コロナ禍売上60%消滅から急成長を果たした「振り子の経営法則」とは NOVARCA 濵野智成CEO(第2話)

「日本経済を活性化したい」

ーー2015年にホットリンクに転職されてCOOとして活躍されたのち、現在のNOVARCA(当時のトレンドExpress)の越境ビジネス事業を社内新規事業として立ち上げるに至った経緯をお教えいただけますか。

私はもともと経営者の血筋で、父親が会社を経営する中で苦しい思いをし、倒産の危機に直面したりするのも見てきました。そして私の世代は、「失われた30年」と言われている時代を幼少期から過ごした世代ですから、小学生の頃からずっと停滞していく日本の中で育ってきました。

父親の経営を支えたいと思ったこと、そして日本自体が停滞していることを見て「日本経済が活性化しなければならない」という思いが非常に強くありました。

「日本経済の活性化」というキーワードを自分の中ですごく大事にしていた中で、大きなチャンスが到来したなと感じたのが2015年だったんです。

 

ーーどんなきっかけがあったのでしょうか。

一つ目が流行語大賞にもなった「爆買いブーム」が起こったこと。
爆買いという現象を再現可能な形で作り出せれば、日本の経済が活性化するのではないかという仮説です。

二つ目は、ちょうど2015年くらいから始まった観光立国政策です。この政策により外需の獲得や観光需要の開発が始まり、観光立国としての取り組みが国策として施行されました。
越境ECという市場は2013年頃から立ち上がり始め、それがインバウンドと掛け算になるような形でムーブメントとなっていった。この市場には大きな追い風が吹いていると思ったので、ここに参入すれば必ず事業成長するだろうと確信しました。

事業成長の上では「成長市場に乗ること」が何よりも大事だと思っていたので、市場の黎明期で、これから間違いなく急拡大していく、かつその中で一番を取れるという可能性があったのが越境EC/インバウンド市場でした。

「日本経済の活性化」というキーワードとも繋がり、これをやらないわけにいかないと、全てが繋がったと感じました。

 

「オールバウンド」バリューチェーンでポートフォリオ化

ーー御社は元々爆買いなどインバウンド顧客を対象としたビジネスモデルでしたが、コロナの影響でその市場が突如消滅しました。どのようにして危機に対処されたのでしょうか。

コロナの前から「オールバウンド」というコンセプトを持っていました。

インバウンドの需要を開発するだけでなく、アウトバウンド、つまり越境ECや一般貿易、現地事業も手がけます。我々の事業構想は、川上から川下まで、中国向けにインバウンドとアウトバウンドの両方を含めて循環させ、「オールバウンド」を実現するものです。そのため、売上の60%がインバウンドによるもので、残る40%はアウトバウンドによるものでした。

これには背景があって、インバウンドといえば、中国もあれば東南アジアもあるし欧米もありますよね?そういった各国を対象に国を広げてポートフォリオを組むという経営判断もありえたと思います。しかし我々はあえて中国にフォーカスしました。

中国にフォーカスするということはリスクも当然増えるのですが、中国で一番を取れれば非常に大きな成果を得られると判断しました。その代わり、「バリューチェーン」をポートフォリオとして組むことでリスクヘッジすることにしたのです。

そのため、コロナが発生しインバウンドが消滅したときも、アウトバウンドが残り40%あった。インバウンドだけに張っていた会社がほとんど事業清算する中、NOVARCAが危機対処しV字成長できた大きな要因だったように思います。

 

ーー選択と集中、とセオリーでは言われます。その点についてはいかがお考えですか?

ベンチャーにとって一極集中というのは大事です。しかしそれが無くなると本当に全てを失う、というのはこれだけ変化が激しい時代においては非常に危ない。ベンチャーといえど、ゆるやかにポートフォリオを持っておくことは大事だと感じています。

考え方としては「最悪のシナリオと最高のシナリオ」を常に持つということ。

例えばコロナが発生した当初、状況がどこまで長引くのか、色んな憶測があったと思うんです。私はインバウンドがゼロになる最悪シナリオと、早めに復活するラッキーシナリオをどちらも持っていました。

そのため、スピード感を持って「アウトバウンドの40%に全リソースを振り向ける」という経営判断ができました。

 

「振れ幅」こそが「経営の器」

ーー「選択と集中」と「ポートフォリオ」。非常にバランスが難しそうです。

これがすごく難しくて、私はこれを社内でも「振り子の法則」と言っています。

「品質が大事?スピードが大事?」っていうと、必ずどちらも大事ですよね。「コストが大事?それとも品質?」「トップダウン?ボトムアップ?」も、全部一緒で、どちらも大事なんです。

集中と分散も当然トレードオフです。ポートフォリオを構築する事は、パワーが分散されて成長鈍化に繋がる可能性があります。

こういった事象を”or論”で決めつけるのではなく”and論”として認識する。常に両方に振れる、その振れ幅こそが経営の器だと思っていて、その器の中で固定概念を持たずに右に振れることもあれば左に振れることもある。

私は常に「振り子の法則」を両軸で振った時に、その中で今最適はどこなのか?というのを経営者として見るようにしています。

今集中しすぎなんじゃないか、逆に広がりすぎなんじゃないか、というのを全員のパフォーマンスや生産性、事業の成長率でモニタリングしながら、リソースの配分を最適化するようにしているのです。

このバランス感覚があったからこそ、コロナが発生して市場が無くなった時に「ここは集中するぞ」と振り子をグッと振りに行くことができる。

振れ幅を持って常に最適解がどこにあるかを模索し続けるのは、経営力につながるスキルなのかなと思います。

 

 

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古家 広大

古家 広大

早稲田大学卒業後、三井住友信託銀行に入行。 広島にて個人向けFP業務を行った後、大阪にて法人RMを経験。非上場からプライム市場の企業まで担当し、融資や不動産など信託銀行の幅広いソリューション営業に従事。また、ESGやSDGsをはじめ、CGC改訂への対応支援も行い、グローバルで勝ち続ける企業への成長を非財務領域も含めてサポート。 2022年DIMENSIONに参画。LP出資者からの資金調達と国内スタートアップへの出資・上場に向けた経営支援を担う。

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