小型衛星ロケットに革新を――LTPが切り拓く即応発射の未来 株式会社ロケットリンクテクノロジー 森田 泰弘 社長(第4話)

「誰でも宇宙で活躍できる社会」の実現を目指して、小型衛星用ロケットの開発に挑むJAXA発のスタートアップ、株式会社ロケットリンクテクノロジー。キーテクノロジーとしてLTP(低融点熱可塑性推進薬)の研究開発に取り組むと共に、ロケットの新しい打ち上げ/回収方式の研究や、技術教育・人材育成などを展開する。代表取締役社長 森田 泰弘氏に、これまでのロケット開発の取り組みやチームづくりのポイント、LTPが切り開く小型衛星時代の展望について聞いた。(全4話)

LTPで「固体燃料ロケットを年間10〜20機飛ばせる時代」へ

ーー「LTP(低融点熱可塑性推進薬)」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。また、その完成によってどのようなことが可能になるのでしょうか。

私たちはLTP(低融点熱可塑性推進薬)を、固体燃料ロケットの唯一のボトルネックを解消するために開発しています。

数年前、国から「小型衛星用の小型ロケットは民間で開発せよ」という方針が打ち出されました。一方現時点では、小型衛星が求める特性に十分マッチした小型ロケットは実現されていません。

その特性とは、100〜200kg級のペイロードを、いつでも、大量に、狙った軌道へ投入できることにあります。

つまり、高い即応性が命です。これに最も合致するのが固体燃料ロケットです。

発射場に持ち込めば、ボタン一つで発射させることができます。推力も大きく、液体燃料ロケットと比べて小さくてもパワーが出ます。ですから、小型衛星には固体燃料ロケットがベストフィットなのです。

ただし、そこにはボトルネックもあります。射場に持って行く前、つまり燃料の製造プロセスが複雑で、人手も時間もお金もかかるのです。

現在の固体推進薬は、ドロドロの樹脂に火薬の粒を混ぜ、熱を加えて固める、というプロセスで作っています。

問題はこの、熱で固める工程です。

特殊な化学反応で、固めるのに1ヶ月近い時間がかかってしまう。その上、一度固まったら二度とやり直せない。失敗が許されない、特殊で精密な時間のかかる工程であることから、結果として、大手の宇宙メーカーにしか扱えない工程になってしまっているのです。

これがボトルネックとなり、固体燃料ロケットは年間に数機しか作れません。その課題を解消し、年間10〜20機の製造を可能にするのが、私たちのLTPなのです。

発想は従来と真逆。熱を加えると溶け、冷ますと固まります。自然の放熱だけで、1日程度で固めることができるため、製造に要する時間を従来の約10分の1に短縮できます。

さらに決定的なのは「可逆性」です。

チョコレートのように、温めれば何度でも溶かしてやり直せます。やり直しが効くということは、工程が特殊なものから一般的なものへと変わるということ。つまり、町工場レベルの生産設備でも作れるようになるのです。

一部の特殊なメーカーだけでなく、普通の町工場でも、簡単に固体燃料ロケットを作れるようになる。LTPによって、固体燃料ロケットの唯一のボトルネックが解消され、小型衛星がバンバン打ち上げられる未来が来るのです。

 

 

ーーLTPの研究は、どのような経緯で始まったのでしょうか。

20年前、固体燃料ロケットの未来を切り拓くために有志で研究会を立ち上げた際、いくつかの重点テーマがあったのですが、その一つとして、恩師である秋葉先生から託されたのがLTPの研究でした。

『M-Vロケット』の運用停止を契機に「明るい未来を必ずつくる」と決め、仲間と共に改良を重ねてここまで来ました。秋葉先生にも喜んでもらいたいですね。

 

ーー射場の隣でロケットを作り、そのまますぐに打ち上げる。そのような運用も見えてくると伺いました。

LTPは、溶かして・流して・冷ませば固まる。そのため、製造装置そのものをモバイル化できます。

極端に言うと、トレーラーの上に製造システムを載せてしまえば、世界中のどこであろうと、射場の横に行って燃料を作り、すぐに機体に充填して打ち上げることができるようになります。

そこまでモバイルにしなくても、大樹町や内之浦、串本などの射場に製造設備を置くことで、ロケットを作ってすぐに打ち上げるような運用が出来るのではないでしょうか。

 

2030年に向けて、弾道飛行実証、そして実用化へ

ーー2030年には、ロケットの打ち上げビジネスを展開されるとのことですね。

このLTPをロケット打ち上げビジネスにつなげるためにも、まずは近々、弾道飛行実証を計画しています。JAXAの観測ロケットに搭載されている従来燃料を、私たちのLTPに積み替えて打ち上げ、その性能を確かめる計画です。

これが成功すれば、JAXAの観測ロケットがより簡単に、より安く打ち上げられるようになります。

その次の段階では、いよいよ本番機である、私たちの小型衛星用ロケットに着手します。

2030年のビジネス化に向け、スピード感を持って進めて行きます。

 

 

ーー目標の実現に向けて、どのような人材を求められているかを教えてください。

私たちはディープテックのスタートアップ企業ですから、技術を支える人たちが必要です。構造や推進、制御など、専門分野の開発を担う専門家たちを募集しています。

併せて重要視しているのが、バックオフィスや事業運営を担う管理系のメンバーです。ロケットは技術だけでは飛びません。組織として前進するための基盤を、一つずつ整えていきたいと思っています。

ただ、規模については少数精鋭で運営していくつもりです。私が長く在籍していたISASも、学生を除く正規職員は200人規模の小所帯でしたが、『M-Vロケット』や『イプシロンロケット』、そして『はやぶさ』などの開発を達成してきました。

ベンチャー企業としての私たちも、数十人規模で大きな目標を達成する少数精鋭の体制が良いのではと思っています。

私たちが求める第一の人材は、私たちの考え方に共鳴し、ロケット開発そのものを面白いと感じられる人です。自分の技術を発揮するだけでなく、この挑戦は本当に面白い、と心から思って下さる方をお待ちしています。

また、経営や事業戦略の観点でチームを支えてくれる人も探しています。

私たちは、技術の面ではプロだという自負がありますが、経営に関してはまだまだアマチュアです。だからこそ、事業づくりのプロの方たちに、不足している部分をサポートしてもらえたらと思っています。

宇宙領域の事業に関わったことの無い方でも、大歓迎です。

私たちは、ロケット開発を特殊なものにはしたくない。むしろ誰でも関われる産業へと開いていきたいと思っています。

できる限り色んな人に、私たちのロケット開発に関わって欲しい。そこには理系・文系の違いすらも関係ないと考えています。

 

ーー2030年にはロケットが完成し、打ち上げられる想定なので、早く参加した方が良いですね。

組織は成功体験を重ねるほど文化や作法が硬直化しやすいものです。それらがまだ固まっていない今のうちに、ぜひ共に挑戦してもらえたら嬉しいです。

 

 

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DIMENSION NOTE編集長

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「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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