トレンド変化をいかにチャンスに変えるか?MIXI創業者 笠原健治の事業立ち上げ法(第2話)

『mixi』『家族アルバム みてね(以下、みてね)』 『モンスターストライク』など数多くのサービスを提供する株式会社MIXI。同社取締役ファウンダー 上級執行役員 笠原 健治氏に起業家の素養、事業拡大のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全4話)

世の中全体の変化を生かす

ーー『mixi』や『みてね』などこれまで大きな事業を次々と創造されてきましたが、事業を大きく成長させていく上でのポイントをお教えください。

一つはトレンドの変化を捉えること。

事業拡大には技術的な変化によるチャンスが多いと思っています。自分達の力だけで事業を作っていくというのも大事ですが、やはり世の中全体の変化を生かした方がより力が出るんです。

特にプラットフォームに大きな変化がある時期というのは凄く変化幅が大きいので、それだけピンチになることもあればチャンスになることもある。

なので、そういう機会はとても大事だと思っています。

例えば『みてね』は、子供の写真や動画をデジカメのような結構いいカメラで撮っていた所から「もうスマホでいいじゃん」っていう、カメラがスマホ化していく時期だったんですね。

また、おじいちゃんおばあちゃんの世代が、まさにスマホ化していった時期でもあって『みてね』が使いたくてスマホに変えたという声もよく聞きました。

そういうタイミングだからこそ、よりみんなが「このサービスを使おう」という流れになっていったんだと思います。そういった時期というのはすごくチャンスに溢れているなと思っています。

 

ーー事業アイディアを選定する際に大事にされていることはございますか。

自分の中で特に基準としているのは、ユーザーにとって「始める理由が十分あるのか」と「続ける理由はあるのか」というところ。

どちらかだけというパターンが結構あって、続ける理由はあるけど始める理由が実は無い、というパターンは結構多いです。

また、理由にも「こういう代替サービスがあるから無理なんじゃないか」といったように、プラスとマイナスの両方があることが多くて、プラスの理由だけを見て「これだから始めます」「これだから続けます」っていうのはちょっと短絡的だと思うんです。

マイナスの理由にもしっかり目を向けて、マイナスで致命的なものがあった時は駄目でしょうし、逆にマイナスの理由はいっぱいあるけど、プラスの理由としてめちゃくちゃ強いものが一本あるからそれだけで突破できる、ということもあります。

プラスとマイナスの理由の両方を網羅的に考えてみた上で、「始める理由が十分あるのか」と「続ける理由はあるのか」が一定以上達成していれば、事業としては有望だと思います。

 

ーー始める理由と続ける理由をユーザー視点でしっかり考えているということですね。そうすると、その選んだ事業を成長させていくポイントもユーザー視点で考えて改善していくことになるのでしょうか。

そうですね。基本的にはやっぱりユーザーの気持ちで考えることが多いです。

こちらの思い入れの論理で動かした施策っていうのはなかなか理解してもらえないことが多いですし、健全に成長していくためにはユーザー視点で物事を考えるべきかなと思います。

 

サプライズ的な施策が非連続的成長を生む

ーーこれまで複数の事業を数十万人規模のユーザーさんを抱えるまでに育てられた中で、顧客ニーズの抽出方法について意識されていることがあれば教えてください。

普段使いしてもらえるサービスか、そして使い続けてもらえるサービスかというコンセプトはすごく大事だと思っていて、そこをMVPという形で作っていきながら世の中に出して、そこが当たるかをまず見極めることが何より重要です。

その上で、どう改善していくのかっていう点に関して、リソースが限られている中では、まずマイナスをゼロに戻すような手堅い改善をやりがちなんですけれど、それだけでは非連続な成長って起きません。

なのでユーザーニーズとして声が上がっているわけではないけれど、サプライズとして喜んでもらえそうなチャレンジを時々織り交ぜていくことが重要です。

つまり、顕在ニーズと潜在ニーズに対する施策、両方にバランスよく取り組んでいくのがいいのかなと思っています。

イメージとしては螺旋階段を上がっていくような、各処ちゃんと補強しながらも時々ジャンプアップするような施策も織り交ぜ、気づいたら高みに昇っている。

プロダクトを大きく伸ばすためにはそういったことが出来るといいなと思っています。

 

ーーサプライズで事業が急拡大した具体例があればお聞かせください。

例えば『みてね』の1秒動画という機能です。

ユーザーさんが『みてね』にアップロードした自分の子供の動画をキュレーションして繋ぎ合わせて届けて、子供の成長を振り返ることができるっていう機能なんですけれど、「こんなにちっちゃかった子供がこんなに大きくなってきてる」っていうのを走馬灯のように見ることができるので、結構感動体験になるんですね。

そういったことが「このアプリに写真や動画をアップしていくといいことがある」という良いフィードバックになるので、より使いたくなる好循環が起きる。

この1秒動画の機能は、もし無かったとしても恐らくユーザーの方から欲しいという声があがらない機能だと思います。

こういった日常使うシーンにおいてはそこまで重要ではないけれど、あるとユーザーの方たちが喜ぶサプライズ的なアイデアも時には重要になると思います。

 

ーーサプライズのあるアイデアを思いつくために、どういったことを意識されていますでしょうか。

やっぱり私もチームメンバーも、ユーザーとして自分たちのサービスをよく使ってることだと思います。

子育てしているメンバーも多いですし、そうじゃないメンバーでも『みてね』を日常的に使っていて、「こういう機能があったらいいんじゃないか」と気軽に言ってくれる。

もちろん全部をやるのは難しいんですけど、一定可能性があるアイデアについては積極的に取り組めているんじゃないかなと思います。

 

苦しい局面の乗り越え方

ーーゲームチェンジの激しいインターネット業界で、特にFacebookの隆盛でmixiの人気が落ち込んでしまった時期は相当苦しんだこともあったのではないかと思っております。そういった苦しい時期を乗り越えられた要因について教えてください。

ポジティブな面とネガティブな面、両方を見つめるということだと思っています。

新規事業をリリースした時などは「本当にこんな事業やってて意味があるのか」って思いたくなるネガティブな数字ばかりが並びます。

でもそこだけ見ていてもしょうがないので、その中でも特に伸びている数値にフォーカスして「なんでその数字が伸びてるんだろう」と考える。そういったところに新規事業の伸びていくヒントがあります。

苦しい時もポジティブな面にしっかり目を配るというのが大事ではないかなと思っています。

また、そこをちゃんとメンバーにも伝え、モチベーションを上げていくことも大事です。

メンバーにポジティブな面ばかりではなくネガティブな面もしっかり共有し、それをどう改善していこう、といった話も合わせてやるのが大切です。

おっしゃる通りmixiの時も結構大変ではあったのですが、ちょうどその頃に新規事業やM&Aなどで希望を見出していこうというポジティブな意識もあった時期だったなと思っています。

なので、常にポジティブ・ネガティブ両方とも目を配り、全体がネガティブな局面においては特にポジティブな部分をフォーカスし、どこに希望の光があるかをしっかり見いだし、共有しながらやっていくってことが大切かなと思います。

 

 

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家弓 昌也

家弓 昌也

名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。

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