世界史に残るレベルの大きなビジョンを描く方法 五常・アンド・カンパニー 慎泰俊社長(第3話)

「世界史レベル」のスケール感

ーー「民間版の世界銀行をつくる」という、会社が目指すゴールのスケールの大きさが慎さんの特徴だと思います。

起業家は「できる」と思っている限界が人より大きい。例えば、イーロン・マスク氏は、自分が言っていることを心から「できる」と信じているように見えます。

では私がなぜ大きなビジョンを描けるようになった背景を考えてみると、学生の頃から古典や哲学、社会思想などの本を数多く読んだ経験を通じて、世界史レベルの「スケール」の大きさに慣れていたからだと思います。仏教やキリスト教などは人類が考えうる最も大きなビジョンを掲げていますよね。ブッダやキリストやムハンマドが成し遂げたことからすれば、私たちの目標なんて小さなものだと思います。

大きさに加えて、ビジョンを実現できると起業家自身が確信しているかどうかも非常に重要で、起業家自身が本気で信じることができていないと周りからすぐに見透かされます。

すごく印象に残っている思い出として、弊社社外取締役の琴坂が参画する前に「本当に民間版の世界銀行ができると思っているの?」と聞かれたことがありました。それに対して私は、「民間版のアジア開発銀行はできる。民間版の世界銀行になるにはいくつか課題があるけど、やればできると思っている」と伝えました。

子どもの頃から、周りの人が「無理だよ」と言われたことをやってきたので、だいたいなんとかなると思っているのかもしれないですね。

 

ーースケールの大きさに加え、「2030年までに民間版の世界銀行をつくり、ほぼ全ての途上国で1億人以上に金融アクセスを提供する」と、数値目標が盛り込まれているのが印象的です。

私たちが手がける金融サービスは比較的数値目標が立てやすい事業だという側面はあると思います。

融資を受けられない、預金口座を持てない、安心して病院に通える保険がないような人たちは世界に20億人以上いるとわかっています。ペインを感じている人の数を計算できているので、このうち何割の人々の課題を自分たちが解決出来るかと考えれば自ずと数値目標が生まれます。

私は数値であれなんであれ具体的な目標を持つことは大切だと思っています。数字があるからこそ、人は真面目にその実現方法を考えます。

私は起業前に1,648km走って本州を縦断しました。もし目標を立てなかったら、家の周りを10kmくらい走ってそれで満足していたと思います。それでも十分な距離です。一見するとできるかどうか分からない目標を立て、その実現に向けて一生懸命に考えるからこそ、それは実現可能になるのです。

 

「ロバストな思考」の構築術

ーーこのゴール設定は創業初期から考えていらっしゃったのでしょうか?

はい。創業初期に作った事業計画書は、今読み直してもかなり精度が高いなと思います。少なくとも過去5年間は予定通りでした。こういった「ロバストな思考」というのは、時間をかけて作られると思っています。

例えばニュートンの「プリンキピア(全3巻。1687年刊。力学の一般法則を定式化したもので、ニュートン力学の体系を確立し近代科学の基礎となった)」は、彼が10ヶ月ほど引きこもって書いたものだと言われています。あれだけの天才ですら、それだけ時間をかけないと大きな思想は作れない。

私の場合は考えるスピードが早い方ではないので、「ロバストな思考」を組み立てたいときはゆっくり時間をとって考えます。最初の事業計画を作った時も、2〜3ヶ月引きこもって作りました。

 

ーーそれだけの時間を確保するために工夫していることはありますか?

今ちょうど新しい中期計画を練っているタイミングなので、できれば1ヶ月くらいバケーションをとってどこかに引きこもりたいところなのですが、なかなかそう簡単には行きませんね。ただ、職業柄飛行機によく乗るので、一人きりで考える時間が長くあることは有り難いです。

多忙な起業家にとっては暇を確保するのは大変ですが、大きな思想・構想をつくり上げるためにはまとまった時間が必要というのが私のモットーです。その場で瞬発的に思考することと、時間がかかっても色褪せない思考をすることでは脳のモードが違うんですよね。歴史を見ても、慌ただしく過ごしながら100年以上残る思想を残した人を私は知りません。

 

 

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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