#インタビュー
「SUStainable MEDicine」を冠した社名の通り、ICTの活⽤で「持続可能な医療」を⽬指すサスメド株式会社。デジタル医療プラットフォームを活⽤した「治療⽤アプリ開発」「臨床試験⽀援」を軸に急成長を遂げ、2021年には上場も果たした。同社の上野太郎(うえのたろう)代表取締役社長に、起業家の素養、事業成長のポイントなどについて聞いた。(全3話)
"Nice-to-have"ではなく"Painkiller"を作れ
ーーDTx(デジタルセラピューティクス)の領域はまだまだ日本に事例が少ない中で上場を果たされました。どのようにして事業を構想していくことが重要でしょうか。
DTxは数ある治療手段の一つです。なので事業開発においては、モダリティ(治療手段の種別)開発の考え方が参考になると考えています。
新規モダリティ開発においてはまずニーズがあって、かつ既存モダリティでは解決できないこと、Nice-to-have(あったらいいな)ではなくPainkiller(お金を払ってでも解決したい悩みを解消するような魅力的なもの)であることが重要であるとされています。
つまりDTx開発においても、既存の治療法では解決できないメディカルニーズをDTxという手段で解決できるのかどうかがすべてであり、それが満たされていないDTxは普及しえません。
ーー創薬同様に、どの疾患を対象としていくのかの市場選定が重要かと思います。選定の際に大切にされていることがあればお聞かせください。
まずはアンメット・メディカル・ニーズ(満たされていない医療ニーズ)から入ること。実際にどの程度ニーズがあるかを見極めることです。
これは製薬メーカーにおける新薬開発も同じ判断基準だと思います。
患者数やマーケットサイズだけでなく、既存の医薬品では解決できないニーズがあるかどうか。マーケットが小さい、いわゆる希少疾患と言われるような疾患に対してでも、強烈なアンメット・メディカル・ニーズがあるのなら、そこは検討する価値があるのです。
私たちも製薬メーカー同様に、いくつかパイプラインを同時検討するプロセスを事業開発に組み込んでいますが、アンメット・メディカル・ニーズが明確で、既存医薬品ではなくDTxだからこそ解決できるテーマを選定して開発着手しています。
ーーアンメット・メディカル・ニーズの強弱はなかなか定量的には判断しづらい部分かと思います。どのようにして見極めをされていますか?
アンメット・メディカル・ニーズについては臨床医としての感覚が前提としてありながらも、実際に医療現場で専門の先生方とコミュニケーションし、課題ヒアリングをさせて頂いています。
その上で事業開発メンバーと市場性や医薬品と比べた競合優位性を同時に見ていきます。
事業と臨床の両方の観点から総合判断して見極めをしています。
DTxを起点に「医療全体を変えるプラットフォーマー」へ
ーー治験の推進についてお聞かせください。一般的に新薬は少人数の健康成人への投薬試験であるPhase I、少人数の患者への投薬試験であるPhase Ⅱ、多数の患者への投薬試験であるPhase Ⅲの3ステップで実行されます。DTxの治験における壁、重要となるポイントなどがあればお聞かせください。
やはり一番大きい壁は医薬品と同様でPhase Ⅲ、いわゆる検証的試験です。当然コストも時間もかかりますし、それをやる前の規制当局との議論も多く必要となります。
これについては市場全体として課題を感じている部分です。
治験業務は非常に労働集約的で、コストの大半が人件費。さらには日本の治験コストは欧米に比べて突出して高いと指摘されています。欧米に比べてバイオ領域への投資額が小さいにも関わらずそのような状況では、欧米との医療ギャップは広がるばかりです。
私たちがブロックチェーンを活用した臨床試験システムなどを展開しているのも、そういったギャップを改善し、迅速にPDCAを回せる土壌を作りたいと考えているからです。
DTx独特の壁で言うと、DTxは事例が少ないからこそ治験オペレーションが確立されていないという課題があります。
例えば医薬品の治験の場合は「プラセボ」という偽物の医薬品と本物の医薬品を患者・医者のどちらもが分かっていない状況で比較試験する手法が一般的に確立されています。
しかし、それをDTxでやろうとすると難しい。ゆえに私たちは自社で治療⽤アプリ開発プラットフォームを開発し、知財・ノウハウを蓄積しています。
ーー自社がDTxを開発されるだけでなく、プラットフォーマーとしての志向が強い印象です。その点について詳しくお聞かせください。
私たちはプラットフォームとして大きく3つ持っています。
1つめは治療用アプリを開発するためのプラットフォーム。
新しい治療用アプリを開発する際に、スクラッチでゼロから作るとコストと手間がかかるところを、モジュールベースで組み合わせてアプリをローコストで作れるシステムです。
2つめが医療ビッグデータ分析プラットフォーム。
DTxの価値の1つとして「データが生み出される」というものがあります。これまでは医療機関を受診した時にしか発生しなかった医療データですが、DTxによって患者が自宅にいる時も日々生み出されるようになります。
このビックデータは、将来的にデータ蓄積されることで非常に大きな価値になりますので、我々はデータを蓄積し、分析・活用するクラウドサービスを提供しています。
3つ目がブロックチェーンを活用した臨床試験効率化プラットフォーム。
これはDTxに限った話ではなく、医薬品・医療機器全般に対して、臨床試験の効率化に貢献するプラットフォームです。
医療全体に貢献することを考えると、DTxはまだまだ小さな領域です。医薬品も含めた治験効率化全般にテクノロジーで貢献できればと思っています。
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DIMENSION 編集長
「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。
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