#ビジョン
一大イベント、IPO。株式を公開する企業にとって、ステップアップを達成するだけでなく、投資家から注目をあつめ資金調達を行う大切な機会だ。華々しい上場は新聞でも大きく取り上げられる。とはいえ、実際の調達額と事業展開・売上向上の関係はどうなっているのだろうか。IPOおよびその後の市場変更局面での調達は事業規模の伸びにつながっているのだろうか。こうした疑問に答えるために、今回は上場とベンチャーの資金調達についてお伝えしたい。
図1は、2000年から2016年にかけて東証マザーズに上場した企業数、およびIPO時の平均資金吸収額(公募・売出株式・オーバーアロットメントによって得られる資金の総額)を示している。東証マザーズが設置されて間もない2000年初期のネットバブルの時期にIPO数が急上昇した後、ネットバブルの崩壊やリーマンショックを受けIPO数が減少する時期を経て、直近ではIPO数を徐々に伸ばしていることが読み取れるだろう。
今回の分析では、中でも2010年から2013年の間に、東証マザーズに上場した企業を対象にした。選択の基準はいくつか存在するが、1. IPOとベンチャー企業の関係を考えるうえで東証マザーズが適当であること、2. 上場から年月が十分に経っており、ある程度時間軸を長くとった分析が可能であること、3. リーマンショック後にIPOを経験した企業だからこそ見える特徴があると思われること、が大きな理由である。
また、この時期に上場を果たした企業は、現在へと続くマザーズへの上場の波を作り出したといってもよく、その意味でも注目に値すると考えている。
なお、今回の記事では、以降、各企業が公募株式で得た資金の総額を「調達額」と呼ぶ(簡便の為、公募価格・公募株式数を掛け合わせることで算出した)。また、現在(2017年5月末)までに上場を廃止した1銘柄はプロッティングの対象からは除いている。
資金調達額の大小は、その後の成長に関係なし?
抽出した企業のうち、マザーズ上場時の調達額が極端に大きな企業を除き、10億円以下の調達を実施した企業をプロットした(図2)。図を見ると、資金調達の多寡とその後の成長率に関係はあまり見えてこないことがわかる(抽出した企業および、その調達額は末尾のリストを参照)。
これはやや意外な結果に映った。というのも、「調達額が増える⇒事業加速のスピードが上がる⇒売上高成長率も上がる」という流れが成立しそうだからだ。今回対象にした企業群には、マザーズ上場企業という共通点はあるが、会社の設立から上場までを数年で駆け抜けた企業から、設立後50年以上の老舗会社まで幅がある。
また、企業の属するセクターも、金融・バイオ・飲食・ネット系と幅広く、事業拡大のために求められる資金の規模感や時間軸も異なる。資金調達後、必ずしも売り上げにすぐに反映されないといった事情もあるだろう。
そこで、少し業界を絞って、創業年次の近い企業をみてみることにする。
ネット系ベンチャーでは調達額が大きいほど成長している傾向
より業界を絞って見ると、調達額と売上高の成長に少し傾向が見えてくる。次の図3にプロッティングしたのは、「ネット・テクノロジー系ベンチャー×創業10年以下で上場」という条件を満たす企業だ。ここでいう、「ネット・テクノロジー系」には幅広く企業を含めた。いわゆるベンチャー企業と聞いて、読者の皆さんがイメージするような会社だと思う(巻末のリストを参照)。
この時期には、ネット・テクノロジー系ベンチャーの中でもフィーチャーフォンを中心とするプラットフォームで関連事業を展開していた企業が数多く上場を経験した。一方で、スマートフォンへの切り替えも急速に進みつつある時期で、事業を取り巻く環境が変わる中、各企業は大きな舵取りの変更を求められる時期だった。大きな資金を得て、次の波をとらえることが出来た企業に大きな成長の余地があったと思われる。
マザーズから東証一部へ:更なるステップアップのための資金調達
東証マザーズに上場した企業には更なる成長が期待されている。マザーズから東証一部への市場変更は、成長を遂げ更なるステップアップを示す機会であるとともに、資金調達の機会でもある。ここからは、市場変更の概況をお伝えしたうえで、資金調達と市場変更の関係を見ることとする(図4)。
2010年から2013年にマザーズに上場した企業69社のうち、実に半数にあたる34社が東証一部へと市場変更を経験している。半数の企業が成長し、東証一部へとステップアップしている計算だ。なお、1999年のマザーズ設立後から2013年末までにマザーズに上場した企業の全体(315社)のうち、東証一部へと市場変更を行った企業は約25%と大きな開きがある。
市場変更率に大きな差がある理由として、1. 今回抽出した企業がリーマンショック後の困難な時期にも上場できる企業であったこと、2. 今回抽出した企業が上場した時期にマザーズ自体の位置づけが「東証一部・二部へのステップアップ市場」であると、改めて強調されたことが影響していると思われる。
市場変更時は、公募増資を行う1つのチャンスでもある。株主数の充足など形式的な理由での公募増資を行う場合ももちろんあるが、公募増資を行うことは、基本的には高い成長期待の裏返しと考えてよいだろう。
上述の34社のうち市場変更に伴って、13社が公募増資を行っていることが確認できた。これらの企業の8割以上が、マザーズ上場から3年にわたる売上高成長率が年率10%を超えており、まさに高い成長を期待されるマザーズ上場企業のお手本となっている。マザーズへの上場、東証一部への市場変更をきっかけにして、更なる成長へとアクセルをふんでいるのだ。
今回は資金調達と企業の成長を1つの切り口に、IPO、市場変更に関するデータをお届けした。ベンチャーナビでは、今後も成長を目指すベンチャーの支援に役立つ情報をお届けしていく。
以下は、今回の記事で参照した2010年から2013年にかけて東証マザーズに上場した企業をまとめたものである(2017年5月末までに上場を廃止した1銘柄は対象からは除いている)。
DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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