#人事・組織
アーティストやアイドルによるコンテンツ配信が無料で視聴でき、誰でもすぐに生配信が可能な"夢を叶える"ライブ配信プラットフォーム『SHOWROOM』。急成長する同サービスの運営会社SHOWROOMの代表取締役社長・前田裕二氏に、起業家としての心得や事業戦略について聞いた。(全6話)
掘り始める前に、鉱脈を見極めろ
――ここまでSHOWROOMの人や組織面の強さをお話してもらいましたが、それ以外に最近の好調な売り上げ成長を支えている要素があるとすれば何でしょうか?
イシューを正しく設定する力かなと思います。特別なことはしてないんですよ。成長のために何が必要かを見極め、仮説を立てることに全力を注いだ。その仮説に沿ってとにかくやりきって、ここまできた。例えば、昨年からAKBグループとコラボさせていただいていますが、成長の背景は必ずしもそれだけではない。
僕らは、何が収益を突き動かすか、というのをずっと事業立ち上げ初期から科学してきていて、日々の膨大なPDCAを経て、今はかなり確からしい本質的な気づきに辿りついています。あとは、チーム体制を変えたことも大きいと思います。今の組織体制を去年の今頃に設計して、半年弱くらいかけてチームを作ったんです。
全体利益という目線を持ちつつも、ベンチャーノリのままわーっと自由にみんなが思い思いの動きをする、という感じだったのですが、昨年から個々人の比較優位を意識して、業務ごとの線引きをより明確にしました。当たり前ですが、得意分野って人によって違うな、と。今まではそのことをそこまで深く考えずに、釣ってきた魚は自分の魚なんだから、料理をして、お客さんのテーブルに提供するまで自分でやる、みたいな感じでやってたんですけど、それでずっと走っていて、バタバタと海とキッチンとレストランを行き来して、気づいたんですよ。これ非効率だな、と。気づくの遅いですね。笑
早く気づけよって話なんですけど、走ってる時は夢中で。お客さんがレストランにいるから夢中で走ってるんですよね。次のお客さんも来ていて待ってるし、早く釣りに行かなきゃ、みたいな。でもちょっと考えれば、提供が得意な人と、釣りが得意な人と、調理が得意な人ってそれぞれ違うから、そのチームを作ったほうが、スケールするよねっていう考えに行き着きました。
そして、去年から、料理を作るチームは料理を作ることに特化する、新鮮なネタを取ってくる人はそこに特化する、と切り分けて動くようになりました。今までは、漁師には、自分がこんな美味しい魚を釣って来たんだからこれは俺が調理するっていう矜持があったかのかもしれない。が、今は各部署が他部署のメンバーを信頼して、協働しています。僕にいたってはもはや、自分がやるよりみんなの方が料理うまいな、と思うこともあります。僕の想像以上の料理が出るから、みんなすごいなと驚くことも多いです。
以上のような体制を敷いて、それがワークして来たのが、去年の夏くらいなんですよね。それにAKBなどのコンテンツ戦略が上手く重なったというのが、成長の背景です。
――本当は中の方が大事なんですけど、みんな勘違いしている、と。
そうですね。コンテンツは、表に出ていて一見してわかりやすいですから、みんなだいたいそちらに目を向けてしまう。繰り返しですが、本質はチームの仮説思考・構築の力にあると思っています。「イシューから始めよ」という、安宅和人氏の有名な本がありますけど、それでいうところのイシュードリブンの考え方かなと。解くべき問題を速く正確に見つけるのが得意なんです。
例えば、宝の山が眠る鉱山を今から掘って、宝石を探り当てるレースをするとします。おそらくほとんどの人が「俺の筋力を見よ」って感じで、パワーで下から全部アナログに掘る、みたいなことをやる。掘ってる時は、自分でも仕事してる感すごくあるし、思考停止して掘り続ける。そんな中、我々は、掘らずに山の麓にある街の長老にヒアリングに行ったり、宝石のありかの地図や宝石探知機のようなものを探してきたり、まずは「見極め作業」に全神経を集中します。
その例えで考えると当たり前なんですけど、実際の仕事において、掘るべき場所はここだぞ、解くべき問題はここだぞ、ということをちゃんと見極めることにまず集中して、その後で掘ってるケースは、実はすごく少ないと思います。
――私たちの会社(DI)ではそれを「論点設定」って言うんですよ。おっしゃる通り、どこに問いを立てるかが極めて大事で。
なるほど、「論点設定」。かっこいいですね。使います。笑
僕自身も、SHOWROOMの全メンバーも、今後も論点設定から始めるスタイルを磨いていきます。掘る必要のない場所を掘っているほど、一人の人生には時間がないですから。
トップコンテンツの取り込みに対する周囲の反対
論点設定がなぜうまくやれるか。一つは、投資銀行の時の経験が生きていると思います。自分自身、日本株のリサーチセールスという仕事をやっていたので、おびただしい数の会社が持つビジネスモデルを研究して、なぜうまくいくのか、或いはいかないのか、というのを日々仮説検証する必要がありました。この投資銀行時代の3年間で、論点設定力が相当磨かれたと思っています。
もちろん我々の「日本発世界一のライブストリーミングサービス」という目標からすると、まだ1合目にも到達していませんが、ここまでのSHOWROOMの成長については、この論点設定の力がかなり効いていると思います。本質を見極めるスピード及びそのクオリティが高く、そして、見極めた後のドライビングフォース、原動力がとても強いって話しましたけど、そういうことだと思うんですよ。
例えば、AKBというトップコンテンツを入れた方がSHOWROOMは成長するはずである、という仮説があります。これに対して実は、当初意見が綺麗に分かれたんですよ。「今更になってトップコンテンツが入って来たら、今までの世界観が崩れるリスクがあるのではないか。SHOWROOMを独自の世界観で楽しんで使っている演者やユーザーからしたら、自分たちの遊び場を汚すな、といった感覚を持つのではないか」という意見も多く出ていました。
でも僕は実は、当時、「真逆だ」と言いました。見ていてくれ、と。自分なりに徹底的に仮説を立てた上で、あとは「これはうまくいく」という感覚があり、その最後の直感のようなものを自分自身、信じました。あるKPIが絶対に跳ねる自信があったのです。蓋を開けてみたら想定通りにそのKPIが伸びて、あ、仮説がハマる時って、めっちゃ気持ちいいな、と。この粒度の仮説が外れたことは、ほとんどないです。
誰よりも早く論点を見極め、パワフルに掘る
――投資会社や証券会社にいる時にいっぱいビジネスモデルを見て、それを元にこうじゃないかなって言う本質を見極める力をつけ、一方では自身の演者側の経験もあって、そうやって身につけた能力がいまに活きているということですか?
おっしゃる通りです。自分よりも若い、勢いある起業家と一緒に新規事業モデルの議論をするのが大好きなんですが、結構「その論点、その課題を解いてもしょうがないでしょ」みたいなことをよく口走っている気がする。
もちろんそれって僕がちょっと老害というか笑、彼らにしか見えてない世界があるわけだから、必ずしも仮説設計とか論点設定において僕が否定するのは違うな、と思います。ですが、少なくとも僕がピンとこない論点設定だった時に、僕が納得できるようなロジックというか理論武装をしていてほしいんですが、それも弱い時には、ちゃんと言います。
僕も結構、直感で「ここだ」って思うことが多いんです。自分でも思うんですけど、わりと右脳型なんですよね。でも、右脳って人とのコミュニケーションに使えないじゃないですか。それで後天的に左脳の力を身につけていて。自分が右脳的に「こっちだ」と思うところにみんなを巻き込んで導くために、ロジックとか仮説思考の力を借りてるって感じです。
常々口にしている「SNSの次に世界でブームになるのはライブストリーミングだ」というのも本当に思ってるんですけれど、誰かに自分と同じくらいにその命題を信じさせる裏付けロジックを完璧に作るのは正直にいうと難しくて。でも、それを説得しないといけない相手がいたら、多分全力で説得します。ソーシャルネットワークの次にライブストリーミングが来ると思っている理由は3つあって、とか言って。本当は3つなくても、とりあえず3つと言ったらいつも自分から3つ出てくるから。笑
なので、「自分はまだ本質見極め力とか論点設定力が弱いな」って思ってる起業家が仮にいたとしたら、先達というか先輩に聞いた方がいいと思います。この論点設定あってますかね?と。これはズルではない。
直感的にパッてわかるようになる為には、さっきの場数、ボリュームがすごく大事だと思っていて。一定量のボリュームをこなすまでは、とにかくわかる人に教わるしかないと思うんですよね。僕は株の仕事をしていた時も、デイリーベースの仮説もあったし、1週間くらいの仮説もあるし、1か月後のも、クオーターのも、1年のもあった。それぞれのタイムスパンでの仮説を日々検証しているわけで、そりゃあこれを続けていれば、仮説思考力つくよなって思ったんですよね。
でも論点自体が正しくても、掘り始めた時に身体が貧弱で、「ここに絶対埋まってるのにパワーが足りなくてたどり着かない」というような状況になったら、それはそれで悲劇すぎるので、もちろんちゃんと筋トレもしておく必要はあります。筋トレって大変じゃないですか。辛いし。でもなんで俺は筋トレしてるんだっけ、と。やっぱり、その辛い時に寄りかかる原動力が必要で、その熱量の大きさが、全ての源なのかなと思います。
誰よりも早く正しく論点を見極めて、他の人よりもパワフルに掘ることができる。それができれば、高い確率で成功する。ロジックとしては、シンプルにそういうことだと思います。
>第5話「本気で世界一を獲りにいく挑戦が始まる」に続く
>第3話「秋元康がパートナーに求める条件とは」に戻る
>SHOWROOM公式HPはこちら
著者 小縣 拓馬
起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。 ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~
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