【先輩起業家への質疑会】〜「採用・組織づくり」のポイント②〜PR TIMES山口拓己社長・グッドパッチ土屋尚史社長(第2話)

多面的な経営支援で起業家の事業成長を促すDIMENSIONは、先輩起業家が後輩起業家の経営推進をアシストする体制も構築しています。今回はDIMENSIONのパートナーでもある株式会社PR TIMES 山口拓己代表取締役社長と株式会社グッドパッチ土屋尚史代表取締役社長のお二人に登壇いただき、DIMENSION出資先の起業家と実施した質疑会の様子を文字起こしレポート形式でお伝えします。今回のテーマは「採用・組織づくりのポイント」です。 (モデレーター:DIMENSIONビジネスプロデューサー伊藤紀行)

創業期のミッション・ビジョン

伊藤:ここからはお二人に創業初期の組織作りについての質問に答えてもらいたいと思います。

質問者:今は超創業期で、ようやくお客さんがつき始めた段階です。ここからメンバーを増やしていきたいタイミングなのですが、メンバーを10人ぐらいまで増やすときに、ビジョン・ミッションはどう伝えていけばよいでしょう。

土屋:山口さんは、ビジョン・ミッションは、いつ言語化したんですか?

山口:ビジョンを言語化したのは上場後ですね。上場までは、なんとなくこうだなって考えているだけで、言葉にできなかったのです。

でも東日本大震災があった後に PR って社会にとって重要だと強く思い始めて、5年間かけて「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッションをつくりました。

私の場合、ベクトルの役員だったときに PR TIMESを立ち上げましたが、その頃は採用でも優秀な人はベクトル本社に入りたがるので、なかなか採用もうまくいかなかった。

最初の10人とかの時代には、ミッションやビジョンもなく、なんとなく事業のコンセプトがあっただけ。だからうまくいかなかったんですね。振り返ってみると、もっとしっかりやっておけばよかったなと。

今はミッションを核にして人を集めようとしています。お客様ともミッションで繋がりたい。それをもっと初めからやっておけばよかったなと思います。

 

土屋:僕もビジョン・ミッションを明文化したのはメンバーが30人ほどになってからなので、10人くらいのときは記憶にないですね。とにかくがむしゃらにやっていた感じで。

ですが、創業から2年半くらい経って、メンバーが30人になったタイミングで言語化しました。30人ぐらいになると、一人では全てのものが見通せなくなって、メンバーからも「この会社どこに向かっているんですか」みたいなことを聞かれ始めます。

そのときに、なぜこの会社をやっているのか、社会にとってなぜこの会社が必要なのかを数ヶ月かけて自問自答しました。そうしてようやく言語化できた感じです。

最初の10人のころは会社が今後どのように成長するのか、まだ想像しにくいと思います。ですから個人的には、事業がマーケットフィットするまでは、別に言語化にこだわらなくてもいいかなと思っています。

最初のころは事業がピボットする可能性もあると思うし、あまりカチッとしたビジョン・ミッションを決めちゃうと、逆に縛られちゃって動きづらくなるとも思っていて。

マーケットフィットした後に、その先の未来を見て、そこに行くために重要な価値観を定めていく方がいいかなと思っているので、まずはビジネスをマーケットフィットさせる方が重要度は高いのではないでしょうか。

 

権限移譲におけるポイント、経営者の意識

伊藤:創業期の組織づくりに関して、さらに続けて質問いただきたいと思います。

質問者:うちは今9人ぐらいの組織ですが、先に起業した経営者の方の話を聞いていると、中長期的に成長していける組織作りをちゃんと初期からやっておいた方がいいと思うようになりました。組織づくりや権限移譲に関しては、どういうところに気をつければよいでしょうか。

山口:うちは今も30名ぐらいのときとあまり変わらなくて、仕組み化をほぼしてないんです。

ただ徹底的にやっているのは、「決める人を決める」こと。

日本の組織は、ヒエラルキーがあるのに合議を取りたがる。みんなが賛成する状態が気持いいみたいな。

私の場合、決める人は私が決める。けれども、そのあとは決めた人の決断に委ねる。100%協力します。

権限が曖昧だと、責任の所在がわからなくなるんです。だからトップダウンで、その人に任せると決める。後はその人が決めたことにみんな協力してくださいっていうお願いは徹底しています。

これはもっと早くからやっていてもよかったかなと思っています。

 

土屋:振り返ってみると、いわゆる全社集会というか、オールハンズ的なものを週1とか月1で必ずやるという決まりは、早く作っておくとよかったかなと思います。短期的視点と長期的視点を共有する重要な会議体っていうのは、最初から決めておいていい気はしますね。

あと創業からまもなくの頃は、写真をいっぱい撮っておくといいですよ(笑)。

私は創業期の写真、めちゃくちゃ撮っていました。でもほかの起業家の方に聞くと、意外と撮ってないらしいですね。

山口:初期の写真って、後々資産になるんです。

土屋:創業期のただの思い出といったらそれまでなんですけど、言葉だけでは伝えられない、当時の雰囲気が写真は伝えられる。

最初のオフィスで働いている写真とか、初めて受注が決まったときの写真とか。それを残しておくだけで、会社の資産になるんです。ストーリーの種になるものは、いっぱい残しておいた方がいいと思います。

山口:うちの場合は新しく入った人に、創業からの売上と利益を数字で開示しています。アルバイトであっても、昔はこうだったというのが全部、数字で伝えられるんです。写真はそれほど残ってないけれど、そうした数字でも言葉にできないものが伝えられます。

土屋:数字でいえば、私も残キャッシュを全社員に公開していました。内定が決まった新卒の学生に「今のキャッシュはこれぐらいです。これから仕事がなくなったら、5ヶ月後にはキャッシュアウトします。来年、入れたらいいよね」みたいな(笑)

 

質問者:最近、部長を一気に4名アサインしまして、これからどんどん権限委譲して組織化を進めようとしています。ただ、どうしても手を出してしまう部分がある。組織化を進める上で権限委譲について、意識されてきた点があれば、お聞かせください。

土屋:僕は100人規模までは、ほぼ現場に入り込んでやっていたんですけども、ある時から自分の意識を変えました。

きっかけになったのはジョンソン・エンド・ジョンソンの元社長で、ライザップグループの代表取締役COOを務められた松本晃さんのインタビュー記事を読んだことです。

そのインタビューで松本さんがおっしゃっていたのが「経営は車の運転と一緒で、目の前ばかり見ていても、遠くを見過ぎていても駄目だ。20・50・30の割合で考える」ということでした。現時点から12ヶ月後までを20%、12ヶ月から24ヶ月後までを50%、24ヶ月以降のことを30%の割合で考えるという意味です。

その言葉に救われたんです。当時の僕は目の前の売上とか、仕事ばかり見ていた。でも組織崩壊の中でも残った人たちが頑張ってくれていたので、その人たちを信頼して12ヶ月先までの仕事を完全に任せて、目の前のことにあまり口出ししないようにしました。

それまでは Slack でも、あらゆるチャンネルで気になること全てにコメントしていたんですけど、それからは一切黙りました。今はコメントするときは、褒めるかボケるかのどちらかだけ。何かを指摘するのは全部やめて、任せるようにしました。

そうすると、それまで3週間後まで30分刻みで全部予定が入っている感じだったものが、自分の考える時間がつくれるようになりましたね。

山口:土屋さんと似ていますが、私も自分と直接、仕事をしている人以外に指示しません。言いたいことがあれば部長を通して言ってもらう。部長を通してだけしか、その部にいる人に影響を与えないことを徹底していますね。

 

質問者:逆にうちは徹底的に権限移譲を進めました。社長としてやるべきことはなんでしょうか。

土屋:結局、社長の仕事で一番、重要なのは採用だと思うんです。

すぐにいい人が入ってくるわけではないので、1年以上後に入ってくる人たちを追いかけ続ける、というのは社長の仕事かなと。

山口:そうですね。先々のことでいえば、例えば私の場合、海外企業の買収のリサーチをやっています。LinkedIn とかでメッセージを送ってスカウトしてみたり。

今の売り上げには結びつかないけど、5年後10年後ぐらいに成果が出るかもしれない。そうして先々を見据えていたら、暇な時間はなくなると思いますよ。

 

「お金の使い方」の浸透方法

伊藤:ちょうどキャッシュの話が出たのですが、費用の点でのご質問があるようです。

質問者:お二人は組織の中でのお金の使い方を社内でどのように浸透させてきたのでしょうか。

土屋:山口さんは、うちの社外取締役に入っているのでおわかりでしょうが、うちは本当にお金を使わないですよ。

山口:うちも使わないですよ。例えば交際費とかも社長決裁ですし。だからと言って実際に否決したことはないです。別に駄目とはいわないのですが、お金の使い方に厳しいのが、当たり前だと思うんですよね。

なぜなら利益が大切だから。利益の中でも、営業利益や社員一人当たりの利益が重要です。

一人当たりの営業利益と平均年収をプロットしたらわかるのですが、年収が高い会社は一人当たりの営業利益が高いんですよ。一人当たりの営業利益を中長期で増やしていかないと、働いている人も報われないから、利益は重要です。

加えて、利益が重要な理由として投資をしたいからだとも言っています。

なぜ利益を上げなきゃいけないか、なんで費用を抑えないといけないのかというロジックって多分それぞれの会社で違うとは思いますが、理由をはっきり伝えること。私はそういう感じでやっていますね。

土屋:うちもそうですね。最近は少し上がりましたが、個人決済でここまで使っていいという上限額が3万円だったり。あまり使えないというのが前提としてあります。

でも、山口さんは必要なときには使った方がいいとおっしゃるんですよね。

去年うちが10周年イベントを計画したときも、セルリアンでやりたいとか、いろいろグッズをつくりたいというので予算を立てていました。

そのとき、山口さんから「大事なイベントにはもっと使ってください」と提案が来て。結果的に予算を上げました。

使うべきところには使う。でも前提としては使わない。そんなカルチャーが浸透しています。

 

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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