徹底した顧客起点で「保育業界のDX」を成し遂げる ユニファCEO 土岐泰之(第2話)

「家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す」をパーパス(存在意義)に掲げ、次世代型保育施設「スマート保育園®」というコンセプトを軸に、午睡センサー、フォトサービス、体温計、シフト管理などのサービスを通して、保育業界全体のDXを牽引するユニファ株式会社。累計資金調達額は約90億円に上る。そんな同社代表取締役CEOの土岐泰之(とき やすゆき)氏に、起業家の素養や事業成長のポイントなどについて聞いた。(全4話)

「顧客起点」を決して妥協しない

ーー先ほどの創業秘話で、顧客起点で創業されたのが印象的です。顧客起点を徹底する上で意識されているポイントがあればお聞かせください。

まず私たちが幸せにしたい顧客がどんな人たちで、どうすれば幸せになるかということを言葉だけじゃなく、写真なども使ってどんどん共有するようにしています。

例えば子どもが初めて靴を履こうとしている瞬間の写真です。この瞬間を写真に撮ろうとしても、保育者の方は普段忙しすぎてできない。しかし私たちのサービスを使うことで、こういった感動的な瞬間を写真にすることができます。

ほかにも感動的な瞬間が保育の現場には溢れています。毎月開催している全社会議で感動のストーリーを私は語り続けているのですが、2回に1回くらいは、私が泣いてしまうほどです。こういった顧客の成功の物語、成長の物語を共有することで、「この瞬間を増やすために何ができるだろうか?」という顧客起点の発想が組織に広がっていきます。

次のポイントは顧客の幸せを心の底から実現したいと思っている人を採用すること。

私は採用面接でも子どもたちの写真を見せながら「この写真どう思います?」とフランクに聞きます。写真の前後に、顧客にとっての物語があることに想像力が働くかどうかは非常に重要なポイントだからです。

顧客のストーリーを語り続けること。そして、そのストーリーを真に実現したいと思う人財を採用すること。その繰り返しが、顧客起点の組織カルチャーを作っていくのだと考えています。

 

ーーフォトサービスから始まり、現在は午睡(昼寝)チェックや保育ICTなど事業の幅を広げています。事業立ち上げに気をつけるべきポイントはありますか?

大切なのは「少し改善」するくらいのレベルだと顧客は感動してくれないということ。

例えば午睡チェックも、手書きがアプリに変わったくらいでは大して生産性は上がりません。弊社は最先端の体動センサーを導入することで、目視と機械のダブルチェックによって午睡時の見守りの質を高めると同時に、紙への転記作業をアプリで自動記録するなど業務負担を削減しました。これくらい「劇的な改善」があってこそ、顧客は感動してくれるのです。

よくある失敗例が、プロダクト開発途中で自分たちの都合の良い方向に解釈し始めること。実現しやすい安易な解に着地してしまうことです。

先ほど申し上げた午睡チェックも、弊社はIoT医療機器を提供するという、複数の観点から大きな一歩を踏み込みました。

体動センサーはアメリカの会社のものを使っていますが、検討時には南アフリカのスタートアップにも交渉に行きました。それくらい、顧客への提供価値に一切の妥協をしなかった自信があります。

そこで妥協しなかったからこそ、保育者の業務負担を軽減しながらも子どもを安全安心に見守ることができる、唯一のプロダクトとして使っていただけています。

顧客が感動するようなサービスが見えたなら、在庫リスクだろうが医療機器だろうがグローバル交渉だろうが、妥協せずにやりきる。それが顧客から選ばれる商品の作り方なのだと信じています。

 

「泥臭い人間関係」をあえて重要視する

ーー創業100年以上の老舗出版社フレーベル館との提携など、大胆な他社連携で事業を拡大されています。提携を成功させるうえで意識されているポイントをお聞かせください。

1つめのポイントは経営レイヤーで深く関わりあうこと。

例えば、フレーベル館さんはアンパンマンなどの絵本をはじめとして日本中の保育施設に強力な営業網を持つ会社ですが、物売りからソリューション売りへ事業転換していきたいという経営課題を抱えていらっしゃいました。そこで私たちのICT事業の販売代理店になっていただくことで様々なソリューション提案が可能になり、経営レベルでWin-Winの関係を築くことができています。

さらにフレーベル館さんの親会社である凸版印刷さんから弊社に出資いただいたことで、今ではフレーベル館さんの中期経営計画の策定に私たちも深く関与するレベルにまで、経営レイヤーが深い関係性を構築しております。

2つめは現場管理職レベルで深く関わりあうこと。

フレーベル館さんは福岡や札幌に営業拠点があるのですが、そこに弊社の営業部長が入り込んで支店の営業成績をどう上げるか一緒に議論するなど、支店長としっかり人間関係を作っています。

最後は現場メンバーが深く関わりあうこと。そうやって上のレイヤーから順に“ 泥臭い人間関係”を作っていくことを大切にしています。

若いベンチャーが大企業や老舗企業に、ちょっとやそっとで信頼してもらえるはずがありません。弊社とフレーベル館さんの関係がここまで濃いものになるまでも5年ほどかかりました。

しかしそんな“濃密な人間関係”を作れたからこそ、結果的に弊社単体でサービスを売るよりもはるかに効果的に成果を出すことができているのかなと思います。

 

ーーリクルート社から保育園ICT事業「キッズリー」を事業買収されているのも印象的です。

これも元々はキッズリーの販売代理店だったフレーベル館さんに事業売却の話がまずあり、そこから弊社も絡んで実現した話です。

キッズリーに関しては顧客基盤とICTプロダクトだけを引き受けたこともあり、PMIは本当に大変でした。それでも顧客基盤やICTノウハウという大きな資産を私たちにとって適正な価格で買えて、その後、フレーベル館さんと一緒に伸ばしていくってことができています。

このようなロールアップを成長戦略するに据えるベンチャーは多くありませんが、私たちは業界全体のDXを成し遂げるべく様々なプレーヤーを巻き込み、難易度の高いことに挑戦し続けていきたいと思います。

※インタビュー記事は2021年6月10日現在の内容です

 

 

 

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DIMENSION 編集長

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「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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