“街づくり”に終わりは無い。森ビル株式会社の今後の展望 竹田 真二 部長(第3話)

「都市を創り、都市を育む」との理念の下、ナンバービルやアークヒルズ、六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズなど、70 年近くにわたって時代を代表する都市を創り続けている森ビル株式会社。2018年よりオープンイノベーション/スタートアップ/VC・CVCの取り組みを施設起点で強力に支援しており、昨年11月に麻布台ヒルズ内に開設した大規模VC拠点「Tokyo Venture Capital Hub」にはDIMENSIONも参画している。同社営業本部 オフィス事業部営業推進部 部長 竹田 真二氏に、都市開発への想いやスタートアップ業界に対する取り組みなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの家弓 昌也が聞いた。(全3話)

東京と地方は対立構造ではなく、高めあう関係へ。

ーー都市開発を手掛ける御社に、東京一極集中についての見解を伺いたいと思います。

約20年前、六本木ヒルズを作ったタイミングは、都市を分散させ、首都を移転させるべきだとして、東京一極集中への批判が強まりを見せた時期でした。

その主張のベースになっている考え方は、東京だけが繁栄するのではなく、日本全体が繁栄するためには東京の「山」を崩し、地方に分配すべきだというものでした。

しかし、森ビルは一貫して異なる見解を持っています。

日本国内から見れば東京は繁栄しているかもしれませんが、世界的な視野で見ると、日本はそれほど高い「山」ではありません。世界から選ばれるようになるためには、ゲートウェイとして、東京の魅力を高め続けていく必要があります。

また、東京と地方は対立するものではありません。東京に集まる知識やアイデア、人々を地方とつなげることで、地方もさらに活性化できると考えます。

したがって、山の「頂」が高ければ「裾野」も高く広がります。「頂 」と 「裾野」が互いに高め合う関係こそが、東京と地方の適切な関係であると考えています。

 

“繋ぐ”ことで、想定以上の課題解決を生み出す

ーーARCHでは、具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

私たちは現在、“人が集まる”という東京の利点を活かして、その知見やネットワークを地方の社会課題につなげる取り組みを進めています。

約1年半前から、地方自治体と連携しながら、大企業やスタートアップとともに、地方の社会課題を解決する活動を開始しました。

例えば、「Via Mobility Japan」というオンデマンド交通サービスを提供している会社があります。

この会社は、もともとイスラエルの起業家がニューヨークで2012年に立ち上げたスタートアップで、我々はその日本進出をサポートしました。

長野県茅野市では、高齢化が進み、 自治体が路線バスを維持できないという問題がありました。そこで路線バスを廃止し、必要な時に公共交通を利用できる オンデマンドサービスに移行したのです。

その際、高齢者のスマートフォン保有率が低かったため、我々がコールセンターの設置を提案し、支援しました。コールセンターのスタッフが高齢者と「Via Mobility Japan」の間を取り次ぎ、送迎の時間と場所を相互に連絡できるサービスを構築したのです。

当初は高齢者向けのサービスをと想定していたのですが、地元の女性から感謝の言葉を頂き、驚かされました。

その女性は、路線バスが走ってはいるものの、多くない本数の中で年老いた両親の通院や、 子供の習い事や塾の送迎の担い手にならざるを得ず、 パートタイムの仕事しかできなかったそうです。しかし、便利な公共交通が整備され、子供も安心して乗れるようになったおかげで、フルタイムの仕事に選択できるようになり、自分らしく生きられると感じたとのことでした。

他にも、中学生や高校生がデートをするのに「親に送ってもらう必要がなくなった」という意外な利用シーンもありました。(笑)

これらは当初想定していなかった用途ですが、 この事例から、一つのサービスが実はさまざまな社会課題を解決する可能性があることに気付かされました。

このように、都市部の人や技術を地方の社会課題と上手く繋げてあげることで、より良い社会を実現し、誰かの喜びを提供できると考えています。

Tokyo Venture Capital Hubへの期待

ーー’23年に麻布台ヒルズに設立された、日本初のベンチャーキャピタル(VC)集積地、「Tokyo Venture Capital Hub」には、日本でも有数のVCが 拠点を構えています。この施設は、アメリカ・シリコンバレーのサンドヒルロードから着想を得たとメディアで拝見しましたが、ここへ集まったVCには、どのようなことを期待されているでしょうか。

着想はサンドヒルロードにありましたが、これからは日本ならではの、ベンチャーキャピタルの集積地のあり方を模索していきたいと思っています。まさに今、我々はそのスタートラインに立ったばかりです。

社会の変革を目指して起業をするような新しい挑戦者を増やしていくためには、その挑戦者を支える人々の存在が必要不可欠です。

支えるとは挑戦者が孤独にならないよう 、応援をすること。なにより彼らの活動の元となるリスクマネーを提供することが必要です。リスクマネーの総額を比較すると、日本はアメリカと比べて30~40 倍もの差があります。このリスクマネーの厚みを増していくことが重要です。

現在VC業界に携わっている人々も先駆者で、 彼らに続く人々を作り出すことも重要だと我々は思っています。ベンチャーキャピタリストがひとつの憧れの職業になるように、文化をしっかりと作り上げていくことが必要です。これは1年や2年でできるものではなく、十年単位の長い時間が必要かもしれません。

大学卒業後の選択肢として 大企業へ就職だけではなく、スタートアップへの就職や、起業する方も増えてきましたが、VCに就職するという方はまだまだ多くありません。スタートアップの後ろで重要な役割を果たしているのにもかかわらず、まだVCの社会的意義や仕事の醍醐味はもちろん、存在すらも広く知られているとは言い難い現状があると思います。

そのために、ここで皆さんと一緒に集まり、発信をしていくことが重要だと思っています。

「 麻布台ヒルズにTokyo Venture Capital Hubがあったことがきっかけで、私はベンチャーキャピタリストになったんです」という人が、将来現れてくれることを願っています。

 

ーー御社は経済産業省と連携して、2023年度にアメリカ・シリコンバレーに拠点を開設し、日本の起業家がグローバルに活動できるような支援を展開しています。御社がこの取り組みを通じて期待することについて教えてください。

私たちは挑戦する人々を増やし、その活動を支援したいと考えています。

シリコンバレーに拠点を設けた理由の一つは、日本のスタートアップや起業家が、日本だけでなく世界で活躍できる可能性を見出すためです。

例えば、日本のマーケットでは成功しなかった製品でも、他の国では大きく成功したケースがあります。

私自身もサンフランシスコへ行き、日本ではまだ注目されていないが、海外で起業し闘っている人たちをこの目で見てきました。

弊社としても、そんな世界と闘っている挑戦者たちを応援していきたいと考えています。そうした活動を通じて、日本だけに閉じこもらず、常に世界とのつながりを持つことが大切だと思っています。

 

「街づくり」に終わりは無い。

ーー御社の今後の挑戦とその理由を教えていただけますか。

森ビルは四半世紀以上も前から都市の重要性を訴え、「都市を創り、都市を育む仕事」を通じて人々や企業を元気にし、東京を世界で一番の都市にしたいと本気で考えて取り組んできました。

都市づくりとは、そこに住まい、働き、行き交う人々の営みを100年、200年先まで想像し、多くの人たちと共により良い未来を創造すること。時代と共に社会や人の心のありようが変化し、都市は常に変革を求められ続けます。変革はひとりの力や一企業の努力でなしえるものではありませんが、多くの人が理想の実現を願い、世界中のあらゆる技術や知恵、経験を結集すれば、実現可能なはずです。

都市に完成はなく、都市づくりという仕事に終わりはありません。

我々は、現在の社会、そして未来の社会が何を求めているのかを考え続け、その答えを“都市”というフィールドの中で実現するために、常に挑戦を続けていきたいと考えています。

 

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家弓 昌也

家弓 昌也

名古屋大学大学院航空宇宙工学修了。三菱重工の総合研究所にて、大型ガスタービンエンジンの研究開発に従事。数億円規模の国家研究プロジェクトを複数リードした後、新機種のタービン翼設計を担当。並行して、社内の新規事業創出ワーキンググループに参加し、事業化に向けた研究の立ち上げを経験。 2022年、DIMENSIONにビジネスプロデューサーとして参画。趣味は、国内/海外旅行、漫画、お笑い、サーフィン。

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