジネスアイディア」の良否の見極め方をお教えください。
徹底的なヒアリングから生まれた「コアなビジネスアイディア」を、今度は様々な観点から判別する。この判別基準を私は5つ定めています。
1つめが「市場性」。市場規模と成長性、流動性の3つを見ています。業界用語でいうとTAM(Total Addressable Market)/SAM(Serviceable Available Market)/SOM(Serviceable Obtainable Market)ですね。
これを見ることで、マーケットサイズ、シェアを取りきった時にどれだけ事業として大きくなるか、シェアを取りきるまでにどれくらい時間がかかるかが判別できます。
2つめが先ほどご説明した「ユーザーペインとソリューション」。
3つめが「ビジネススキーム」。自社ですべてやるのか、それとも他社と連携しながらやるのか、という部分。
4つめが「収益構造」。どうやって稼ぐかのマネタイズ手法です。
最後の5つめが「マーケティング」。どうやって拡大するか。
この5つの判別基準、「市場性」「ユーザーペインとソリューション」「ビジネススキーム」「収益構造」「マーケティング」のすべてで勝ち筋が見えているかを、レーザー照射のように様々な角度から徹底的に精査していき、真のエッセンスに絞りあげています。
車を持たずに、車を売る
ーー非常にロジカル、かつ洗練された精査方法ですね。
この精査工程は、フルコミットしても2ヶ月くらいはかかります。ですので、起業準備は半年から1年スパンで時間がかかるのが当然と思います。
「おトクにマイカー 定額カルモくん」では、3つめの判別基準である「ビジネススキーム」の成立が鍵でした。リースの金融商品を自社で持ってしまうと、利益が出るのが最低でも8〜9年後になる。これは資本効率の観点から、とてもベンチャーには耐えられません。
車というアセットを持たずに、集客レイヤーに特化しビジネスを回すこと。Airbnbがホテルを持たずに宿泊業を、Uberが車を持たずにタクシー業をやっているのと同じように、「車を仕入れずに車を売る」という方程式を成立させることが肝だったのです。
ですので、立ち上げ当初からアライアンスに投資していくことを決め、今も4人ほどのアライアンスチームでアライアンスし得る会社とのコミュニケーションを取り続けています。
弊社最大のパートナーであるオリックス自動車は、yentaを通して知り合った方の紹介で繋がり、事業立ち上げ前の2017年には何度も何度も先方オフィスに通い、アライアンスの話をまとめさせていただきました。
机上で考えるばかりではなく、実際に行動し、泥臭くいろんな人に話を聞いていく。その活動が1〜2年の時差を経て、必ず結実していきます。一見遠回りに見えるかもしれませんが、徹底的な事前準備が事業の成否を決めることは間違いないと思います。
>第4話「デジタルマーケティングで社会を良くする事業家集団ナイルが語る「デジマの本質」」に続く
>第2話「「売上2万円」学生起業失敗から学んだ事業アイディアの見つけ方」に戻る
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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