#人事・組織
2013年11月の東証マザーズ上場以来、21四半期連続の前年比増収増益と躍進を続ける株式会社じげん。2018年6月には東証一部への市場変更も果たした。そんな同社の成長を牽引する代表取締役社長CEOの平尾丈氏に、起業家に求められる素養、成功する事業の作り方などについて聞いた(全2話)
企業価値を最大化させる「ベストな布陣」
――御社は上場後、M&Aをうまく活用して成長されています。M&Aを成功させるために気をつけていることをお聞かせください。
大前提として「伸びしろのない企業」は買いません。競争にさらされにくく、継続成長が見込める会社を買うことを徹底しています。
その上で、弊社のポートフォリオをトータルで見たときに、環境変化があったとしても対応できる布陣かどうか、というのを見ています。
これまで12社M&Aをしてきましたが、その裏では700以上の案件を見てきました。社内に数名の会計士を抱え、徹底的にデューデリジェンス(以下、DD)をしています。それだけ、前提となる見極めは厳しく行なっているのです。
外から見ると弊社の業績は創業以来、綺麗な右肩上がりを達成していますが、中身の各事業・各会社の個別業績を見ると上下に変動しています。
最初からそれらの変動を想定し、「ベストな布陣」を考えてM&Aしているからこそ、結果的に会社の価値最大化にコミットしてこられたのだと思います。
――M&A後のPMIに関しても御社ならではの工夫があればお教えください。
弊社の場合は、事前のビジネスDDと事後のPMIに関しては、基本的に同じ社員が担当しています。対象会社が当社のグループに入った時にそのグループ会社の社長になるような者、PMIの責任者になる者を社内から選抜してDD段階から入ってもらい、彼ら、彼女らが対象会社を徹底的に見ることによって本当にM&Aをすべきかを判断します。そうすることで、当事者意識をもって経営に当たる人材を育てることができます。
その上で、毎週の各グループ会社社長と私を含めた経営会議は5、6時間にも及びます。毎回が私と彼らとの「戦場」になっているのです。
おかげで、弊社で経営を経験したメンバーは、外部から経営者としてオファーがかかることもしばしばあります。それだけ本気で経営と向き合い続けるのが「じげん流」です。
「変わるもの」と「変わらないもの」を明確に示す
――グループ全体で組織が530名規模まで拡大する中で、メンバーの意識を揃えるために工夫していることはありますか?
私たちはグループ各社を含めた群経営をしているので、組織マネジメントの難易度は単一事業の会社よりも高いです。そのことを前提に、単一経営ではないあり方を模索し続けています。
例えば、じげんは経営理念として「OVER the DIMENSION ― 次元を超えよ!」を掲げていますが、これをグループ会社には押し付けていません。それぞれの会社で独自のビジョンメイキングをしているのです。
カルチャーは「変わるもの」だと定義していて、「カルチャー・コングロマリット」という言葉で表現しています。じげんのような若い会社のカルチャーを、老舗企業に無理に押し付けても上手くいきません。それぞれの伝統や文化を重んじて、良いところは残していく、という方針をとっています。
一方で、グループ全体の北極星として「変わらないもの」と定義しているのが基本理念です。
“ZIGExNは、生活機会の最大化を目指し、インターネットを通じて宇宙(せかい)をつなぐ『場』を提供することで、社会との調和を図り、共に持続的発展を追求していく。”
これは呪文みたいなもので、経営者が変わろうが絶対に無くなりません。
「変わるもの」と「変わらないもの」の線引きを明確にし、「変わるもの」に関してはそれぞれの会社で決めてもらう。
現時点ではこのやり方で急成長してきているので、最適解に近いものが出せているのかなと自負しています。
「事業家集団」が持つ競争優位性
――「事業家集団」という言葉を掲げられています。この言葉が生まれた背景についてお聞かせください。
「起業家集団」とも「経営者集団」ともせず、あえて起業家と経営者の二律背反的な部分を昇華できそうな「事業家集団」という言葉を選びました。
T型人材と言われるように、軸には独自の技術やスキルを持ちつつも、起業家マインドを持ち合わせている人材が「事業家」です。エンジニアでも、コーポレートスタッフでも成り立ちうる人材像だと考えています。
――事業部門のみならず、すべてのメンバーが起業家マインドを持ち合わせている、ということなのですね。
事業会社って構造的に事業部門が強くなりがちですよね。いわゆるコーポレート側、経営企画や経理、広報、人事といった部門の発言力はどうしても弱くなってしまう。
だからこそ、弊社は逆説的に、コーポレート側にも「事業家」を配置することで競争優位性を作れると考えています。
例えば、CFOの寺田を配置しているのも、その意図の表れです。寺田は外資系証券会社でセルサイドアナリストをやっていた人間です。IRのプロである彼が起業家マインドも持ち合わせているからこそ、株主の期待を超えられるようなストーリーを描くことができるのです。
そういった希少価値の高い「事業家」人材の活躍が「事業家集団 じげん」を形作っています。
経営学のアップデートに挑戦し続ける
――じげんの今後のチャレンジについてお聞かせください。
今よりも「領域を広げたい」と強く思っています。
よく企業価値を測る際に「コングロマリット・ディスカウント」という言葉が使われます。それは事業を多数展開するほど経営資源が分散し、個々の事業競争力が低下するという考えです。
私はここでも逆説的な仮説を持っていて、「コングロマリット・プレミアム」とも言うべき、競争優位性が作れると本気で考えています。
今の弊社が成長しているのも、現状ではまだ小規模ではあるものの、事業のオペレーションシナジーが起きているからです。個別事業でうまくいった施策を瞬時に横展開しているからこそ、単一で事業展開している時よりも早い事業成長を実現しています。
一般的に「領域を絞った方がいい」と言われるのですが、私はその一般論を差し置いてでも「領域を広げ続けたい」。これがじげんのチャレンジであり、成長し続けることで仮説を証明していきたいと思っています。
――では最後に、若手起業家、もしくは起業家マインドを持った起業家予備軍に向けたメッセージをお願いいたします。
私が大学の頃に起業してしばらく経つのですが、やっぱり起業家という仕事がやめられずにこれまでやってきました。最近は経営者と呼ばれることも多いですが、気持ちはまだ「起業家」であると思っていますし、生まれ変わっても起業家でありたいと思っています。
皆さんが見ているところから一歩引いて、自分なりの正解を作りに行ける。それが起業家の醍醐味だと思いますし、今回はそんな話をいっぱいさせていただきました。
起業家という職業に誇りを持っていただいて、自分なりの「経営の補助線」を引いていただきたい。そして一緒に、経営学をアップデートしていけたらなと思います。
■読者のみなさんへのメッセージ
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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