M&A成功の要諦「文化のカオスを楽しめ」 オイシックス・ラ・大地株式会社 髙島 宏平 代表取締役社長(第2話)

「これからの食卓、これからの畑」を企業理念に掲げ、食に関する社会課題をビジネスの手法で解決するオイシックス・ラ・大地株式会社。安心・安全に配慮した農産物、ミールキットなどの販売だけでなく、移動型スーパーや給食事業など、幅広く事業を展開する同社代表取締役社長 髙島 宏平氏に、起業家に必要な素養や、M&Aや経営統合のポイント、今後の事業展開についてDIMENSIONビジネスプロデューサーの古家 広大が聞いた。(全4話)

得意を“増やす”M&A/得意を“活かす”M&A

ーー2016年5月に「とくし丸」を子会社化して以降、「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」との経営統合、アメリカの「Purple Carrot」や給食事業を展開する「シダックス」の子会社化等、多くのM&Aや経営統合によりグループを拡大されています。M&Aを起点にした事業拡大の背景についてお聞かせいただけますでしょうか?

実は、2000年代の上場前にもM&Aは実施しています。自分たちとは異なるビジネスで、小規模の花のEC会社です。

その会社のメンバーの何名かは今でも弊社の中心メンバーとして活躍してくれていますが、買収した花のEC事業はうまく伸ばすことができずに撤退しています。

「人は残ったけど事業は残らなかった」というこの失敗経験から、しばらくはM&Aに慎重になっていました。

その後、2016年に買収した「とくし丸」の“買い物難民向け移動スーパー”というビジネスモデルを見たときに、私はその事業モデルに一目惚れをしました。「自分たちでは絶対に作れない」し、「一緒になれば成功できる」と感じたのです。

このときに、M&Aに関して自身の中で感覚や手ごたえを掴んだ印象がありますね。

私は、M&Aには「得意を増やすM&A」と「得意を活かすM&A」の2種類あると考えています。

この「とくし丸」の買収のように、自分たちにはできないことをできるようにするM&Aを「得意を増やすM&A」と私は定義しています。他にも、24年に子会社化したシダックスの給食事業がこれに当てはまります。

一方で、自分たちの「得意を活かすM&A」としては、我々の場合は「大地を守る会」や「らでぃっしゅぼーや」との経営統合、そしてアメリカでヴィーガンミールブランドを展開する「Purple Carrot」の買収が当てはまります。すべてBtoCで食品を販売する、Oisixの得意領域と同じ事業モデルです。

「得意を活かすM&A」は比較的PMIがやりやすいのに対し、「得意を増やすM&A」は難しい。

実際、「らでぃっしゅぼーや」は6年間赤字だった事業を、買収後半年で黒字化することができました。

 

ーーM&Aするタイミングについては、何か意識されていることはありますか?

M&Aは基本的に買い手のタイミングで実施できるものではありません。長期的な計画を持ち、「売り手のタイミング」を待つことが重要です。

このタイミングはいきなり来ることもある一方で、逃すと二度と来ない、という性質を持ち合わせます。そのため、私は5〜10年の長期計画を立てた上で、気になる企業にはこまめにお声がけをするよう心がけています。

例えば、「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」との経営統合は、10年以上お声がけをさせていただいた結果、相手のタイミングがたまたま2年連続で訪れたという事例です。

アメリカの「Purple Carrot」の買収は逆で、「海外進出は3、4年後かな」と考えていたところ、想定より早くM&A市場に出てきたため買収を意思決定しました。シダックスの子会社化も、私のイメージしていたタイミングより、結果的には早く実現しました。

このようにM&Aは買い手がタイミングを選べない性質を持つため、長期で計画を立てて準備し、売り手のタイミングで実行し、PMIを整えていくことが重要です。

 

“文化のカオス”を楽しめるか?

ーー特に初めてのM&Aは分からないことが多いかと思いますが、、M&Aをされるにあたって誰に相談をすれば良いのでしょうか?

最近は私自身がご相談いただく機会が増えてきましたね。

それらの相談を経て、M&Aの成否は経営者の美学と大きな関係性があると考えています。

「美しさ」「自分たちらしさ」へのこだわりが強い経営者には正直M&Aは向いておらず、一方で「カオスな状況が好き」な経営者にはM&Aが向いていると感じています。

M&Aは当然ながらコントロールできない部分が多く、異なる企業・組織の結合による「文化のカオス」が起こります。経営者にも想像できないような化学反応が生まれてくるのです。

そのカオスを面白いと捉え、楽しめる経営者はM&Aに向いています。

私は常に自分で全てをコントロール、デザインしたいタイプではないので、予想ができない化学反応が起きるM&Aはとても楽しいんです。

 

 

ーー数々のM&Aを通じて髙島さんが感じる、M&A成功のヒントがあればぜひ教えていただきたいです。

私が一番大切にしているのは「相手の会社を心から好きになれるか」です。

例えるなら、結婚生活に似ているのかもしれませんね。

こちらが心からリスペクトしていないと、それは必ず相手にも伝わってしまいます。これでは関係性が不快なものになり、うまくいきません。

M&Aの過程ではいろいろな困難があるし、当然文化の衝突も生まれます。互いにとって違和感満載の状態になる中で、「お互いに好き」でないと関係の維持が厳しいのです。

私は、M&Aの条件交渉の際、「一番大事なこと以外は全て譲ってもいい」と考えて交渉をします。それくらい、相手を心から好きか、リスペクトできるかを重要視しています。

 

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