#インタビュー
IDaaS(Identity as a Serviceの略称)を中心とするクラウドセキュリティサービスである「HENNGE One」を提供するHENNGE株式会社。1996年創業の老舗ながら、2019年に東証マザーズ上場を果たし、近年の働き方改革を追い風に急伸を続けているSaaS企業だ。同社の代表取締役社長兼CTOを務める小椋一宏氏に、起業家の素養や成長事業の創り方などについて聞いた。(全4話)
仮説の「99%は間違い」前提で戦う
ーー事業領域を決める上で、大切にされているポイントがあればお聞かせください。
ビジネス上で立てた仮説は「99%間違えている」と思ったほうがいいでしょう。
その時代ごとで「隙間があるかもしれない」と思えるニッチやギャップを見つけ、試してみて、間違えることで成長する。事業選定はこの繰り返しをどれだけ効率的にできるかのゲームです。
ーー間違いを恐れずに、まずは試すことが大切ということでしょうか。
語弊が無いようにすると、前提としてあるのは猛勉強して「この分野では俺が一番詳しい」くらいの状態で、それでも「隙間がある」と思えるかどうか。誰と話しても説得することができるくらいの自信ある仮説かどうかが大切です。
そこまで勉強してもいざやってみたら「99%間違えている」わけですが、絶対の自信がある仮説でなければ、正しかったとしても困難を突破していくことはできないでしょう。
ーーHENNGE Oneというプロダクトが生まれるまでに、サーバー管理、メール配信サーバー、メールセキュリティなどをプロダクトとして出されています。どういう経緯があったのでしょうか。
歴史が長すぎて(笑)、一言では説明しづらいのですが、はじまりは「インターネットの時代が来たら、企業がみんなインターネットを通じて情報発信するに違いない」という大きな仮説でした。
この仮説は疑う余地が無いと思うのですが、そこから「そのためには企業は自社サーバーを構築して管理しなければいけないが、それではコストがかかりすぎるため、なんらかのツールが必要なはず」という仮説が生まれます。
創業当時はそれが最適解だと考え、サーバー管理ソフトの開発に邁進しました。
未来の今から考えると当然ではありますが、その仮説には実際に一定需要があり、自治体をはじめとした様々な組織の方々に使っていただくことができました。
我々の経営理念である「テクノロジーの解放」、つまり一般の人々には届かない所にあるような最先端のテクノロジーを、あらゆる人が使っていけるようにすることが実現できた最初のサービスであり、それは今でも誇りに思っています。
ただしこの需要が市場規模的に「海」だったかというと、実際は「湖」くらいだった。会社としてはさらに利益を上げ、成長し続けないといけません。
そこで、サーバー管理ソフト事業で得たお客様との繋がり、ソフトウェア開発力、販路などを活かして「さらに大きな隙間」として着目したのがメール配信セキュリティでした。
この事業もある程度は上手くいったのですが、リーマンショック時には会社が潰れそうになってしまったほど、「大きな海」を創り出せたわけではありませんでした。
そこでさらに次の手を考えていたときに、発生したのが東日本大震災。現在の新型コロナウイルスの流行ほどではないですが、「会社に来られない、家から働かなければいけない」という大きな社会変化、つまり「大きな隙間=海」が生まれた瞬間でした。
もし創業した1996年からその隙間を狙っていたとしたら、課題解決能力も足りないし、課題が顕在化するまでの15年で資金枯渇していたでしょう。ですが15年の間に、様々なお客様の課題に向き合い力を蓄えてきたからこそ、目の前に現れた「大きな隙間」を埋められる力を持つことができていました。
その「大きな隙間」を埋めるために邁進し、行きついたのが今のHENNGE Oneです。
常に5年先を行くHENNGE思考
ーーつまり震災が起きてから事業を着想されたということでしょうか?
実は震災が起きる前から、社内では「クラウドサービスはやっておいたほうがいい」と色々と開発していました。とは言っても「Gmailを倒す武器を作るべき」と私が一人で勝手に作っていたのが実態で、「さすがにそれは大言壮語すぎる」と社内でも人気がないプロジェクトでしたね(笑)。
結果的にそこで培ったテクノロジーが、震災が起きたことによって違う形で活かされていきました。
ーー参入するタイミングの見極めについてはどのような基準をお持ちでしょうか?
我々はBtoBビジネスをしていますが、お客様の働き方を変えるほどのパワーは私たちにはありません。ですからお客様の働き方が変わるきっかけが生まれるタイミングを見据えてやるしかない。BtoB事業のタイミングとはそういうものだと割り切っています。
クラウドサービス技術に関しても、創業して以来の多数の失敗を通して「自分たちの考えることは大体5年くらい早すぎる」と思っていたので、そこは割り切って開発を進めていましたね。
当然ながら時間がかかるやり方ですが、逆にいうといざ機が来たときにしっかりサービスをリリースすることができる。競合に先んじることができるという利点があります。
ーーなかなか忍耐力のいる戦い方ですね。
大きな社会変革が起きるのがいくら外部環境任せだとはいえ、参入初期の頃に「イノベーター」「アーリーアダプター」を見つけることは大切です。
お客様の中にはいわゆるイノベータータイプ、一見「ポンコツ」に見えるような製品でも、その先にすごい未来があるかもしれないと勝手に想像してくれるようなお客様が一定数います。我々も買う側に立つと、未完成なプロダクトでも積極的に導入するタイプです。
そういうイノベータータイプのお客様を見つけられるかは重要で、もし一人も見つけられないようなら仮説が間違っているのでしょう。逆に、みんなに需要があるような状態では参入が遅すぎます。
「誰も使いたくないわけじゃないけど、使いたい人はごく一部」という塩梅のもの、そして5年後には大きく広がると予想できる「テクノロジーの種」を見つけることが大切なのです。
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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