​ビジネスチャット戦国時代を勝ち抜く。Chatwork山本 正喜CEOが語る競合との差別化(第3話)​

外資や大手が続々と参入。その結末は

ーー競合が増え、外資や大手が参入してくる中で、競争優位性を保ち続けるポイントをお聞かせください。

初期の頃は競合がいなかったので、差別化は何も考えていませんでした。競合が増えてきて、特にSlackの存在が差別化戦略を意識するきっかけになりました。

というのも、弊社はシリコンバレーに子会社を出していたので、米国でものすごい勢いで成長するSlackを肌感として感じていたんです。

Slackはテックスタートアップ・エンジニア向けというのが明らかだったので、差別化のひとつとしてエンジニア中心ではないような会社をターゲットにシフトしていきました。

その後、LINEがLINE WORKSを出すなど、メガプレーヤーが参入してきます。

我々は先行していたとはいえ、当時技術的負債にすごく苦しめられていて、本当は機能追加をどんどんして突き離さなきゃいけないのに、障害対応だけで手一杯だったんです。

それまで自己資金だけでやっていたのですが、その状況が苦しくてシリーズAとして外部資金調達を初めてすることになりました。

そこからエンジニアも採用してアクセルを踏み込んだのですが、それでもスピードが全然足りませんでした。

Slackなどがすごいスピードで入ってきて、日本語で一定先行しているものの、いつか必ずキャッチアップされて負けるだろうと、社内は半ば諦めモードになってしまっていました。Slackには圧倒的な資金力を持つソフトバンク・ビジョン・ファンドが入ってますから、日本語対応は絶対するだろうし、「それがきたらもう終わりだね」みたいな。

今だから話せる話ですが、その時に実はもうIPO狙いではなくバイアウトしようという経営判断もリアルにしています。

そんなタイミングで私がCEOを引き継ぎました。あんまり未来が見えないですよね。

ただ、蓋を開けてみると、他社に動きがあっても、僕らのKPIや売上には影響が見られなかった。綺麗に二次曲線が伸びていきました。

それがなぜなのか 分析した中でわかったのが「中小企業間での口コミが影響している 」ということでした。

 

違いがあれば、戦略は描ける

ーー機能として優れているから口コミが勝ったのでしょうか?

いえ、競合と我々とではユーザーの考え方が違ったため、口コミの発生力が強かったんです。

具体的にいうと、競合他社のサービスは「テナント型」です。会社ごとにサブドメインを区切って、IDとパスワードを発行して閉じた世界をいっぱい作るという形です。

一方で、『Chatwork』は「SNS型」で、社内も社外も関係ありません。社内も社外もシームレスに1アカウントでやれる1つの世界を作る形です。

他社チャットだとオススメされても紹介で終わりますが、『Chatwork』の場合「このプロジェクトは『Chatwork』でやるからアカウント取って」と使わされる。特に中小企業はプロジェクトが1社で完結せず、大きい案件を何社かで組んでやることが多いので、旗振り役の会社が『Chatwork』を使うと欲しいと思ってなくても強引にエントリーさせられるんです。

その過程で『Chatwork』の口コミが広がっていきます。つまり他社よりネットワーク効果が強いということです。

普通BtoBアプリケーションはエンタープライズ向けに成長戦略をシフトして行きますが、弊社は中小企業という非効率なマーケットでやっています。ものすごくネットワーク効果が強い、それによって効率よくユーザーを獲得できているところが圧倒的な強みだと自覚し、戦略を書き直しました。

「中小企業No.1のビジネスチャットになる」とフォーカスしたおかげで、今は中小企業の領域であれば競合が来ても負けない自信を持ってやれています。中小企業のマーケットって営業の難易度が高い ので、すぐには追いつけないような 独特の ポジションになっているのです。

 

そこにコロナがやってきて、これも追い風になりました。上場してから2期連続黒字だったのですが、新たな中期経営計画を策定し、全力でアクセルを踏んで今2回目のJカーブを実施しています。

人員も毎年100人規模で増やし、グループ全体で400人規模に(グループ従業員数379名、2023年3月末日時点)。未上場の頃よりもアクセルを踏んで、今一番「スタートアップ」しています。

今思えば我々はプロダクトアウトで、自分たちが欲しいものを作ったからこそ、中小企業にフィットするプロダクトに自然となりました。『Chatwork』が持つユーザーの考え方は、後からキャッチアップしにくい。

一方で そうでない形で作られた後発のプロダクトは、 撤退しているものが多い印象で す。一つは、価格競争に陥ってしまうからだと感じています 。

違いが明確にあれば、戦略は描ける。結果論も多くありますが、自分たちを振り返るとそう強く思います。

 

 

 

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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