#起業家の素養
『途上国から世界に通用するブランドをつくる』というビジョンのもと、バングラデシュをはじめとしたアジア6か国でのものづくり、そして国内外38店舗を展開する株式会社マザーハウス。2006年の創業以来、代表の山口絵理子氏とともに同社を牽引してきた山崎大祐 代表取締役副社長に、経営者の素養、世界で通用する事業作りについて聞いた(全6話)
経営者人生を変えた「事件」
ーーこれまでゼロから600名規模の会社に成長する中で、経営者としてぶち当たった壁などがあれば教えてください。
私にとって一番大きかった壁は起業して5年目の頃、社員が日本に30名ほどいて事業規模2〜3億円くらいのときでした。
何があったかというと、スタッフが連続して2名退職してしまってその穴埋めをどうするかメンバーで話し合っていたときに、「山崎さんが価値観や働き方を押し付けてるせいであの2人は辞めました」とメンバーから言われてしまったんです。
当時は会社もギリギリのところでやっていて、長時間労働でも給与は月18万円といった状態。そんな中で私は私なりに誰よりも会社のために一生懸命仕事をしていたつもりでした。
私も言いたいことはたくさんありましたが、そこはぐっと堪えてメンバー全員の意見を聞き続けました。2時間くらい経営者としてダメ出しをされ続けたんじゃないかと思います。
そしてそのきっかけを経て「自分が変わらなきゃいけない」と覚悟が決まったんです。
ーーどの部分を変わられたのでしょうか?
私は新卒でゴールドマン・サックスという外資系金融に4年間勤めていたので、気づかぬうちにそのカルチャーが自分に染みついていました。
外資なのでみんな意見があったら包み隠さずに言うし、若くても優秀であれば抜擢されるのが当たり前の実力主義社会。だからこそ、自分の意見や不満があるなら誰でも言うだろうと自然と思ってしまっていたんです。
そのカルチャーや働き方を押し付けるのではなく、マザーハウスに合った働き方をつくる。何事も自分でやろうとするのではなく、この会社で働きたいと思ってくれているメンバーのために働くことこそが私の役割だと180度考え方が変わりました。
会社の「未来」を信じて「今」の行動を決める
ーープレイングマネージャーから権限委譲を進めて経営者になる、という過程だったとも言えそうです。とはいえ、変わるのは簡単ではなかったのではないでしょうか?
さきほどの件があってからの4年間くらいが自分の経営者人生で一番しんどかったですね。とにかく「我慢」の期間でした。
重要な局面で自分がやった方が早いと思うことでも、意識的に我慢してメンバーを信じて待ちました。メンバーがトライアンドエラーしながら成長するまで、とにかく忍耐が必要な期間で苦しかったですね。
ーーその我慢の時期を乗り越えられたポイントはなんだったのでしょう?
それは「数値をベースに未来を信じきれた」からでした。もう少し具体的に言うと、メンバーが精神的にも経済的にも楽に働けるサステイナブルな会社にするためには、売上を10億円にすれば良いということが確信できたのです。
ここでは私の前職での経験がいきました。ビジネスプランをエクセルで緻密にモデルを組んであらゆるパラメーターを振って計算したのです。そしてメンバーのサステイナビリティを考えた上ではじき出された「ブレークイーブンポイント」が売上10億だったのです。
ーーただでさえメンバーは一生懸命働いているのに、「売上を5倍に」と言うと反発もありそうです。
もちろん大ブーイングでしたね。
でも数値を丁寧にブレークダウンして、10億円いかないといけないんだという根拠を何度も説明し続けました。そして結果的には売上10億円を突破し、会社としてワンランク上のステージに立つことができたのです。
信じきれる数値を持つこと。そして仲間の成長を信じきること。この苦しい時期の経験が、私を経営者として一回り成長させてくれたと思っています。
ーー組織が30人規模のタイミングで権限移譲を進め、プレイングマネージャーからマネジメントに専念するようになったのですね。
ここで気をつけないといけないのが、マネジメントだけしていてもダメということです。組織が大きくなっても経営者が現場に介入すべきポイントがあります。
2つポイントがあって、1つめは「ゼロイチで事業立ち上げ」するとき。例えばマザーハウスの場合、海外に初出店する際には私と代表の山口、そしてカントリーマネージャーの3名である程度のところまではトップダウンで進めています。
2つめのポイントは「会社の危機的状況」。領域は限られませんが、危機的状況を見つけたら自らプレーヤーになって打開していきます。
会社のステージや状況によって経営者自身が介入すべき局面と、メンバーを育て任せるべき局面のウェイトは変化するもの。「今」と「未来」のどちらを優先して行動するか。このバランス感覚が経営者にとって大切だと考えています。
>第5話「ファン作りは「お客様の『ために』から『共に』の時代へ」に続く
>第3話「「0から1をつくる」創業期の役割分担方法とは」に戻る
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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