#人事・組織
「Supporting Doctors, Helping Patients.」をミッションに掲げ、国内医師の3人に1人が参加する医師専用コミュニティサイト「MedPeer」を運営するメドピア株式会社。現役の医師・医学博士でありながら、起業家として上場まで会社を導いた、同社の代表取締役社長 石見陽氏に、起業家として重要な素養や、コミュニティサービス立ち上げのポイントを聞いた。(全6話)
医療不信全盛期に湧き上がった「外向きの志」
——起業家にとって、重要な素養を3つあげるとすると何でしょうか?
私の場合は「志」、「パッション」、「徳(人として当たり前のことをする)」の3つです。その中でも、1つ目に挙げるべきはやはり「志」だと思います。
ひと口に「志」と言っても、様々なベクトルのものがあります。世の中をどう変えていきたいかという「外向きの志」と、自分や組織がどうありたいかという「内向きの志」。このどちらも「志」ですが、最初に「外向き」、次に「内向き」という順序で持つことが重要だと思います。
石見陽/1974年千葉生まれ。1999年に信州大学医学部を卒業後、東京女子医科大学病院循環器内科学に入局。医師として勤務しながら、2004年12月に株式会社メディカル・オブリージュ(現メドピア株式会社)を設立し、2007年8月に医師専用コミュニティサービス「MedPeer」を立ち上げ。2014年6月に東証マザーズに上場。2015年6月には国内の医師の3人に1人にあたる会員数10万人を突破。現在も週1回の診療を継続し、医療現場に立ち続ける一方、メドピア株式会社・代表取締役社長として、同社を牽引。
——「外向きの志」を持つきっかけとなった出来事はどのようなことでしょうか?
きっかけは、創業当時の日本の医療を取り巻く社会背景です。
私が創業した2004年は医療訴訟が日本で一番多かった年でした。まさに医療不信全盛期で、「医師は信用ならない」「縦社会で隠蔽体質」などとマスコミが毎日のように報じており、世間の皆さんもそういった報道を目にする機会が多かったのではないでしょうか。
しかしながら、自分も含めた周囲の医師の現実を見てみると、休日も関係なく早朝から深夜まで、本当に真剣に働いていました。そうした世の中の認識と、医療現場の現実の間にある大きなギャップを何とかして埋めないといけない、と思い立ったのが創業のきっかけです。
そうした課題意識から2007年に立ち上げた「MedPeer」という医師専用コミュニティサービスは、医療不信の社会でも頑張る医師にとって、医師同士だからこそ話せる悩みや疑問を共有する場として非常にニーズがあるはずだと信じていました。なおかつ医師には一人の患者を治すのに、様々な専門科の医師が集まって情報共有しながら診ていく「シェア」の文化が根付いており、コミュニティサービスに非常にマッチしている業界だなというのも直感的に感じていました。
2004年に創業した当初は、サイドビジネスとして週1日程度の時間を事業にあてていただけでしたが、このMedPeerを立ち上げることを決めた2006年の冬には会社経営を本気でやっていこうと決意しました。
——「志」の重要性はどのような場面で感じられたのでしょうか?
創業時からぼんやりと心では思っていましたし、周囲にも言っていたのですが、それをよりしつこく、粘着質に周囲に伝えようと思い始めたのは、2011年の震災後のことです。
震災後の半年くらいが経営人生の中で最も厳しい時期で、サービスも売れない、内部で反目が起きて人も去ってしまう、資金繰りもままならないという、ヒト・モノ・カネの三重苦でした。簡単に言えば会社存亡の危機です。
その苦しいタイミングに震災も重なり、改めてなぜこの事業をやっているのかを深く考えました。そして、「自分はこういう世界を実現したいからやっているんだな」と改めて強く思い、それをメンバーにも繰り返し伝え続けるようになりました。病院には目の前の患者さんを救う、という誰も疑わない暗黙の存在意義がありますが、会社にはそれぞれの存在意義が必要です。その「志」に対する情熱は、持っていることも重要ですが、それがメンバーにも伝わらないと意味がないということに気づかされたのが、この時期でした。
経営へのコミットを後押しした、「本」と「人」との出会い
——元々ビジネスとは縁遠い医師という仕事から、なぜ起業という発想に至ったのでしょうか?
『ビジョナリーカンパニー』(ジム・コリンズ著)という本との出会いが大きかったです。この本では、偉大な企業というのは、「理念の最大化」と「利益の最大化」、どちらも備えているものであると書かれています。
医療界の人間は、どうしてもビジネスというとお金儲けという印象で敬遠する傾向があります。しかし、事業というのは利益も最大限追求するけれど、そのためには理念も最大限追求しないと、人もお客様もついてこない。逆に利益を最大限追うからといって、誰かを騙していいというわけではない。こういった考え方が自分の中でしっくりときて、ビジネスの世界に飛び込もうと決めることが出来ました。
他にも、私が親から受けた教育の影響も大きかったかもしれません。
メドピアの前社名は「メディカル・オブリージュ」でした。名前の由来はヨーロッパの貴族が大切にしている「ノブレス・オブリージュ」という言葉で、普段恵まれた生活をする人(ノブレス=高貴な人)には、戦争になったら最前線で戦う責任(オブリージュ=義務)が伴うという考え方を表しています。
私の親はその言葉自体は知らなかったのですが、まさにその考え方を幼い頃から教えてくれました。実家は裕福ではありませんでしたが、子供三人ともしっかりと教育の機会をもらい、おかげで医学部まで進めてもらうことができました。進学といった節目節目のタイミングで、親からは「勉強の機会が欲しくても無い人もいる。あなたはそのチャンスを与えてもらったのだから、世の中に対してちゃんと貢献しなさい。」ということを言われ続けていました。
もちろん患者を診るというのが医師にとって一番の社会貢献ですが、それ以外の貢献の仕方もあってもいいと思っています。私は今でも医師を辞めているつもりは全くなく、会社経営という仕事も、医師としての社会貢献の一環であると常に思っています。
——サイドビジネスとして創業してから本業になるまで、2年ほど期間がありますが、なにか後押しとなるようなことがあったのでしょうか?
やはり『ビジョナリーカンパニー』を読んで、利益を最大限あげて、それを再投資して世の中にさらに貢献していく、という考え方になれたのは大きかったです。
また、コミュニティサービスのミクシィが上場(2006年)して成長していったタイミングでもあり、インターネットの力で世の中を変えられる、と感じられたことも後押しになりました。
最後の決め手は、とある先輩経営者に「いろいろな会社の経営スタイルがあるが、中途半端な会社が一番世の中に迷惑をかける。やるならプライベートな会社で小さく続けるか、パブリックになって成長するか、どちらかだ。」と言われたことです。
「本」と、親や先輩経営者といった「人」との出会いが、私が起業、そして経営へのコミットに踏み切る決め手になってくれたと思います。
>第2話「ビジネス経験ゼロからの出発。周囲に支えてもらえる起業家の素養とは」に続く
>メドピア公式HPはこちら
DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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